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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年3月号

リレー推進会議レポート10

第27回と第28回の報告

勝又幸子

はじめに

第27回と28回では、第二次意見の草案について、集中的な議論が行われた。第29回(12月17日)には、第二次意見が出来上がり、推進会議の最後に岡崎大臣(当時担当大臣)に小川議長より第二次意見が手渡されたので、実質審議が行われた最後の2回と言えよう。

第27回(12月6日)の議論

障がい者制度改革推進室から、初めて第二次意見の素案が推進会議に提示された。その前の回まで、改正障害者基本法の総則と各則に含めるべき事項についての議論が行われていたが、そこでの議論をまとめたものが素案として提出されたのだ。第二次意見も第一次意見と同様、まず、それぞれの項目についての推進会議の認識が点線の囲みの中にまとめられており、認識の下には、「以上の観点から、以下を実施すべきである。」として「・」(クロマル)でいくつかのポイントが明記してあり、そこにはその施策の担当所管省庁が明示されていた。

また、その枠の外に、(基本法改正に当たって政府に求める意見)(政府に求める今後の取組に関する意見)が箇条書きに記されるようになっていたが、第27回時点では、それらは〈P〉(保留=ペンディングの意味)で記入されていなかった。第27回の会議に先だって素案そのものが委員に提示されてから、それに対する意見の締め切りまで土日を入れて4日間という短期間だった。第27回当日は、素案の最初から最後まで、表現から内容に至るまで、事前に出された委員の意見から当日出されたものまで、聴取した。当日出されたものについては、会議終了後時間をおかず文書で事務局に提出し、意見が文章に正確に反映するようにした。総則関係では障害のある女性の後に、障害のある子どもが追加された。

第25回の時に、長瀬委員の提案を契機に総則や各則に「障害のある女性」を特筆するよう求めていた私としては、素案の総則に障害のある女性が項目として入ったことは大変うれしいことだったが、第27回の議論のなかで、障害のある子どもを入れるべきという議論がされた時には、女性と子どもを別々の総則として入れることを主張した。

障害者権利条約には、障害のある女性を特筆しており、びわこミレニアム・フレームワーク(2003―2012)などでも障害のある女性については言及されているにもかかわらず、日本ではまったくと言ってよいほど障害のある女性に対する政策は進んでいない。日本において障害のある女性の問題に人々が積極的に取り組むようになるには、障害者基本法に盛り込むことが重要だと考えた。

第28回(12月13日)の議論

前回から引き続き、第二次意見の素案の更新を議論した。前回の議論において出された修正意見を反映させたものが提出された。また、素案2においては、推進会議が点線の囲みのなかで実施すべきポイントを示し、その所管としての省庁等を明記したが、その所管省庁より意見が寄せられた。厚生労働省と文部科学省および法務省からは特に、推進会議の意見に対する反駁(はんばく)や留意点が多く出され、これらを読んだ委員からは、障害者基本法の改正には多くの障壁があることを認識させられることになった。

たとえば厚生労働省は、障害の「社会モデル」の考え方を基本法に位置付けるという推進会議の障害の定義に関する考えについても意見出しを次のようにして、その妥当性に疑問を投げかけている。「個人の機能の損傷」にどのようなものが当たるか、「社会との関係において社会的不利益を発生する」とは具体的にどのようなものか、「周期的に変調する状態など」とはどのような状態かが明らかにされないと、国民にとって、だれが障害者に当たり、だれが障害者でないかが分からない。個別の施策ごとに「障害者」の定義や施策の対象者の範囲が異なりうることも留意されるべきである(第28回資料3p.8参照)。

また、施策の基本方針のところで、厚生労働省は次のように意見を出している。「障害者の意見の尊重」とあるが、たとえば、障害者の方と障害のない方の利害が対立するような場合に、障害者の意見が一方的に尊重されると基本法たる法に規定することは適当ではない。「可能な限り尊重」や「尊重されるよう配慮」のような表現の方が国民の理解を得やすいのではないか(第28回資料3p.24参照)。

文部科学省からは、教育について、実施・検討に当たっての留意点として別紙2-1を提出し、これまでの政策を説明し、推進会議が議論しているインクルーシブ教育ではなく、インクルーシブ教育システムをすでに文科省として導入済みであると説明している(第28回資料3、別紙2-1参照)。その他、厚生労働省も別紙3-1、3-2として、細部にわたって、推進会議の意見に対する「留意点」を提出している。

第28回の議論において、委員からはそれぞれの省庁の意見に対する、厳しい評価が多く出された。一方で、委員は程度の差こそあれ、それぞれが、第二次意見を提出した後、基本法の改正において、所管省庁から多くの抵抗があることを覚悟する良い機会になったと思う。

おわりに

このレポートを執筆している時点では、すでに第二次意見が出され、それに基づいた基本法の改正案の検討が始まっているので、過去を振り返りながらも、今はどうやって基本法に障害者権利条約を批准するに足る内容を盛り込むことができるのかを考えている。3月法案の閣議決定まで、時間は限られている。

(かつまたゆきこ 国立社会保障・人口問題研究所情報調査分析部長)