「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年1月号
ワールドナウ
第4回APDF総会・会議、バンコクで開催
松井亮輔
はじめに
2010年10月17日(日)~18日(月)、バンコクのアジア太平洋障害者センター(APCD)の協力を得て、その会議室を会場に、第4回アジア太平洋障害フォーラム(APDF)の総会と会議が開催された。同総会などは、もともとはホーチミン市での開催が予定されていたが、その主催団体となるべきベトナム全国障害者連盟の設立が大幅に遅れ、準備ができないということで、急きょバンコクに変更されることになったものである。
同総会などがこのタイミングで開かれたのは、10月19日(火)~21日(木)にバンコクで開催される国連ESCAP社会開発委員会において、2012年で最終年を迎える第2次アジア太平洋障害者の十年(2003年~2012年)の後、つまり新十年の取り組みについて検討が行われることが決まっていたため、それに合わせて開催すれば、APDF関係者は両方の会議に参加できることと、社会開発委員会に対して、新十年への取り組みについてAPDFとして何らかの提案を行うことができるためである。しかし、開催時期や開催地が急に変わったこともあり、総会などへの参加者が全体で約60人と従来になく少人数にとどまったのは、きわめて残念であった。
総会で決まった主なこと
17日(日)の午後行われた今回の総会の主な目的は、1.現在は準会員として加わっている国際障害同盟(IDA)が正会員(正会員の条件は、役員の過半数が障害者であることと、会員の半数以上が障害当事者団体であることである。現在のAPDFはその条件をクリアしているが、そのことを規約に明記する必要がある)になるため、APDFの規約を改正するかどうか、2.役員の改選、および3.次期総会が開かれる2012年までの行動計画などを決めることなどであった。
IDAの正会員となるための規約改正については、APDFの会員構成の柔軟性を失うことのデメリットを考えれば、規約改正はもっと慎重であるべきという意見が強く、その決定は、次回の総会以降に先送りすることとなった。
役員の選挙では、現会長のカンダカー・J・アラム氏(バングラデシュ)、現副会長のサム・ヴェルソニ氏(フィジー)およびジョセフ・クウォク氏(香港)が再選されるとともに、新たに副会長としてヒュン・シク・キム氏(韓国)が選ばれた。キム氏は、9月に国連本部で行われた障害者権利条約に関する締約国会議で障害者権利委員会委員に選出されていることから、同委員会とAPDFの橋渡し役としての役割も期待される。
その他の役員としては、財務担当のP・T・リム氏(シンガポール)(再選)および8作業委員会(障害者権利条約とBMF、情報、次期会議、研究・開発、ジェンダー、障害のある子どもと青年、アクセシブル観光と交通、アクセシビリティとユニバーサル・デザイン)の委員長および副委員長が選ばれている。
また、筆者が事務局長、寺島彰氏(浦和大学教授)が事務局次長に留任すること、および事務局を引き続いて日本障害者リハビリテーション協会に置くことなども決まった。
その後行われたESCAP社会開発委員会で、障害者権利条約の履行をテーマとする新十年の実施を、今年5月に開催されるESCAP総会に提案することが決まったことから、現在の十年の政策ガイドラインであるびわこミレニアム・フレームワーク(BMF)およびびわこプラスファイブに代わる新たな戦略づくりがESCAPで始まることになった。APDFとしても他の関係団体と連携しながら、その戦略づくりのプロセスに積極的に関わることが、きわめて重要と思われる。
会議で行われたパネルディスカッション
翌18日(月)の午前には、「アジア太平洋地域および他地域における障害分野での新たな展開」というテーマでのパネルディスカッション、午後には、「第2次アジア太平洋障害者の十年の終了およびその後に向けて、APDFが地域的、世界的にどのような貢献ができるか」というテーマでのパネルディスカッションがそれぞれ行われた。両方ともアラムAPDF会長、ヒュン・シック・キム障害者権利委員会委員、ニノミヤ・アキイエAPCD所長、サワラックDPIアジア太平洋事務局地域開発担当、セタラキ大洋州障害フォーラム(PDF)会長、アティフ・シェイク南アジア障害フォーラム(SADF)会長、イルヨン・リー氏(2012年APDF総会および会議組織委員会委員長・国際リハビリテーション協会アジア太平洋地域担当副会長)がパネリストを務めた。
年内には、アセアン加盟国の障害者団体から構成されるアセアン障害フォーラムが結成されることから、APDFとしてはPDF、SADFおよびアセアン障害フォーラムなど、小地域の障害フォーラムおよびAPCDなどと密接に協力・連携しながら今後の活動を展開する必要があることが、このパネルディスカッションから明らかとなった。
APDFバンコク声明2010の採択
会議の最後に、APDF役員会のメンバーを中心とした起草委員会で起草された「APDFバンコク声明2010」が提案され、一部の字句を修正した上、採択された。同声明は、新十年の効果的な実施とそのモニタリングをする上で留意すべき重要事項などについて、ESCAP社会開発委員会への提言として取りまとめられたものである。
APDFバンコク声明の主な内容は、次のとおりである。
1.新十年のテーマは、障害者権利条約および総合的なインクルーシブ開発(つまり、障害者もターゲット・グループに含む開発。そのためには開発の計画段階から障害者の参加を得て、それを障害者にとってインクルーシブで、アクセシブルなものにすることが求められる)の完全実現に向けた新十年(2013年~2022年)とすべきである。
2.新十年の地域政策戦略は、ESCAP地域および小地域機構ならびに既存の、および新たな小地域プラットホームとの密接なパートナーシップのもとに実施すべきである。
3.新十年の地域政策戦略は、新たなイニシアチブや資金、あるいはESCAP加盟国、とくに先進国および新興国を通して十分な財源や専門知識により支援されなければならない。
4.ESCAPは、主としてメインストリーム分野に関わるものも含め、調整・同調した計画を策定するため、すべての関連国連組織との協働関係を強化すべきである。
5.ESCAPは、新十年を推進するにあたって、障害者団体、NGOおよび国際NGOとのパートナーシップをさらに強化すべきである。
6.ESCAPは、新十年の推進にあたって、市民社会、開発機関、政府開発援助(ODA)機関および実業界とパートナーシップを強化・発展させるべきである。
7.ESCAPおよびESCAP加盟国は、新十年の実施において、すべての障害者および障害者団体の完全参加を支援すべきである。
なお、APDFの次回の総会および会議は、2012年10月29日~11月3日に行われるESCAP第2次アジア太平洋障害者の十年最終年評価ハイレベル政府間会合に合わせ、韓国・インチョンで開催されることがすでに決まっている。
(まついりょうすけ APDF事務局長、本協会副会長)