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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年5月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

NPO法人八王子ワークセンターの取り組み

土居幸仁

多くの障害者団体の賛同を受けて設立

八王子市には、知的の特別支援学校が3校、肢体の特別支援学校が1校、視覚の特別支援学校が1校と障害のある人たちの通う高等部がたくさんあります。そのため、卒後の受け皿としての小規模作業所も早くからたくさんでき、1981年には、その横断的な団体として八王子通所施設連絡協議会(以下、八通協(はっつうきょう))が発足しました。また一方では、日本で最初の自立生活センターであるヒューマンケア協会があり、当事者による障害者運動が盛んで、1987年には、通所施設だけではなく施設をもたない視覚・聴覚等の団体も含めて八王子障害者団体連絡協議会(以下、八障連(はっしょうれん))が設立されました。

八障連では、1993年より市から公園清掃の委託を受けて、小規模作業所の仕事を確保していましたが、徐々に事業が拡大し、運動体の片手間でやっていくことに限界が生じてきました。そこで、小規模作業所の仕事を獲得していく事業をより拡大するとともに、障害のある人たちの一般就労についても支援していくことを目的に、1987年、八通協と八障連が母体となって地域の多くの団体の賛同を受け、新たな事業体としての八王子ワークセンターが設立されました。

さまざまな事業で就労と社会参加を支援

設立より10年あまりが経ち、現在の団体会員数は70で、現在の事業内容は、図のようになっています。

図 事業内容
図 事業内容拡大図・テキスト

図の中に円が三つありますが、左の円は、個人を対象とする一般就労支援を、右の円は、団体を対象とする福祉的就労支援を、そしてその真ん中にある円は、障害者雇用を表しています。

一般就労支援については、具体的には「就労・生活支援センターふらん」が八王子市の委託を受けて、一般就労を希望する人からの相談を受け、就労前準備から就労後のジョブコーチの派遣を含めたアフターケアまで、さまざまな支援を行っています。

また、当初「ふらん」に併設という形で、「ふらん」を利用する人たちの就労前準備や就労がうまくいかなかった場合の一時的な受け皿として、市の地域デイグループ事業という補助事業を活用して「地域デイグループわくわく」を開設していましたが、現在「わくわく」では、一般就労をしている人たちの余暇支援に特化する形で事業を行っています。

福祉的就労支援については、障害のある人たちが利用する小規模作業所等の団体を支援しています。具体的には「かてかて」が窓口となって、行政等と委託契約を結んで団体に清掃業務を依頼したり、下請けの仕事を業者から受託して団体に発注したりしています。また、自主製品の販路を開拓したり、大口の注文を受注したりして、団体に納品してもらったりもしています。

最近では、都内唯一の道の駅「八王子滝山」に、「かてかて」の売り場を設けていただき、34もの団体が納品するようになり、後述する「はっち」やJR八王子駅かてかてショップも含め、自主製品の販売が「かてかて」の大きなウエイトを占めるようになってきています。

ちなみに、「かてかて」は私たちの造語です。山梨との県境の方では、混ぜご飯のことを方言で「かて飯」と呼んだことから、障害のある人もない人も、混ぜ混ぜの社会めざしていこう、という目標を表す言葉として使っています。もちろん「買って買って」という意味も込められているのですが。

障害者雇用については、具体的には「ペットボトル中間処理事業所リボーン」が、八王子市の委託を受けて、市が家庭より収集したペットボトルから異物を取り除き圧縮するという大変な作業を、40人ほどで行っていますが、その約半数が障害のある人たちです。

それから、三つの円が重なる事業として、「八王子市役所売店はっち」(以下、「はっち」)では、「ふらん」の登録者や福祉的就労についている人たちを対象に、職場実習を行っています。

また、公共施設である八王子市生涯学習センター(通称クリエイトホール)の1階では、小規模作業所の補助を受ける「クリエイト」が、駅前という立地を活かして、来館者をはじめとする多くの市民の方にお茶や軽食を提供する「喫茶クリエイト」を運営しています。

協働によって広がる事業

障害者自立支援法が施行され、小規模作業所等の工賃の低さが課題となっていますが、次のような他団体との協働により、少しずつ事業が広がり規模が拡大しています。

1.自治労八王子市職員組合との協働

前述しましたが、「はっち」での職場実習を10年あまり行ってきた結果、2007年からは、パートナーシップ協定を結び、売店そのものの運営にも関わらせていただき、以前から行っていた自主製品の販売についても、売り場をリニューアルしたり、取り扱い商品を増やしたりして、その売り上げアップが図られています

2.サイバーシルクロード八王子との協働

八王子市と八王子商工会議所連携のもと、主に中小企業の経営支援を行うサイバーシルクロード八王子ですが、その中の福祉ビジネス研究会の皆さんにご協力をいただき、2005年より、JR西八王子駅で「金曜かてかてショップ」と銘打って自主製品の販売を始めました。再開発のため西八王子駅でできなくなり、2007年からは八王子駅で開催し、多くの市民の方にご利用いただいています。

3.NPO法人チェロコンサートコミュニティ(以下、CCC)との協働

ガスパール・カサド国際チェロコンクールの事務局を務めるCCCより、コンクールの公式グッズを一緒に作りませんかという提案を受け、2009年、4団体で6アイテムを開発し販売しました。この協働事業では、第三者の視点を入れた商品の企画・開発を行うことができ、これまでにないグレードの高い商品を作ることができました。また、多摩信用金庫のご協力により、多摩物産展や東京ギフト・ショーにも出展させていただき、さまざまな業者の方から問い合わせをいただきました。2010年度には、民間企業も含めた新しい協働事業が生まれようとしています。

課題と今後の展開

小規模作業所の補助事業を活用している「クリエイト」や「わくわく」については、平成24年度以降の補助事業継続が不透明であること。「はっち」や「かてかて」については、そもそも継続的な補助や委託を受けていないので、財政基盤をどう確保するかが今後の課題です。

そこで、平成23年4月には、「クリエイト」「わくわく」「はっち」「かてかて」を一つの事業所として、障害者自立支援法の新体系に移行し、事業の継続と安定化を図ることを計画しています。

特に「かてかて」においては、新体系の事業所となることで、財源を得るだけではなく、新たに障害のある人たちの力を借りることによって、小規模作業所等の自主製品の販売における、商品はあるけれど販路がないとか、納品をしたり販売をしたりする人がいないなどの課題に対して、「かてかて」が団体へ仕入れに行ったり代わりに納品したり、いろんなところに出かけて行って販売したりといった直接的な支援をすることができるようになるのではないかと期待しています。また将来は、障害のある人たちの働く場として、自主製品を販売するアンテナショップとカフェを併設したようなお店を開店し、障害のある人もない人も、混ぜ混ぜの「かてかて」な社会への橋頭堡とすることを夢見ています。

(どいゆきひと NPO法人八王子ワークセンター代表)