音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年3月号

平成23年度予算の概要を見て
―重症心身障害児関係―

君塚葵

出生前医療、新生児医療の発達に伴い、高齢出産、不妊治療などさまざまな要因が加わって重度重複化が進行している。障害児のもっとも中心となる脳性麻痺の発生率は以前の1,000人に1.2人ほどが、最近では倍増の2.5人ほどと増加している。全国に約5,000床ほどあるNICUでは、少し無理してでも小児科病棟等へ転出させていると思われるが、それでも出られない、いわゆる慢性のNICU児は300人ほどいて、NICUの機能を低下させていると言われる。少子社会となっているにもかかわらず、特別支援学校とその生徒数は右肩上がりに増え続けている。

重症心身障害児の定義は、身体障害者手帳1、2級と知的障害がIQ35以下の重複障害の18歳以下の重複児を言い、大島分類の1~4を指すのが基本であるが、しかしながら、重症心身障害児施設に現在入所している利用者は平均年齢で40歳を過ぎ、約9割が加齢児であり障害年金を受給していて、障害児とはいえない。また、大島分類の1~4以外の程度の利用者が2割ほどはいると考えられる。これに対し、肢体不自由児施設では入所児の38%が大島分類の1~4であり、そのほとんどが18歳未満で、本来の障害児であり、特別児童扶養手当支給が停止されている。

このように、実態と施設名称や法的位置づけが大きく解離してきている。肢体不自由児施設が有期間入所を原則としているのに対し、重症心身障害児施設での入所が有期間ではなく、大多数が亡くなるまで入所しているためで、親亡き後などの懸念、社会的入所などのために長年の経過の中でこのようになってきている。

東京都の重症心身障害児施設の定数は1,200人ほどであるが、年間入退園は10人以下であり、東京都は入所判定会議を設けて、都内各児童相談所から挙げられてきた候補者の中から1人の入所者を決定している。なかなか狭き門であるので、将来のことを考えてとりあえず入所予約をしておくという場合が多い。

当センター肢体不自由児施設での短期入所(年間延べ450人ほど)を除く入退園数は、平成21年度で約550人であり、2か月前後の医療緊急、障害児集中リハビリテーション、変形矯正や機能向上の手術、母子入園などを行っている。これを10年間にすると、1施設だけで在宅の肢体不自由児と重症心身障害児を合わせて5,000人に入所サービスを提供していることになる。

重症心身障害児者の現状を年齢でみて、4つに分けると判(わか)りやすい。(1)現在の重症心身障害児施設に入所している第一世代(平均年齢40歳代・平均入所期間20年以上)、(2)特別支援学校の高等部を卒業して、在宅で通所などの社会資源を利用している第二世代(18歳~30歳代)、(3)特別支援学校に通学している6歳以上18歳以下の第三世代、(4)6歳以下の就学前の第四世代である。

社会的入所を除いて、障害児の療育は在宅を主とし、必要なときに短期利用することとすべきである。在宅の重症心身障害児の方が入所している重症心身障害児よりもより重度であると言われている。人工呼吸器・酸素療法・頻回の吸引などの呼吸管理を中心として、医療保険でのいわゆる超重症児あるいは準超重症児は全国で7,000人ほどと考えられており、うち7割が在宅であると推定されている。

最近の東京都多摩地区での超・準重症児の実態調査において、平均年齢17歳ほどの200人の回答結果では、今後施設に預けたいが29人に対し、自宅で(短期入所などを利用しながら)面倒を見てゆくが130人と約4倍となっている。児者一貫の療育を確保することは基本的にすべての障害に共通である。しかし、法的には別体系とし、18歳未満の在宅療育を核とする発達保障の充実の方向が求められている。安心して重症心身障害児が在宅できるような施策が求められている。とりあえず、有期間の入所あるいは短期入所の充実を図りながら、このような施設入所と在宅とが車の両輪となってゆく必要がある。

平成23年度の予算概要をみると、地域移行・地域生活支援のための整備事業特別枠100億円、障害者に対する良質かつ適切な医療の提供の2%増、良質な障害福祉サービス等の確保10%増など一定程度の予算がみられる。

しかし、このような現状と問題点とから在宅の重症心身障害児への課題つまり、医療を濃厚に必要とする児の短期入所拡大についての対応がなされていないこと、NICUの受け皿としての在宅で重症心身障害児が生活できるようにしている肢体不自由児施設における30年以上の母子入園の充実などが全くなされていないことなど、真に必要な緊急の課題が放置されていると考える。

特に、重度重複障害児の医療を担う専門スタッフの育成が急務であるが、今回の予算ではあまり反映されていない。わずかに介護職員等による吸引等の実施のための研修事業の実施3.1億円が新たに設けられているのみで、今後の拡大を期待するものである。ちなみに肢体不自由特別支援学校での死亡は、毎年50人に1人ほどであり、たいへん高率なまま推移している。

障害児の福祉予算の貧弱さが驚くほどにお粗末であると聞く。子どもの権利条約にあるように、法体系上での18歳未満と18歳以上とを分け、18歳未満の障害児の予算を大幅に増やし、発達保障を確保すべきであると考える。この体系は、仮称総合福祉法においても引き継がれてゆくべきである。

障害をもったお子さんを安心して育てられれば、次の子を産むことも可能となり、少子社会への対応の一環ともなるものである。

(きみづかまもり 心身障害児総合医療療育センター所長)