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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年3月号

発達障害関係の事業・地域で生活するための施策の推進という観点から予算を見る

辻井正次

1 障害者自立支援法の改正法の成立を受けて

発達障害は、平成17年4月に施行された発達障害者支援法によって公的な支援がスタートしてから期間も短く、地域の中での支援は十分ではない。昨年末の障害者自立支援法の改正を受けて障害者福祉サービスの対象に明記されたことを受け、そうした実態を改善していく上で、平成23年度予算は一定の評価ができる内容となっている。

発達障害のある人や家族に、ライフステージを通じた一貫した支援体制を作ることは、行政の縦割り機構のために簡単なことではない。そこでは、いくつかの取り組みが必要になる。現状の行政的な仕組みでは、各都道府県と政令指定都市に発達障害者支援センターを置き、そこからの情報発信や市町村の担当部局、あるいは各圏域の地域障害者就業・生活支援センターなどが、就労し地域で生活を送っていくことを支援する図式が描かれてきた。しかし、従来の障害者福祉部門だけで対応していく事業スタイルと比較して、発達障害の場合には母子保健や保育、教育、就労支援など、他部門にまたぐ支援が必要であることで、事業の提供に関する困難さがある。

そうした困難さを越えていくためには、いくつかの取り組みが必要である。一つは、全国どこに住んでいても、共通のアセスメント・ツールで支援のニーズを把握でき、共通の支援技法を支援者が提供できるよう、支援者の専門性が向上できるような仕組みづくりである。二つ目は、そうした専門性を持った支援者が地域の、市町村のなかにいて、支援が提供できるようにしていく仕組みがあることである。さらに、支援の場に来れば支援をするというスタイルではなく、アウトリーチで支援者が子育て支援の場や保育園を巡回し、実際の支援を提供できるようなことが重要になる。三つ目として、地域の同じ立場の当事者本人や家族がサポートできる、ピア・サポートの仕組みづくりである。これらと、従来の障害者福祉の取り組みとが総合的に機能していくことで、必要な人に必要な支援を提供できるようになるのである。

平成23年度予算においては、発達障害者等の支援のための巡回支援専門員の整備を新規項目として挙げており、発達障害等に関する知識と技術のある支援者が、保育所等の子どもやその親が集まる施設・場を巡回し、施設のスタッフや親に、早期からの支援や助言を行う等の取り組みが行える枠組みを提供するとされている。これは非常に意味あることである。障害の診断を受ける前の段階から、子育てや保育が難しい子どもに対する支援のための“コツ”を保育士が十分に理解して取り組めることは、二次的な問題やあるいは子ども虐待のリスクを減じることに役立つ。障害の「発見」が重要ではなく、支援の機会が提供されるという正しい理解を市町村がもち、巡回によって実際の保育の場での取り組みの改善につながり、ニーズのある多くの子どもたちに支援が提供されることが望まれる。

一方、ピア・サポートを全国的に導入していくために、ペアレントメンターの導入が位置づけられた。発達障害者の子育て経験のある親が、その経験を活かし、子どもが発達障害の診断を受けて間もない親などへの相談にのったり、助言を行ったりすることで、家族、なかでも母親の地域生活からの孤立を防ぎ、支援につなげる役割が期待される。現実的な活躍の場を創出する上での課題は大きいのだが、一定の効果が期待される。さらに、「世界自閉症啓発デー」(4月2日)を契機に、自閉症をはじめとする発達障害に関する正しい知識の浸透を図るための普及啓発の予算も意義のある事業となっている。

2 発達障害のある人たちへの支援の質の向上に向けて

効果的な支援が提供されるためには、支援の質が問題となる。専門家の量的な地域格差が大きく、有能な支援者の職人芸的な支援で対応ができることはなく、エビデンスのあるアセスメント(支援ニーズの把握)と支援技術の普及が必要とされている。そのためには、発達障害を早期発見し、その後の経過を評価したり、支援ニーズの大きさを把握するためのツールを乳幼児健診などで導入することが求められている。

平成23年度予算では、発達障害者の支援手法の開発や普及啓発の着実な実施が項目としてあがっており、発達障害者一人ひとりのニーズに対応する一貫した支援を行うことができるよう、先駆的な取組を通じて有効な支援手法を開発・確立するとともに、発達障害者支援に携わる専門的な人材の育成に取り組むことになっている。

また、そのための中核機関として、発達障害情報センターを設置する国立障害者リハビリテーションセンターの機能を活かし、発達障害に関する国内外の文献、研究成果等の情報を集積し発信するとともに、全国の発達障害者支援センターの中央拠点として、発達障害に対する理解の促進、発達障害者支援の普及・向上に関する総合的な支援を行うことが位置づけられている。

しかし、実態としてこれらの機関が十分な役割を果たしているとは言い難く、十分な役割が担えるように、実際の知識やアイデアのある専門家とのネットワークを作った取組が求められている。同様に、総合的かつ先駆的な取組を行う市町村を指定し、その内容をマニュアルやプログラムとしてとりまとめ情報発信することにより、全国的な取組の促進を図ることが位置づけられているが、個々の市町村の独自性を考えると、そうした市町村で人材を養成していくなど、さらに工夫した取組が望まれる。支援の必要な人に支援が届けられるために、平成23年度は一定の評価できる内容を含んでいる一方で、現実的な課題も抱えている。

(つじいまさつぐ 中京大学教授・日本発達障害ネットワーク政策委員長)