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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年8月号

1000字提言

働く仲間たち

船橋秀彦

そこは 働く喜びに つつまれていた
つくっているのは ケーキの箱
分業と協業の中に
笑みがあり やさしさがあり 信頼があった
ミキは とってもはずかしがりや
ヒロは 養護学校の卒業生
ユミは すっかり女性らしくなった
ケンタが ケーキの箱を運ぶ
ゆきかう仲間の中に
ぼくの心も解けていた
小さな作業所の
能力主義に 打ち負かされた
はずの人々が
給料月額 にせんえん
「コンサートに 使う」
「かあさんに 服を 買う」
ふくらむ 夢
ミキが さしだす
折られた紙
“できたことを みて”
まぶしくて
ぼくは はずかしかった
「きょうは さんびゃく(ワァという歓声)
できました」
「でも せんせいは いいよなあ。ぼくら
こんなにやっても にせんえん。せんせいは
なんまんえんも もらえんだっぺ」
何かが違っているようで
何かが狂っているようで
負かされたのは誰かを
ぼくは いま 考えています

私の街に、初めてできた福祉作業所を見学した時の詩。親たちが作った作業所は、貧しかったが、障害や能力で選別しなかった。行き場のない人を、受け入れた。働き方は多様だが、どれもかけがえのない仕事。そして、なにより笑みがあった。

20年後に成立した自立支援法は、働くことに優劣をつけた。「一般就労」を高く評価し、重い人が働く場への報酬は、下げられた。しかも報酬は日割りのため、休暇日を減らし、常勤職員が退職しても補充しない、昇給なしと、労働条件が下げられた。特に、重い人が働く場で、職員不足が顕著なのだ。

今年卒業するA男が、通う場が地域にない。重いA男には、選択どころか、どこもいっぱい。これが、工賃倍増の取り組みの、もう一方の現実。こんな福祉のあり様で、「排除しない」とのインクルーシブ社会は実現できるのか。福祉の原理から問われている。

(ふなばしひでひこ 茨城県立水戸飯富養護学校教諭)