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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年8月号

現場で誕生したオリジナルスポーツ

丸山健

1 はじめに

障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下、ラポールとする)では、障害者の自立と社会参加を目標においた、各種事業を展開している。

また、各事業においては、3つのコンセプトである「底辺の拡大」「自立の支援」「地域還元」をそれぞれにリンクさせ、ステップアップを図っている。

ここでは、それぞれのコンセプトについて簡単に説明しておく。

(1)「底辺の拡大」とは、初心者、かつより重度の障害者への支援により、新規者の開拓を進め、愛好者の拡大を図ることである。

(2)「自立の支援」とは、障害者の主体的、かつ継続的なスポーツ活動(生涯スポーツ)を支援することである。

(3)「地域還元」とは、各事業を通したハード、ソフト両面において、ノウハウを構築し、それを地域へ還元し、展開することである。

2 事例紹介

これらのコンセプトに基づき、ここでは、ラポールのスポーツプログラムである「オリジナルスポーツの時間」という、オープン参加型のプログラムを紹介する。

このプログラムは、週に1回、メインアリーナ(体育館)において、30人程度の参加者が集まって実施している。参加条件は、ある程度ルールの理解が可能であり、他者との交流を重視したい方となっている。

また、参加者の障害状況は、主に中・高齢者が多く、脳卒中による片マヒで、車いす使用や脳性マヒや脊髄小脳変性症による四肢マヒで、電動車いす使用など、主に運動機能面において比較的重度の障害者が多く見られる。

さて、このオリジナルスポーツ(呼称:わくわくスポーツ)とは、対象者や場所に応じて、用具やルールを工夫した、手軽で気軽に楽しめるスポーツである。また、このスポーツは、他者との交流の中で楽しむスポーツでもあることから、スポーツを通した、仲間とのコミュニケーションによって、日常生活の楽しさへと広がっていくことが期待できる。

種目全体の特徴としては、1.運動場面における立位バランスが取りやすいこと、2.車いす使用者やいす座位で参加しやすい種目を多く取り入れていること、3.技術的難易度が低く、初心者でも気軽に参加できること、4.他者との交流場面を多く設定していることなど、車いすタイプをベースにした比較的重度の障害者が参加しやすい種目となっている。

3 種目タイプの特徴

現在、オリジナルスポーツ種目は、全部で10種目になるが、それらの種目を経験値に基づき、タイプ別に分類したものが、表1の種目タイプ別分類表(以下、分類表とする)である。

表1 種目タイプ別分類表

種目タイプ 種目名 難易度
低→高
(L1→L3)
運動量
少→多
(L1→L3)
スペース
(目安)
ルール 技術
ターゲット系
*一方向
ハンドタイプ
*ボールを転がす
ターゲットボール バドミントンコート1面
ビンゴボール バドミントンコート1面
アレンジボウリング バドミントンコート1面
シューティングボール バドミントンコート1面
ラケットタイプ
*ボールを転がす
ターゲットゴルフ バドミントンコート1面
ラケットタイプ
*ディスクを滑らせる
ターゲットホッケー バドミントンコート1面
スパークリングホッケー バドミントンコート1面
対人系
*双方向
ラケットタイプ
*ボールを転がす
ごろチェアテニス バドミントンコート1面
ラケットタイプ
*ディスクを滑らせる
ディスク卓球 バドミントンコート1面
複合系
*一方向・双方向
ラケットタイプ
*ボールを転がす
室内ベースボール バドミントンコート2面

まず、種目タイプをプレイ形態によって分析すると、3つのタイプに分類できる。1.一定の場所から、目標に向かって一方向にプレイするターゲット系タイプ、2.相手と双方向にプレイする対人系タイプ、3.1と2を合わせた複合系タイプとなる。

また、種目タイプを必要動作によって分析すると、2つのタイプに分類できる。1.手でボールを転がすハンドタイプ、2.各種ラケットやスティックでボールを転がしたり、ディスクを滑らせたりするラケットタイプとなる。

このように、プレイ形態と必要動作の組み合わせで決まる種目タイプと、それぞれの種目の難易度(ルールや技術)、運動量、実施するスペース(目安)について分析した結果が、分類表に示されている。

