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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年9月号

1000字提言

頸損だからできること

宮野秀樹

頸髄損傷・四肢完全マヒとなって19年が経つ。現在では、頸髄損傷者連絡会でセルフヘルプ活動、NPO法人で自立支援活動に携わっている。今年の12月でちょうど健常者半分、障がい者半分を経験したことになるのだが、障がい者となっての年月の流れは実に速かったと感じる。

受傷当時は生きることの意味が見いだせず「こんな体になってまで生きる必要があるのだろうか」という疑問に支配され、車いすで外に出ても周囲の視線が苦痛で仕方なかった。そんな私に「障がいがあっても自分らしく生きられる」「体が動かないからといって諦(あきら)めることなど何一つない」と教えてくれたのが頸髄損傷や障がいのある仲間だった。

便利な道具を使う、人の手を借りる、自分だけが努力するのではなく、方法を替えることで何でもできるようになることを知った。「失敗を恐れずに」失敗や間違いから多くのことが学べることも知った。重度の障がいがあっても自分にできる方法で社会に貢献することが社会参加であることを学んだ。自分にもできると自信がつき、生きることが楽しくなった。気がつくと一人暮らしをしていた。

障がい者として“今”を生きているのだから日々の過ぎ行くのが速いのは当然であろう。一人暮らしをして、障がいと向き合いだしてからはさらに加速したと感じる。それは毎日が充実しているからであるが、私には別の思いもある。セルフヘルプ活動や自立支援活動に携わり、目的を持って生きている今日に至るまで長い時間を費やしたと後悔の念があるからだ。もっと早く障がいと向き合い、もっと早く自分らしく生きていたら…と。

今の私を突き動かしているのは「より早く孤立から抜け出す方法」を伝えようという思い。自分の意思を持てず、諦めに似たような毎日を過ごさせないためにも、同じ境遇を克服した者、または立ち向かっている者ができることは多くある。人生半ばにして突然、事故や病気で障がい者になったとしても、そこからどのようにすれば諦めずに人生を楽しむことができるのか。中途障がいである頸髄損傷者だから伝えられることがたくさんあるのだ。

今、兵庫頸髄損傷者連絡会では「自立生活準備学習会」という学びの場を月に一度設けている。自立生活を実践する先輩の話を聞いたり、自立に向けて自分が知りたいことを気軽に聞けるような気負いのない勉強会となっており、若い頸髄損傷者が多数参加している。

私がやらなければならないことはまだたくさんある。彼らを見ているとそう強く感じるのである。

(みやのひでき 兵庫頸髄損傷者連絡会事務局長)