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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年5月号

障害者権利擁護センターの相談事例から見た障害者の差別について

田丸敬一朗・西田えみ子

1980年代より障害者の社会参加を求めて活動をしてきたDPI(障害者インターナショナル)日本会議は、障害をもつ人のための権利擁護相談に対応できる機関が必要だと感じ、1995年にDPI障害者権利擁護センターを設立した。あらゆる障害(身体・知的・精神・難病等)をもつ人が受けた不当な扱い、本人や家族が抱える悩み・不満に対し、障害者自身が相談に乗ることにより、問題を当事者の立場から明らかにすること、自らの経験を生かし具体的な問題解決を図ることが目的である。設立以来、相談事業を行うとともに、権利擁護を定着させ広めるための研修やセミナーも行っている。

現在は5人(視覚障害・肢体不自由・慢性疾患)が相談に従事し、2009年度は1,193件の相談があった。すべての事例が差別に結びついているとはいえないが、今後の差別禁止法制定に向け、多数の事例の収集が不可欠と考える。そこで、これまでの相談から、障害者権利条約における差別の概念に照らし合わせて事例を紹介する。

1 直接差別~障害者手帳を持っている人の入店拒否~

精神障害の30代の男性Aさんは、あるインターネットカフェを利用していた。ある日、Aさんが持ち歩いている障害者手帳が見当たらず、店に忘れてきたと思い問い合わせたが、結局、自宅でみつかった。その後入店しようとした際、経営者から「手帳をなくした人か」と聞かれ、Aさんが「はい」と答えると、「以前、無銭飲食をした障害者がいて、お金がとれなかったので手帳を持っている人は来ないでほしい」と言われた。Aさんは「心配なら全額前払いにして、時間がきたら声をかけてもらってもいい」と提案したが聞き入れられず、警察に通報されてしまった。警察官を交えた話し合いでも物分かれになり、センターへの相談につながった。

相談員は店に対して話し合いを申し入れたが、拒否された。経営者の言い分は、次のようなものだった。

  • 以前、財布を持っていない客がいたので警察へ通報し、警察へ同行した。その人が手帳を持っていたことから、警察から「手帳を持っている人は現行犯逮捕できない」「被害届けを受理できない」と言われ、起訴できなかった。以来、手帳を持っている人は入店させないという方針を決めた。
  • Aさんの入店を断った時は「申し訳ないが」と丁寧に説明したにもかかわらず、入店を求められるのはうっとうしい。こちらの説明を聞き入れず、障害者団体へ相談するような人はしつこいので話し合いにならない。
  • 店にだれを入れるかは経営者が決めることで、客の言い分を聞き入れるつもりはない。

Aさんは「以前のように普通に入店したい」「店が対応を改めるように指導してほしい」という希望があったので法務局へ相談し、法務局から「調査で事実確認ができれば店へ注意できるが、強制力はない」「店が否認した場合や確認できない場合は“わからない”という結論になる」という説明を受けた。強制力がないという点に不安があったが、行政機関の介入で店の対応が変わること、法務局から注意があればそれを糸口にして、再度店へ話し合いの申し入れができることを期待し、Aさんは人権侵犯被害を申告した。

法務局は店に電話や封書の送付を行ったが、店は「障害者団体にすべて話したのでそちらへ話すことはない」「しつこい」という対応で、事実確認ができないという連絡があった。Aさんは法務局に対し「自分だけの問題ではなく、障害者差別の問題」と解決のための協力を求めたが「個人事業主なので難しい」と言われ、調査は中断した。

相談初期、Aさんの希望は「以前のように普通に入店したい」だったが、その後の経過によって諦め、現在は差別的な扱いに対する訴訟を準備中である【相談日数 250日(継続中)】。

この事例には、障害者を入店させないという直接的差別と、差別に対し、行政機関が対応できないという問題がある。店は「だれを入れるかは経営者が決めること」と主張し、明らかな障害者差別を続けている。通報でかけつけた警察官は店側へ注意せず、むしろAさんに対し「こういうことが起きると利用しにくいだろうから、利用は諦めた方が良い」という趣旨の説得をした。

法務局は人権相談窓口を設けながら、このような差別に対し、強制的な調査や勧告ができず、解決の糸口も見出せなかった。長引く相談でAさんは何度も諦めることを検討したが、納得できる答えがみつからず、今も苦しんでいる。

2 間接差別~身体の状況を考慮しない補装具判定~

30代の女性Bさんは、10年前に慢性疲労症候群を発病、身体障害者手帳1級を取得した。2年前に病気が悪化し、支給されている車いすが体に合わなくなったので申請したが、却下された。その後、2年間で4回の判定を受けたがすべて却下され、ほとんど外出できなくなった。

却下通知書には理由が不記載で、区の担当者に尋ねても『判定医師が「慢性疲労症候群は治る病気」と言っている』等と説明された。だが主治医は、支給されている車いすではBさんの体に負担がかかる、姿勢を保つための機能、軽い力で動かせる機能があれば車いすを操作できると言っている。困ったBさんは地域の障害者団体や難病の会へ相談し、当センターを紹介された。

相談員は、Bさんが病気を説明するための資料を探したが、稀な病気のため難航した。その後、欧米で国家予算をつけ研究している国があり、情報を公開していることがわかったのでBさんはそれを和訳し、相談員は生活上の制限を聞き取った。また、難病の会や車いすを扱う業者の人からの協力も得て、申請資料を作成した。