この分類表から、特に、初心者や比較的重度の障害者が参加しやすい種目タイプには、「ターゲット系のハンドタイプ」がある。その理由には、ターゲット系の場合は、1.目標がはっきりしていて分かりやすいこと、2.目標がはっきりしているので、本人への指示が出しやすいこと、3.形や色など、視覚的に捉えやすいこと、4.対人系タイプに比べると、バランスを保持しやすいこと、などが挙げられる。

また、ハンドタイプの場合は、1.ラケットタイプよりも比較的操作しやすい協応動作となること、2.補助具で代償動作がつくりやすいこと(たとえば、スロープを使ってボールを転がす)などが挙げられる。この分類表の中のアミカケ部分が、その種目タイプに該当する。

4 種目紹介

ここでは、その中でも代表的な種目である「ビンゴボール」を紹介する。

まず、一定の距離からターゲットとなるシートに向かって赤球と青球を交互に転がす。

そして、シートに書いてある9つのマスの中に止まったそれぞれの球の合計得点で勝敗が決まる。また、同じ色の球が縦、横、斜めに3つ並ぶと「ビンゴ!」となり、ボーナス点が加算されるルールとなっている。ぜひ、お試しあれ。

5 参加者の声

さて、この時間には、継続した参加者が多くいるが、その参加者に実施したアンケート質問項目の中で、上位に挙がったものをいくつか紹介する。

(1)「この時間のどこが楽しいと思いますか?」との問いには、1.仲間がいる、2.自由に参加できる、3.工夫された種目が多い、4.雰囲気が良いなどが挙げられた。

(2)「好きな種目や面白い種目はありますか?」との問いには、1.ディスク卓球、2.ごろチェアテニス、3.ビンゴボールなどが挙げられた。

(3)「この時間に参加する前と後で、何か日常生活に変化がありますか?」との問いには、1.外に出るのがおっくうでなくなった、2.人と会うのが楽しくなったなどが挙げられた。

(4)「この時間の他に、ラポールでどのような活動をしていますか?」との問いには、フィットネスルームの利用が多く挙げられた。

この結果を考察すると、スポーツを通した仲間の存在や新たな目標が、参加者の戸外活動のきっかけとなることが推察できる。

また、フィットネスルームを利用している参加者が多いことを考えると、健康・体力づくりを目的とする、個人的なトレーニングと、一方で、仲間との交流を重視する集団的なスポーツが、その両輪となっていることが、参加者自身のよりアクティブで、継続的なスポーツ活動に結び付いていることが推察できる。

6 参加者同士の交流

この時間は、前述のとおり、他者との交流場面が多く設定されている。その一つに、スポーツ指導員が、事前に障害状況や性格等を配慮したチーム分けをし、その中で比較的重度の障害者に対して、周りの参加者(障害当事者)が、自発的なサポートをしている様子がよく見かけられる。

このように、集団で行うスポーツのメリットは、まさに社会性を緩やかに築くことであると言える。

7 地域支援の現場

さて、ラポールの地域支援事業では、身近な地域で、障害者がスポーツを楽しめる環境の向上を目指し、さまざまな取り組みを行っている。その一つに、地域主催の機能訓練教室があるが、ラポールでは、状況に応じて、このオリジナルスポーツをツールとして用いることにより、はじめの一歩となる参加者の動機づけや、成功体験につながる効果的なスポーツとなっている。

さらに、今後の地域展開においては、人、もの、情報といった社会資源の融合がより一層望まれる。特に、地域を支える支援者(施設職員やボランティア等)への現場に即した研修会などが考えられることから、その研修の題材に、このスポーツを活用し、人材育成にも役立てることが可能である。

8 おわりに

だれもがスポーツの楽しさを享受するためには、さまざまな工夫が不可欠である。ここで紹介した、オリジナルスポーツもその一つである。このスポーツを手がかりに、皆さんの現場で誕生するオリジナルスポーツを展開していただければ幸いである。

(まるやまけん 障害者スポーツ文化センター横浜ラポールスポーツ事業課)