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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

難病と障害者総合福祉法
―骨格提言と医療の課題―

水谷幸司

1 骨格提言の全体としての評価

骨格提言は、新法の対象である障害者の範囲に難病のある人や慢性疾患をもちながら社会的な困難を抱える人たちも含めること、これらの人たちも制度の谷間なく必要な支援を受けることのできるようにすることが包含されており、私たちの立場からも大きく評価できる。

また利用者負担について、障害に伴う医療・リハビリテーション費用も含めて原則無償とすべきと提言されたことも注目される。難病についての記述の不十分さはあるものの、全体として多くの社会的な困難を抱える難病や長期慢性疾患、小児慢性疾患のある人たちにとって、新法への希望につながる提言であることはまちがいない。

同時に、現行障害者自立支援法の医療費負担軽減制度である自立支援医療について、新法ではこの制度の対象範囲やしくみをどうするのかという具体的な記述が見られない点は不満が残る。

提言では、障害者の医療費公費負担制度の見直しについては、他の公費負担医療制度を総合的に検討する必要があると述べている。また、「難病等について検討する検討会を設置する」ことが明記された。今後、これらの課題は、総合福祉部会の親部会である障がい者制度改革推進会議、および改正障害者基本法により新たに設置される障害者政策委員会において、優先的に引き継がれるものと期待したい。

2 難病の概念整理について

難病は、難治性疾患や希少疾患という医学的概念ではなく、難病という病気は存在しない。難病という概念は、わが国独特のとらえ方であり、それは対策の必要から1972年に制定された「難病対策要綱」によって初めて規定された。難病とは医学的な意味の病気や疾患ではなく、同時に社会的に患者の置かれている状態に着目した概念であり、障害との関係では「難病のある(をもつ)者=障害者」という整理になる。

骨格提言では、医学モデルから社会モデルへの障害概念の転換が言われているが、難病については、すでに40年近く前から国の対策として、社会モデルの着眼点を含めたとらえ方がされてきた。したがって、新法においても、難病という概念の中には、すでに社会モデルの概念が包含されているものと考えるべきである。

ともあれ、改正障害者基本法や障害者総合福祉法でいう「障害者」には「難病のある(をもつ)者」も含まれること。このことは、障害者基本法改正案を審議した内閣委員会の政府答弁でも確認されている。今後の法案づくりに向けてこの点を再度強調しておきたい。

3 ホームヘルプサービスなどの福祉サービスがすべての地域で受けられるように

現在、難病対策の中に「難病患者等居宅生活支援事業」としてホームヘルプサービス、ホームヘルパー養成研修、ショートステイ、日常生活用具給付事業が行われているが、この事業は自治体の必須事業ではなく、取り組んだ市町村に国が2分の1を補助する予算事業である。実施自治体(市町村)は約3割(実績はさらに低い)というのが現実である。新法に位置づけられることにより、全国すべての自治体において障害者福祉サービスが受けられるように門戸が開かれることは大きな前進である。

今後、施行されるまでに障害特性に応じた施策の工夫改善についても要望を伝えていくことが必要になる。

4 医療費の負担軽減の課題

難病患者や長期慢性疾患患者は、治療研究の推進とともに高額な医療費負担の苦しみを軽減してもらいたいという願いは共通して多い。公費負担医療制度(医療保険制度への上乗せ制度)は頼みの綱だが、現行の難病医療費助成(特定疾患治療研究事業)は研究費による負担軽減のしくみであり、疾病を指定する現行制度では、研究面からも医療費助成の面からも問題があり、制度の見直しが必要になっている。また小児慢性特定疾患治療研究事業も同様の課題と併せて、20歳以降は支援が打ち切られるキャリーオーバー疾患対策が課題である。

自立支援医療の見直しや、都道府県の障害者医療費助成制度なども含めて、障害者の医療費助成制度のあり方の検討は急務である。

5 今後の制度改革に向けて

現在、厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会で、今後の難病対策のあり方についての検討が急ピッチで進められている。

10年ぶりに上部部会である疾病対策部会が開かれ、難病対策委員会に対して難病対策の見直しについて次の指示事項が提示された。1.特定疾患治療研究事業の福祉的側面(経費の膨張・都道府県超過負担、対象疾患選定への不公平感から制度の安定性・公平性)、研究事業としての機能。2.研究事業(患者間の不公平感、今後の研究の進め方)。難病医療費助成制度(特定疾患治療研究事業)の見直しについての本格的な議論が年末から年明けにかけて行われ、年度内に一定の結論が出される。また、医療保険の高額療養費制度についても見直しの議論が始まっている。これらの動きは、政府の「社会保障と税の一体改革」による医療、介護、福祉の見直しの中にあり、障害者制度改革も例外ではない。今後の動きも踏まえながら、法案の中身や今後の障害者制度改革についても、難病・長期慢性疾患患者当事者団体として積極的に議論に参画し提言していきたい。

(みずたにこうじ 一般社団法人日本難病・疾病団体協議会事務局長)