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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年3月号

ほんの森

障害者総合福祉サービス法の展望

茨木尚子・大熊由紀子・尾上浩二・北野誠一・竹端寛編著

評者 横須賀俊司

ミネルヴァ書房
〒607―8494
京都市山科区日の岡堤谷町1
定価(本体3,000円+税)
TEL 075―581―5191
FAX 075―581―8379

09年8月30日の総選挙により政権交代が実現した。新政権は障害者制度の改革を推進するべく、障害者自身の意見が反映できる「障がい者制度改革推進会議」を設置した。また、新政権は、障害者自立支援法の廃止を表明し、2013年8月までに新しい総合福祉法制を実施するという方向のもと、「障がい者制度改革推進会議」での検討が進められることになっている。政権交代の実現により、障害者施策はこれまでとは異なる大転換を遂げようとしているのである。

このような動きを見越したかのように、実にタイムリーな時期に出版されたのが本書である。本書はポスト障害者自立支援法を念頭に、新たな「障害者総合福祉サービス法」を構想した内容になっている。なかなかの意欲的な仕事であるとは思う。このような具体案を提示し、新たな法の制定に向けた議論を巻き起こしていくには格好の材料となるだろう。その触発を受けた評者から一つの論点を提示してみたい。

本書は、障害者だけを対象にした福祉法を構想するが、障害者だけではなく、すべての人を対象にした、まさに「総合福祉サービス法」という方向での構想であってもよかったのではないだろうか。たとえば、ケアに関していえば、人は例外なく乳幼児から高齢者までの間で必ずケアを必要とするので、障害者に限定した仕組みにする必要はない。生まれた瞬間から死ぬまでの間、だれもが24時間のケアが無条件で保障される仕組みにすれば、障害認定や支給決定も不要となり簡素化されることであろう。もちろん、ケアが不要な状況になれば、一時利用停止にすればいい。評者は、このような制度のあり方をベーシック・インカムにならって「ベーシック・ケア」と呼んでいる。

今のような対象者別の福祉法のあり方では、いろいろな矛盾や無駄があるという指摘はこれまでにもされてきたところである。したがって、障害者だけにとどまらず、もっと大きな見地からの問題提起を含んだものであれば、さらに素晴らしい内容になったことであろう。とはいえ、評者がこのようなことを思いついたのも本書の存在のおかげである。本書をきっかけに、すべての人々にとってよりよい「総合福祉サービス法」が制定されるよう、さまざまな議論が巻き起こることを期待したい。

(よこすかしゅんじ 県立広島大学)