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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年8月号

インタビュー ロンドンパラリンピック・注目の選手、競技サポーター

競技サポーター
臼井二美男(うすいふみお)さん

1955年生まれ。研究員・義肢装具士。財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター勤務。切断障害者の陸上クラブ「ヘルスエンジェルス」代表。

1.スポーツ義足に関わるようになったきっかけは何ですか。

入社して5年目くらいに走ってみたいという若い女性がいました。そして、膝上切断の人は走れる人がほとんどいないことに気づきました。走りたいという思いを実現させるために、走っても壊れない義足を作りました。それがきっかけです。

それを何人かに付けてもらい走るトレーニングをしたんです。ところが丈夫な部品を付けただけでは走れないんですね。走る動作を教える必要がありました。

それが「ヘルスエンジェルス」という切断障害者の陸上クラブです。1991年に有志数人ではじめ、現在は月1回練習をやっています。メンバーは8歳から65歳くらいで、毎回50人くらいが集まります。走る動作ができると、次は野球やバレーボール、登山やトライアスロンなど、いろんな方向に進めるんです。

それまでは歩くことまでもストレスを感じていた人が、仲間がいると、気持ちや身体能力が上がってくるんです。その中からパラリンピックに出たいとか、記録を伸ばしたいという人が出てきて、それをまたサポートしていくようにしています。

2.どのような競技の義足を作っているのですか? 

自転車競技の選手の義足は、直接自転車のペダルに付けられるようになっています。それから空気抵抗が少ないデザインです。ボートやヨット用の義足は防水を考えたもので、デッキの上で滑らないように工夫しています。冬の競技では、クロスカントリー用の義足も作っています。

3.義足を作る時に心がけていることは?

一人ひとりに個性があります。義足を付けたことによって、今までやらなかったことをやりたくなるような、チャレンジする気持ちが出てくるような義足を作ることを心がけています。それから義足を作るだけでなく、コミュニケーションを取り、義足とセットで気持ちもカウンセリングしながら関わっています。それが結構大事ですね。

4.選手たちへの対応はどのようにしていますか。

若い選手の場合は、競技だけではなく、生き方などの相談にものります。たとえば、パラリンピックに挑戦するには、仕事はどうしたらいいかとか。ベテランの選手になると、より軽くて負担の少ないものや記録の出るものという希望が出されます。いつも選手と一緒に相談しながら進め、今知っているすべての知識や技術を提供して作っています。一つの義足を作っても、半年ももちません。その都度、調整が必要になります。選手の練習量が増えれば、折れたり、ひびが入ったりして、義足の修理も増えます。

5.パラリンピックは臼井さんにとってどんなところですか。

パラリンピックは、世界中の義手や義足の選手を生で見られる場所です。メカニックとしては、そこがおもしろいですね。

イタリアの義足はデザインがいいなとか、ドイツの義足はしっかりしているなとか、アメリカの義足は大雑把(ざっぱ)だなとか(笑)。選手やメカニックの人と話もできるし…。それを帰国して日本の選手に反映できるわけです。メカニックは選手のサポートが基本ですが、それ以上に価値がありますね。

6.選手へのサポートは?

前日の練習中に義足が壊れてしまうこともあります。そのため、あらかじめ予備を準備しています。選手たちはみんなモチベーションが上がるのでトレーニングが激しくなって傷ができて、それを医療的に治しながら、義足も直すということはありますね。練習量が増えると、足の状態も短期間で変わるので、常に調整が必要です。

7.メカニックとしてこれまで同行した中で印象的な出来事は?

ハイジャンプの選手、鈴木透君が初めてシドニーパラリンピックに出たのは、20歳くらいの時でした。ひのき舞台に出てナーバスになって、自分の体の状態や精神的な弱点を義足をとおして訴えてくるわけです。うまくなだめながら、ほんのちょっとだけ義足を直して渡すだけで、本人の顔色がよくなっていきました。その時に義足のことだけでなく、選手の気持ちも面倒みることが大事だと感じましたね。

パラリンピック独特の雰囲気があるので、選手も普段の精神状態ではなくなるんですね。もし僕が鈴木君と同じくらいの歳だったら、僕もパニックになって、義足をいじりすぎて元に戻せなくなっていたかもしれません。

8.今後、スポーツ義足はどのように進化していくと思いますか。

そうですね。人間の動作解析による機能とデザインが取り入れられ、部品でいえばカーボンファイバーやチタン材料が使われています。特徴は軽くて丈夫なところです。軽いと体で制御してエネルギーがかからないんです。それは選手にとっても負担が少なく、競技に集中できることになります。

9.8月号の特集は「スポーツを楽しもう」ですが、臼井さんが読者に伝えたいことは?

子どもの時から良い義肢装具を付けていると、後々の人生に大きく響いてきます。車いすや義足などは壊してもいいから好きに動きなさい、といった考え方がもっと広がるといいなと思います。人間の身体は代替えの装具ではすべてを補えませんが、良い車いすや装具を付けると、子どもの動きが一気に良くなります。車いすや装具で子どもの可能性を広げることができるし、親も前向きになります。

子どもの運動能力を高めるには車いすや義肢装具は大事なので、それに対しては、前向きな支給の仕方をしてほしいですね。

(取材:7月4日義肢装具サポートセンター 文責・編集部)