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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年5月号

千葉県条例における相談の状況

千葉県健康福祉部障害福祉課

千葉県では、障害者差別をなくすための全国初めての条例である「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を平成19年7月から施行している。条例施行後4年を経過しようとしているが、この間に寄せられた差別に関する相談事案について、その概要を報告したい。

1 相談の概況

県の健康福祉センターなど、県内16か所に専用の相談窓口を設置し、相談の総合調整役として広域専門指導員を各1人配置するとともに、身近な相談員として600人を超える地域相談員を委託し、相談に当たっている。

平成19年7月から平成23年3月までに受け付けた差別に関する相談は、1,015件である。なお、相談窓口には、これらのほか、具体的な差別は認められないものの、生活上の悩みや生きづらさなどを訴える相談も多数寄せられており、その数は1年間で1,000件ほどにのぼる。 寄せられた1,015件の差別事案を分類・整理すると、次のとおりである。

1.分野別

条例に規定する差別の分野(8類型)別に整理したところ、グラフ1のとおり、「福祉サービス」が216件(21.3%)と最も多く、次いで「労働者の雇用」141件(13.9%)、「建物・交通機関」121件(11.9%)であった。

また、条例の想定していた8類型に分類し難いもの(「その他」)も233件(23.0%)あり、それらの中には、虐待が疑われる相談や、隣人や家族から差別的な言動を受けたといった相談が含まれている。

グラフ1 相談分野別相談件数
グラフ1 相談分野別相談件数拡大図・テキスト

2.障害種別

障害種別に分類すると、グラフ2のとおり、「精神障害」のある方が318件(31.3%)と最も多く、次いで「肢体不自由」の方232件(22.9%)、「知的障害」のある方163件(16.1%)であった。

なお、精神障害のある方からの相談割合は、年々増加傾向にある。

グラフ2 障害種別相談件数
グラフ2 障害種別相談件数拡大図・テキスト

2 具体的な差別事案

以下では、相談分野ごとに、具体的にどのような相談が寄せられているかを見ていくことにする。

1.福祉サービスの分野

「いままでずっと利用していた施設から、突然利用を拒否された」、「施設の担当職員が、障害に対してきちんと配慮してくれない」、「サービス窓口の対応が悪い」などという相談が多い。

福祉サービスの事案は、制度設計や予算の制約などが背景にあって、すぐには解決できないものもあるが、相談員が詳細に話を聴いてみると、施設などのサービス提供側と本人との意思疎通がうまくとれていないために、不信感や誤解が生まれているケースも多い。コミュニケーションの重要性があらためて浮き彫りになっている。

2.医療の分野

「急病で一般病院に搬送されたが、精神障害があることを伝えると、医師や看護師が急に差別的な態度をとるようになった」、「精神障害があることがわかると、受診を断られた」、「精神障害のある家族が身体拘束を受けているが、主治医から十分な説明がない」など、精神障害のある方からの相談が多い。

これらのケースは、調整に入ってみると、相手方には差別をしたつもりが全くないにもかかわらず、本人は、相手方の何気ない一言や態度に深く傷ついているという場合も多い。

3.商品およびサービスの分野

「聴覚障害のある人が旅行会社にツアーの申し込みをしたところ、断られた」、「盲導犬同伴で飲食店に入ろうとして入店を拒否された」、「視覚障害のある人が銀行で、行員に申請書類の代筆を頼んだが断られた」、「店員に品物をとってくれと頼んだら、いやな顔をされた」、「スポーツ観戦施設で、車いすを借りようとしたが、拒否された」などの相談が寄せられている。

この分野の事案の解決には、社会の制度や慣行を変えていく取組みが必要であり、前記の銀行のケースでは、相談をきっかけに、県内銀行と視覚障害者が直接話し合う機会を県が設けた結果、さまざまな改善が図られ、その取り組みがその後、全国に広まることとなったところである。

4.雇用の分野

「新しい職場の上司が、障害への理解が全くなく、配慮してもらえない」、「職場でいじめや嫌がらせを受けている」などといった相談のほか、障害を理由とした解雇、配置転換などについての相談が多い。

