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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年8月号

列島縦断ネットワーキング【愛知】

新しい働き方
~セントラルキッチンかすがいの取り組み~

谷川基行

設立の経緯

愛知県春日井市は、県西部に位置しており人口は約31万人です(平成23年3月現在)。

春日井市四ッ家町は緑豊かな自然の多い街で、その住宅街の一角に平成21年8月、セントラルキッチンかすがいが設立されました。

事業がスタートするきっかけは、一つ目に、関連法人である医療法人生寿会が行っている「給食事業の効率化」が挙げられます。具体的には、生寿会が運営している病院・施設等のサテライトキッチン(院内厨房)において、各病院・施設ごとの献立がバラバラとなり、統一したメニューの提供が困難なこと。また、調理スタッフが分散され集約が困難となり、それに伴って人件費の増大を招いていたことなどが課題としてありました。そのため、セントラルキッチンかすがいを中核におくことで、仕入れから調理・配送までの一貫した給食システムの確立と必要な人員の組織化、さらにサテライトキッチンを位置づけることで、給食サービスの効率化を目指すことを目的として、今回の事業計画に至りました。

二つ目の理由としては、重度の障がいをもつ親御さんから「親亡き後の暮らしの保障を」という切なる願いから、地域を拠点とした小規模な共同生活住居(ケアホーム・グループホームはるひ野)を同じ町内に平成20年10月に開設しました。自立支援法の意図するところは「地域で暮らすということは、地域で働くということ」ですから暮らしの保障だけではなく、働く場所の確立も必要であると考え、セントラルキッチンかすがいの誕生を迎えることとなりました。

取り組み

自立支援法に基づく就労継続支援事業A型30人・B型20人の計50人の定員で、現在、A型30人・B型11人の計41人の利用者(以下メンバーという)が働き、スタッフは、常勤・パートを合わせて22人です(平成23年5月末現在)。

障がいの種別は、身体障がい者3人、知的障がい者36人、精神障がい者2人、障がいの程度は、軽度14人・中度17人・重度10人です。

仕事の内容は、病院の入院、通院患者や高齢者施設向けの「給食」を作っています。

セントラルキッチンかすがいでは、火を使わないオール電化システム、クックチルシステムを導入し、作業内容は平準化され、品質・衛生管理面においても、NASA(アメリカ航空宇宙局)が開発したHACCPの管理方式に基づいて食事提供を行っています。

図 セントラルキッチンかすがい 衛生管理区分拡大図・テキスト

クックチルシステムを導入した理由は、計画的な生産ができることです。食材の入荷から食事の提供まで5日間貯蔵可能であり、月間の生産計画の中で、1日に生産する量を調整することができます。そのため障がいをもつ人にとっても最適なシステムであり、ゆとりのある作業工程が可能となります。

セントラルキッチンかすがいは、最大で1日5,000食生産可能な機能を整えており、現在、5か所のサテライトキッチンを運営し(平成23年6月13日現在)、1日あたり約2,000食(水・日を除く週5日稼働)の食事を提供しています。段階的に食数を増やしていき、近い将来、1日5,000食を生産できることを目指して、スタッフ・メンバーとともに日々取り組んでいます。

仕事の内容

スタッフの勤務時間は、8時30分~17時30分の1日8時間勤務で、メンバーの勤務時間は、8時45分~17時までの1日6時間45分勤務(休憩90分)となっています。

厨房内は、汚染区域・準清潔区域・清潔区域と区域ごとに床の色によって明確に分けられており、製造(食品)の流れから風の流れまで計算されています。

メンバーは一定の研修期間を経て、それぞれの障がい特性に合わせて作業場を決めています。

仕入れを行う検収室では、商品が傷んでいないか、正しい数量で納品されているか、温度は適正かなどをチェックします。野菜下処理室では、野菜の皮むきや種、芯等を取り除き、パススルーの冷蔵庫を通じて次の工程に送ります。カット室では、下処理を終えた野菜を献立に合わせて、乱切り、銀杏切り、輪切り等にカットします。肉・魚下処理室では、魚の臭みを取る作業や肉の下味をつけたりします。調味計量室では、指示書に合わせて、0.1グラム単位で調味料を量ります。加熱調理室では、前記工程を終えたものをスチームコンベクションオーブンや回転釜を使用して、煮る・焼く・蒸す・炒める、ダシを取る等の作業を行います。

また、フライヤーで天ぷらやコロッケを揚げたり、病院等の治療食も生産するため、ミキサー食やキザミ食など、真空包装などの作業もここで行います。ピッキング室では、それぞれの病院・施設から発注を受けた人数分の料理を仕分けし、人数ごとの数や重さの確認、真空包装、異物の混入の有無のチェックなどを行います。洗浄室では、前室と後室に分かれ、汚染されたホテルパンやカートの洗浄、洗浄されたホテルパンや調理器具等を並べ、乾燥庫にて殺菌・消毒を行います。その他、一般区域での清掃作業や、身体障がい者の方は事務所にて事務業務を行っております。

現状と課題

今年度は、さらに3か所のサテライトキッチンの運営を計画しています。その3か所の開設を経て、1日あたり約2,750食(週5日稼働)の製造となります。今後は、5,000食に向けた外部営業や食数増加に伴う機器の増大やシフト制勤務の検討も必要となってきます。

運営面での一つ目の課題としては、A型とB型の一体型事業所であるため、A型メンバーの確保は達成できましたが、賃金の差異から、B型での就労確保に抵抗を感じ、断られるケースが数例見受けられる点です(平成22年度一人あたりの月額の工賃実績は約4万円)。経営面と運営面の両面から鑑みて、A型とB型の定員枠の検討を必要としています。

もう一つは、衛生面での課題が挙げられます。食に携わるプロとして、手洗いの徹底や髪が作業着からはみ出していないか等、常に一人ひとりが意識するよう、日々徹底した教育と実践に努めていく必要があります。

今後の展開

現在は、医療法人生寿会に頼った事業になっていますが、数年単位で自分たちが生産する給食の質を高め、「喜ばれる食事・選ばれる食事」となるよう築きあげ、他では出すことができない、手間暇をかけたセントラルキッチンかすがいオリジナルの商品を生み出していき、販路を広げていくことが必要となります。その先に「1日5,000食の生産」が実現できると確信しています。

また、給食以外の加工の業務やデパートでの販売など「食」に関わる仕事にも少しずつチャレンジしていきたいと考えています。そして、障がいの軽い人も重い人も地域の中で共に暮らし、支え合い、保護の対象としてではなく、働く主体者として、地域生活支援のモデルとなるよう、実践の中で雇用と福祉の両立を証明できるよう取り組んでいきたいと考えております。

(たにがわもとゆき 社会福祉法人薫徳会、セントラルキッチンかすがいセンター長)