「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年5月号

ワールドナウ

米国カリフォルニア州の障害者職業リハビリテーションの状況

寺島彰

本年3月に、米国カリフォルニア州の障害者職業リハビリテーション関係機関を訪問する機会を得たので、その内容について紹介する。

1 障害者職業リハビリテーションの根拠法

はじめに、米国の障害者職業リハビリテーションの根拠となっている主な法律を整理しておく。

(1)リハビリテーション法(Rehabilitation Act)

本法は、障害者リハビリテーションにかかる職業評価・相談、職業訓練、職業紹介・あっせん、援助付き雇用など広範な就労支援サービスを提供している。また、連邦政府と契約するなど、何らかの形で連邦政府の資金が流れている事業所に対して障害を理由による差別を禁止したり、連邦政府や連邦政府と契約関係にある民間企業に対して、障害者の雇用における積極的差別是正措置を義務付けている。

(2)労働力投資法(Work Investment Act)

本法は、雇用創出や雇用促進を目的として、各州や州内の各地域の企業や行政機関などが共同して「労働力開発システム」を構築しようとするもので、その窓口として「ワンストップ(キャリア)センター」が設置されている。このセンターは障害者専用ではなく、一つ屋根の下で、広く求職者に広範な職業サービスを提供しており、障害者も対象としている。職業あっせんや職業リハビリテーションに取り組み、障害年金の受給者を生産活動に移行させることも目的としている。

(3)ジャビッツ・ワグナー・オデイ法(Javits−Wagner−O’ Day Act)

本法は、全国盲人産業(NIB:National Industries for the Blind)と全国重度障害者施設(NISH:National Institute for the Severely Handicapped)から政府機関が製品やサービスを購入することを規定しており、毎年、連邦政府の各部門が購入すべき製品とサービス、およびそれらの価格が公表される。連邦政府の各部署は、この一覧表に基づき、これらの非営利団体に発注する。これらの非営利団体は就労センターなどを運営し、稼得能力の低い障害者に雇用を提供しているので、結果的に、これらの非営利組織に連邦政府の予算が配分されていることになる。

(4)公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)

本法は、最低賃金を定めているが、労働局長の許可を得て、それを除外することを認めている。そのため、重度障害者を雇用するNIBとNISHに加盟する非営利団体の経営する就労センターなどでは、最低賃金の適用除外を求める申請を労働局長に対して行っている。ジャビッツ・ワグナー・オデイ法との組み合わせで福祉的な就労が成り立っていると考えられる。

(5)障害をもつアメリカ人法(ADA:Americans with Disability Act)

雇用上の差別禁止、公共サービスや公共交通機関における差別禁止、民間企業による施設・サービスにおける差別禁止、テレコミュニケーションにおける差別禁止などを規定した法律で、雇用における障害者差別を禁止することで、障害者の雇用を推進する役割を果たしている。

2 訪問施設・機関

(1)カリフォルニア州リハビリテーション局

リハビリテーション法に規定された、州の指定機関である。職業リハビリテーション・プログラムを運営している。具体的には、働くことを希望する障害者は、この機関の地域事務所(以下、リハビリテーション事務所)を訪問し、障害の確認、職業評価、職業相談、職業訓練、職業あっせんなどを受ける。

最初に行われる障害の有無の確認では、障害があるかどうかとその程度の確認が行われる。これは、リハビリテーション局に所属するカウンセラーが実施する。その際、医師による診断書や地域にある職業訓練機関などが作成した資料などが活用される。米国には、障害者手帳はないので、障害者かどうかであるかを最初に決める必要があるのである。

障害の確認に続いて職業リハビリテーションニーズ評価が行われる。この評価は、地域の職業訓練機関などに依頼して行われる。この地域の職業訓練機関というのは、たとえば、障害者を支援するNPO団体や民間の学校などであり、わが国の公的な職業センターなどのイメージとはかなり違っており、リハビリテーション局が、費用を支払って評価を委託するというものである。

職業あっせんや訓練も、やはり、地域の職業訓練機関などに委託する形で行われる。たとえば、職業訓練のインテークには、障害者一人当たり300ドル、職業準備、訓練、就職あっせんには700ドル、雇用継続支援には500ドルというように、リハビリテーション局が費用を支払う。NPO団体などは、この委託金を原資の一つに活動している。

(2)カリフォルニア・プライベート・インダストリー・カウンシル社

オークランドにあるかなり大きな「ワンストップ(キャリア)センター」である。一般の求職者、退役軍人、障害者のための相談窓口などに分かれており、職業検索のコンピューター端末が20台くらい置かれていて、職を求めて多くの人が利用していた。「ワンストップ(キャリア)センター」の特徴は、1か所で求職活動が行えるということであり、職業紹介に加えて、履歴書の書き方、就職面接の受け方などについての講習も実施されていた。以前は、社会保障事務所からも出張してきたということであったが、現在は、行われていない。

雰囲気は、わが国の職業安定所のようであるが、実施しているのは、民間の企業である。州政府からの委託を受けて実施している。また、障害者も対象とされているが、実際には、ほとんど利用されていないらしく、障害者は、通常は、リハビリテーション事務所に相談に行くとのことであった。

(3)アラメイダコミュニティ大学ワンストップ(キャリア)センター

カリフォルニア州アラメイダ郡にあるコミュニティカレッジの中にある「ワンストップ(キャリア)センター」である。小さな一軒家くらいの小さなセンターで、アラメイダ郡から資金を受けている。主な対象は学生であるが、地域にも開放されている。もともとコミュニティカレッジなので地域の人たちが活用しており、職業検索のためのパソコンが数台置かれていた。就職相談を受けるカウンセラーも専任が1人、大学の職員の兼任が数人いた。また、履歴書の書き方や、就職面接の受け方などの講習会が開催されていた。

なお、アラメイダコミュニティ大学も、カリフォルニア州リハビリテーション局から発達障害者や高次脳機能障害者に対する訓練を委託されており、大学の資金獲得の手段の一つになっていた。

(4)エド・ロバーツ・キャンパス

カリフォルニア州バークレー市にある非営利団体で、CILなど、障害者関係団体がスポンサーとなって共同で設立された。バートのアシュビー駅に直結しており、アクセシブルな新しい建物が印象的である。キャンパスという名称であるが、大学ではない。CIL以外にも、ワールド・インスティテュート・オン・ディスアビリティ、センター・オブ・アクセシブル・テクノロジーなど、いろいろな団体が入居している。ここでも、ICTの訓練などのプログラムを実施しており、リハビリテーション局からの委託訓練を実施している。

おわりに

米国の障害者職業リハビリテーションは、民間活力の活用が基本であり、わが国とは制度的に異なっているために、なかなかイメージがつかみにくい。公的な職業リハビリテーション機関がほとんどないので、障害者の職業リハビリテーションを進めていくために、州のリハビリテーション局は、予算をうまく配分することで方向付けをしているということであろうか。ただし、すでに、リハビリテーション法に基づく制度が構築されているにもかかわらず、労働力投資法による「ワンストップ(キャリア)センター」をつくって障害者も対象にしたというのは、どうなのかとも思う。実際、あまり、活用されていないようである。

(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部教授)


サンフランシスコの公共交通機関