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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年3月号

平成22年度予算概要を見て

山岡修

1 発達障害を巡る最近の動向

平成17年4月に発達障害者支援法が施行され、発達障害者に対する支援を国および地方公共団体の責務と定められた。この法律に基づき、厚生労働省は、各分野で発達障害支援施策に取り組んできており、平成19年度には発達障害者支援センターの全都道府県の設置が完了する等、発達障害者に対する支援はここ数年で大きく進展した。

平成20年12月に公表された社会保障審議会・障害者部会の報告では、発達障害を障害者自立支援法の対象として明確化することなどが提言された。障害者自立支援法の改正案は21年度通常国会に上程されたものの、ほとんど審議されないまま会期末を迎え廃案となった。平成21年8月の総選挙で、民主党が政権与党となり、障害者自立支援法を廃止し、新制度の設計に着手方針が示され、平成21年12月には、鳩山首相を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」が設置され、翌1月には、「障がい者制度改革推進会議」が設置され検討が始められている。

本稿では、発達障害支援に関する厚生労働省関係の22年度予算内示額の概要と、これからの課題について触れてみたい。

2 平成22年度の厚生労働省、発達障害関係予算の概要

22年度予算は、民主党政権では初めての組成であり、「事業仕分け」に象徴されるように、全体として削減傾向で組まれているが、障害保健福祉関係予算全体では、1兆1,202億円と前年比12.7%の増加となった。その中で、発達障害関係の予算は、整理統合された事業もあるが、実質的には大きな削減とはならず、おおむね前年の事業を維持することができそうである。

(1)発達障害者の地域支援体制の確立 750百万円(前年880百万円)

発達障害の地域支援体制を各都道府県で整備する「発達障害者支援体制整備事業[200百万円(前年220百万円)]」は若干のマイナスとなった。その中で、保護者によるピアカウンセリング要員の養成事業であるペアレントメンター養成事業等が新たに組み込まれている。また、発達障害者支援センター運営事業は、地域生活支援事業の内数として確保されている。

(2)発達障害者への支援手法の開発や普及啓発の着実な実施

発達障害者への有効な支援手法の開発・確立を狙いとし、15地域でモデル事業を行う「発達障害者支援開発事業[390百万円(前年520百万円)]」、発達障害に関するナショナル・センターとして発達障害に関する知見の集積、HPの開設等を通じ情報提供、普及啓発活動を行う「発達障害情報センター事業[54百万円]」、発達障害施策に携わる職員に対する研修を、秩父学園、障害者職業総合センターで行う「発達障害者支援者実地研修事業[23百万円(新規)]」、国連が制定した「世界自閉症啓発デー」(4月2日)の周知と、自閉症をはじめとする発達障害に関する正しい知識の浸透を図るための普及啓発活動を実施する「世界自閉症啓発デー普及啓発事業[15百万円(前年15百万円)]」が確保された。

3 障がい者制度改革と発達障害

このように発達障害に対する支援は、ここ数年で大きく進展したもののまだ緒に就いたばかりであり、質・量ともにまだまだ不十分な状況にある。また、発達障害は障害者基本法や障害者自立支援法に明確に位置付けられていないなど、わが国の障害者制度の中で定位置を得るまでには至っていないというのが現状である。

前述のように、平成22年1月には「障がい者制度改革推進会議」が設置され、障害者制度の根本的な見直しについて検討が開始されている。しかし、この会議に発達障害の当事者や関係者は含まれていないことは、とても残念である。発達障害も障害者制度の対象であり、発達障害関係の代表者も入れてきちんと議論されことを望んでいる。

(やまおかしゅう 日本発達障害ネットワーク副代表)