「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年1月号
ほんの森
家族という視点
精神障害者と医療・福祉の間から
滝沢武久著
評者 寺谷隆子
松籟社
〒612―0801
京都市伏見区深草正覚町1―34
定価(本体1800円+税)
TEL 075―531―2878
FAX 075―532―2309
著者の精神障害者福祉サービスの必要性を、家族会活動の中で当事者活動として実現に努力してきた40年余の道程は広く知られるところである。
その道程を、精神保健福祉の専門職である著者が、家族というもう一つの視点に立ち、「学び支え合って共に生きる」ことを、社会の構成員だれもが共通する願いとしてまとめたものである。本書は、第1部「精神障害者家族のライフストーリー」と第2部「精神科医療・福祉の現状と課題」とに構成されるが、精神障害者からの学ぶ姿勢を基底にしたものである。
第一部では、精神科医療を受療する家族の苦悩する状況が語られている。地域で自分らしく生活しながら治療を受けたいという願いが叶わず、夭折した実兄への無念の思いが綴られている。現存する精神科医療に伴う保護者制度や精神科医療におけるパターナリズムが社会的入院を生み出す遠因であると指摘する。
実兄の病者や障害者でも「地域社会で市民生活を送りたい」願いを実現するために、「実兄と共に生きたい」を自らの願いにして歩んだ人生の道程で紡ぎだされた、家族当事者としての人生の記録でもある。
第二部では、「我が邦に生まれたるの不幸」に象徴される状況への挑戦を、歴史と制度、家族会運動の役割、家族の抱える困難、暮らしを取り戻す過程に分けて、治安維持思想から医療福祉の確立への方向を示した。
専門職としての著者は、実兄の直面する就労先や住まい、そして自己実現に「自分は如何にも非力」であったと、当時の社会的支援の確保への自らの挑戦課題を改めて問い直している。その自覚的取り組みとして、現状分析をもとに精神障害者の生活福祉ニードや現行施策上の課題を明らかにし、公設政策秘書の経験を活かして具体的な10項目の政策提言を挙げている。
本著を遺言と称して、実践上にも政策上にも挑戦課題を希望とした、社会の構成員だれもが学び支え合う責任を分かち持つ共生社会への希求の書と言える。特に、最後にまとめられた10の提言の意味するところは、専門家や家族、精神障害者、市民が共通の希望とする「学び支え合って共にいきる」源泉となるものとしてのあらゆる人々へのメッセージである。
無縁社会が指摘される今日の状況において、政府指針として打ち出された「心のバリアフリー宣言」への説得力となるものとしても、本書の一読を薦めたい。
(てらたにたかこ JHC板橋会理事)