音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年5月号

列島縦断ネットワーキング【佐賀】

佐賀嬉野バリアフリーツアーセンターの紹介

嶋原哲也

嬉野(うれしの)「ひとにやさしいまちづくり」の拠点

佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター(以下、バリアフリーツアーセンター)は、三重県にある日本で最初のバリアフリーツアーセンター「伊勢志摩バリアフリーツアーセンター」に倣(なら)い、佐賀県および嬉野市の補助事業として2007年12月に設立しました。

佐賀県は“ユニバーサルデザインの推進”、嬉野市は“ひとにやさしいまちづくり”を推奨しており、その拠点として、また、嬉野温泉のみならず、佐賀県内および西九州全体のバリアフリーツアーのセンター機能を持つ施設として活動しています。

平成23年3月現在、嬉野温泉の約40軒の旅館のうち13旅館がユニバーサルデザインルームを持っており、すべてのユニバーサルデザインルームを合わせると20部屋に上ります。「ユニバーサルデザインルーム」とは客室に段差が無く、車いすでも利用できる広いトイレがあり、お風呂が入りやすく工夫がされていることが条件となっています。ここまでユニバーサルデザインルームがそろった温泉地は日本では嬉野だけで、まさに日本一バリアフリーが充実した温泉地と言っても過言ではありません。でも、「バリアフリーの客室がある」というだけでは、決して“ひとにやさしいまち”とは言えません。

障碍のある方々に旅行での体験談をお聞きすると、「バリアフリーの客室と聞き宿泊したが、私には使いづらかった」という経験をお持ちの方がほとんどです。その理由としてあげられるのが、「単に“障碍”と言っても、一人ひとりの症状は異なり、その症状の数だけのバリアがある」ということを受け入れ側が理解していないことがあげられます。そのため、たとえ多くのユニバーサルデザインルームがあったとしても、そのお部屋をバリアフリーだと感じ、快適に利用できる方は、たまたまご自身の症状に適したお部屋にご宿泊された、本当に限られた方だけとなってしまうのです。

同時に、その部屋の情報とお客様が求めているお部屋の情報が上手くマッチしないと、たとえユニバーサルデザインルームがたくさんあったとしても、全く意味がないことになってしまいます。また、お客様ご自身でバリアフリーのお部屋の情報を調べるとなると、かなりの労力を使うことになり、その時点で旅行を諦めてしまう方も多いはずです。

バリアフリーツアーセンターの役割―お客様目線のプランを

そこでバリアフリーツアーセンターの出番です。バリアフリーツアーセンターでは、日頃より、旅館・ホテル、飲食店、トイレ、交通機関等、旅行の際に必要な場所だけでなく、さまざまな施設にバリアフリー調査で伺っています。ここで勘違いされやすいのですが、私たちは、バリアがないところを探すのではなく、バリアを探しているのです。というのも、「百人の障碍者がいれば、百種類のバリアがある」というパーソナルバリアフリー基準(顧客起点)の考えを持っているからです。

たとえば、車いすユーザーのAさんは5センチの段差を一人で越えることができないが、同じ車いすユーザーのBさんは簡単に越えることができる、という場合、その5センチの段差はAさんにとってはバリアになりますが、Bさんにとってはバリアではないのです。ということは、バリアがないところを探す=フラットな所だけを探すという選択自体がBさんに対するバリアとなってしまっていると言えます。

車いすにもいろいろな幅の車いすがあり、入口幅が70センチだとすると一般的な車いすは通れますが、電動車いすでは通れないことがあります。こういうことからも、いかにバリアの情報をお知らせすることが重要かということがおわかりいただけると思います。

それは、宿泊施設や飲食店、トイレ等の設置でも同じことが言えます。問い合わせをいただいたお客様へ、まずはその旅行で何をしたいのかを明確にした上で、どこに手すりがあって、どのくらいの段差がある、浴槽はどのくらいの深さなのか、テーブルがあるのか等、すべての情報を詳細にお知らせするとともに、お客様の障碍はどのような症状なのか、普段はどのような生活をしているのかをカウンセリングして、お客様にとってのバリアを少しでも取り除いたプランを一緒に作成して行くことにより、安心・安全に旅行を楽しんでいただくことができます。

その結果、幸いにも、今までバリアフリーツアーセンターを通してパーソナルバリアフリー基準に基づいたご案内で宿泊されたお客様から大きな苦情は寄せられておらず、「お風呂に十数年ぶりに入ることができた」、「家族全員でゆっくり旅行ができ、温泉もみんなで楽しめた」という大変有難いお言葉をいただいております。

第5回ユニバーサルデザイン全国大会

平成22年12月21日・22日には、嬉野市にて「第5回ユニバーサルデザイン全国大会」が開催され、2日間の大会中、これまでのユニバーサルデザイン全国大会の中でも最多の、4千人以上の方々に参加していただきました。

ユニバーサルデザインとは、より多くの方々にとって、最初から過ごしやすい環境をつくっていくという考え方で、そこには、障碍者はもちろん、高齢者、小さなお子様連れ、外国人等、すべての方々が含まれます。この大会をきっかけに、嬉野市がユニバーサルデザインの考え方に近づく大きな一歩を踏み出したことは間違いありません。

嬉野温泉のユニバーサルデザインルームもその概念により改修されているため、バリアフリールームにありがちな、まるで病室に来たような“冷たい印象”を受けることはほとんどなく、心も体も温かくなっていただくことができ、障碍のある方々やご高齢の方々だけでなく、一般のお客様にも大変喜んでいただいております。

増えるお客様と活動の広がり

第5回ユニバーサルデザイン全国大会終了後、お問い合わせは飛躍的に増えました。その中でも、立ち上げ当初はほとんどなかった、視覚障碍の方からの問い合わせが増えてきています。これは、嬉野市が「ひとにやさしいまち」として認識され始めた証拠と、とてもうれしく思っております。

23年度には、視覚障碍・聴覚障碍・内部障碍などさまざまな障碍について市民、旅館、ホテル等に向けた、ソフト面の啓発活動を行います。また、市内の小・中学校の子どもたちには「ユニバーサルデザインの考え方」「だれにでも元気に挨拶をすること」「自分以外の目線を持つこと」など、ユニバーサルデザインの初歩的な考え方から話をしていき、より多くの市民の方々に理解していただけるよう取り組んでいきます。

また、年に一度、バリアフリーツアーセンターが主催する“湯らっくすコンサート(プロ・アマ・障碍者・健常者関係なく、同じ会場にて演奏を行うコンサート)”や“ニューミックステニス大会(健常者のテニスプレーヤーと車いすテニスプレーヤーがダブルスを組んで試合を行う、新しいスタイルのテニス大会)”を通して、健常者・障碍者が普段行っている音楽やスポーツでしっかりと関わる場を設け、お互いに、目には見えない心のバリアを外していくことができればとも考えています。バリアフリーツアーセンターは、センター以外の嬉野市、嬉野温泉が主催のイベントでも、車いす・ベビーカーの貸し出し、必要な方には車いすのサポートも行っています。

バリアフリーツアーセンターがここまでやってこられたのも、嬉野市民の方々をはじめ、旅館・ホテル等のご協力があったからこそで、そして何より、嬉野に旅行に来ていただいたお客様の喜びの声、また、本当に貴重なご意見をいただいたお陰だと思っております。

これからも、「行ける所」ではなく「行きたい所」へと、より多くの方々に安心・安全に旅行を楽しんでいただけるよう取り組んでまいりますので、どうぞよろしくお願い致します。

(しまばらてつや 佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター事務局長)