雇用の事例では、双方の言い分が全く食い違ってしまっているケースも多く、双方のコミュニケーション不足やすれ違いが原因となっていることがうかがわれる。

5.教育の分野

「学校が、子どもの障害について十分配慮してくれない」、「修学旅行などの学校行事に親の付き添いを求められた」などといった相談のほか、入学を拒否された、転校を迫られたなどの相談が多い。

双方から事情を聴くと、学校側も、障害特性を理解できておらず、障害のある生徒・児童にどのように対応したらいいか苦慮している実態が見受けられ、教育現場の支援体制も含めた取り組みが必要であると考えられる。

6.建物、交通機関の分野

「電動車いすで路線バスに乗ろうとして、利用を拒否された」、「点字ブロックの意義をきちんと理解していない住民が多く、点字ブロックの上に平気で物を置いている」、「障害者用駐車スペースに健常者が駐車していて利用できない」といった相談のほか、道路の狭さや段差への不安などバリアフリーに関する相談が多い。

バリアフリー関係の事案については、予算上の制約などから、すぐには解決できないものもあるが、双方が話し合って知恵を絞る中で、解決のためのさまざまな工夫やアイデアが出てくることもある。

7.不動産の分野

「視覚障害のある人がアパートを借りようとしたら、火の始末ができないからと入居を拒否された」、「精神障害のある方が周囲とトラブルを起こしてしまい、立ち退きを迫られた」など、入居拒否、立ち退き要求などの事案などが多い。

事案の中には、家主や仲介業者が、障害に対する誤解や偏見を持っていることが一因となっているものもある。また、貸し手の側は、何らかのトラブルが発生したときのことを心配していることが多く、貸す側への不安を解消できるような、入居後のフォロー体制まで含めた支援が必要である。

8.情報提供の分野

視覚障害、聴覚障害の方の相談が多く、たとえば、「役所の文書に音声コードがついていない」、「新型インフルエンザのワクチン接種の相談窓口について、広報紙に電話番号のみが紹介されており、FAX番号やメールアドレスが記載されていないので、聴覚障害者は相談できない」といったような相談が寄せられている。

なお、今般の東日本大震災のような緊急時に、災害情報や避難状況をきちんと障害のある人に伝えるための配慮が、非常に重要な課題として浮かび上がってきている。

9.その他

条例が当初想定していた8類型に分類できない「その他」の相談も増加している。特に、精神障害、知的障害、発達障害のある方からのものが多く、たとえば、「スーパーに買い物に行った際に、周囲から変な目で見られた」、「家族が自分のことを理解せず、一人暮らしを認めてくれない」などの相談が寄せられている。

これらのケースは、差別に該当するかの判断が難しいものも多く、対応が難しい面もあるが、ともかく、相談の内容をよく聞き、本人の心情を汲み取って、本人が前向きに、自分らしく暮らしていけるように働きかけることが大切である。

3 まとめ

以上、千葉県条例の相談窓口に実際に寄せられた事案について、その概要を簡単にとりまとめて報告した。

千葉県の条例は、差別をした側を糾弾したり、処罰したりすることを目的とするものではなく、相談のコーディネーター役である広域専門指導員が、障害者と差別をしたとされる側の双方から丁寧に話を聴き、お互いの理解を少しずつ深め合いながら、少しでもいい方向に解決を導いていこうとするものである。

これまでの1,015件の相談事案の一つ一つの解決プロセスを通じて、少しずつではあるが、障害に対する理解を深めていくことができたのではないかと考えている。

一方、差別事案の中には、社会の制度や慣行を変えていかなければ解決が難しいものがある。それらの課題の解決については、県内各界の代表者で構成する「推進会議」を設置し、県民全体の問題として解決に向けた取組みを行っているところであり、そのいくつかは、一定の成果を挙げはじめている。

とはいえ、差別をなくすための取組みは、そのスタートラインを踏み出したばかりであり、まだまだ不十分なものでしかない。今後、さらなる取り組みを進め、障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくりを推進していきたい。