Bさんは区に資料を提出し、数回の話し合いをもった。Bさんがボランティア活動を通じて知り合った区議会議員と相談員が同席した結果、問題点が明らかになった。

  • 具合が悪くなっているのは明らかだが、区は更生相談所に対しそれを裏付けるフォローができていなかった。
  • 区には「医学判定を覆すのは無理」という思いがあり、Bさんに対して判定結果に関わる不服申し立て等の助言ができていなかった。
  • 担当者は病気の理解が不足していた。

これらの反省を踏まえ、次回の申請には、区の意見書と資料を添えることを合意した。

他方、更生相談所の判定業務に対しても不満があるBさんは都に対し苦情を申し立て、話し合いの場をもった。その際、2年以上も外出に制限がかかったまま放置されている実情を伝えた上、東京都は他県と比較して判定基準が曖昧で不明瞭であること、判定業務の委嘱の必要性、内部の調査権をもつオンブズマン機能の必要性を訴えた。

その後、Bさんは姿勢を保つ機能のあるリクライニング式の車いすと、電動車いすの改造を申請した。判定当日は区の担当者が同行して、Bさんの生活状況を丁寧に説明した。

判定の結果、リクライニング式の車いすは認められたが「手帳上からは、固定した上肢の障害が認められない」という理由で電動車いすの改造は却下。Bさんは身体障害者手帳の書き換えを申請し、障害名が更新された。改めて区の担当者へ相談し、再び区と医師の意見書を添付して電動車いすの改造を申請した。後日、申請が認められたという報告を受け、相談を終了した【相談日数 327日】。

この事例には、医学的見地だけの判定により、Bさんが約3年もの間ほとんど外出できなくなった問題と、正当な判定を受けるための適切な支援・助言が地域で提供できず、Bさんに多大な負担がかかったという問題がある。

現代医学で解明されていない病気、症状がある中で、福祉サービスの利用決定に医学的な一部の基準だけを用いることで、その人が置かれている状況とサービスの本来目指すべきものとが乖離し、その基準にあてはまらない人を間接的に排除している現状がある。

自宅から遠く離れた更生相談所で判定を受ける必要があったため、Bさんは予約日の前後1か月を犠牲にして体力を温存した。体力的な制限のある人にとって、このような負担がバリアになることは明らかで、サービスを受ける段階で、間接的に排除されている障害者の存在も考えられる。前記の事例から、判定基準の見直しと障害者へのサービスを受けるための手続きに関し、すべての障害者がアクセス可能で、適切な支援や不服申し立てのできるシステム作りが必要なことが分かる。

3 合理的配慮の否定~金銭管理の支援~

知的障害の50代男性Cさんは、生活保護を受けアパートで一人暮らし。金銭管理が苦手で過去に自己破産をしたが、現在も収入と支出の見通しがつけられない、支払を滞納する、衝動的に必要のないものを買う等の問題で困っていた。行政へ相談しても「自分でやりなさい」と言われ、サポートが受けられないことからセンターへ相談に来た。次の保護費の支給日まで1週間だが、相談当日の残金は200円だった。相談員は、行政担当者にCさんの窮迫状況を伝え話し合いの場をもち、当日には5,000円の前渡しと食料の提供を受け、今後は区の生活福祉課が金銭管理を支援するとともに、障害福祉課と連携して、Cさんが困っている事柄の解消を目指すことに合意した。

その後、保護費は毎月4回に分けて支給され、生活費が余った場合は滞納している支払に充てた。買物の仕方等は地域の相談機関から具体的なアドバイス、行政との話し合いが難航した場合の支援が受けられることになった。

半年後、Cさんから「家賃を滞納して契約の更新を断られた、保護費と障害年金を全額滞納分の支払に充てるという確約書を交わしてしまった、電気とガスが近日中に止まる、電話はすでに止まっている」と相談があった。Cさんも混乱し、行政の担当者や相談機関の把握している情報が一致しておらず、正確な情報が把握できていなかった。

その後、生活福祉課の担当者がすべての請求書や領収書を整理し、収支の計画表を作成し、ライフラインの復旧を目指した。Cさんと相談員はその計画表を元に業者と交渉し、滞納分の支払を見直した。管理の範囲が曖昧だったため数回のトラブルはあったが、その都度関係者が話し合いをもち、対応策を検討した。

現在、Cさんは福祉作業所で就労支援を受けるとともに、日々のお金の使い方のアドバイスが得られるようになった。障害福祉課の担当者がCさんの意向を丁寧に聞き取り、だれに何を頼むか等をわかりやすくまとめた書面を作成して関係者が共有している。生活福祉課の管理の下、家賃や光熱費の滞納はなくなった。生活費以外の衝動買いについては、生活福祉課、福祉作業所、当センター、各担当者の了解を得ることを条件に対応中である【相談日数 630日(継続中)】。

この事例には、適切な支援が受けられず、生活保護を受けながら生活に困窮したという問題がある。当初、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度の利用も検討したが、手続きが複雑で見通しがつけにくかったことから利用を見送った。

合理的配慮を得るためには、障害者側に説明責任を求められるが、混乱している当事者は説明が難しく「助けてほしい」としか言えない場合がある。当事者にとって合理的な配慮とは何かを探るため、本人のペースに応じて、時間がかかっても検証していく支援体制が必要である。

前記の事例から、障害者への差別を無くしていくための、適切な支援を行える障害当事者を含んだ相談機関の必要性が伺える。問題が起きた時、きちんと裁定の下せる機関の設置も不可欠だ。現時点では、最初の事例のような問題に対しても妥当な解決策がない。そのためにも、差別禁止に関する法律の早急の制定と、適切な人権救済機関の設置も待たれる。

(たまるけいいちろう にしだえみこ DPI障害者権利擁護センター相談員)