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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

総合福祉部会骨格提言に思う
―高次脳機能障害団体の立場から―

東川悦子

昨年の4月27日から始まった総合福祉部会の構成員として、全18回の会議に参画した。

私は55人の構成員の一員として、高次脳機能障害についての意見を代弁すればよいと思っていたが、日本障害者協議会(JD)副代表としての役目も持って、多くの加盟団体の方々の意向を反映した意見を申し述べたり、意見書を提出しなければならないという二つの立場があったことに、当初は気がついていなかった。

JDへの期待は大きく、加盟団体以外にも多くの方々からご意見をいただいた。それらの方々のご期待に添えなかった私自身の役不足を、まずお詫び申し上げたい。

JD加盟団体からのご要望、またJDを頼りに意見書を提出されるさまざまな団体さんの意見書を佐藤部会長宛にまじめにお取り次ぎしたことは確かであるが、たとえば、吃音の方々の要望や薬物依存症の方々やアルコール依存症の方々のご要望を作業部会で多少は論じたが、全体会で真正面から討議する機会がなかったことを残念に思う。

谷間の障害問題の解決を図り、すべての支援の必要な人たちへの必要な支援が確立されるような画期的な新法を目指すとすれば、当然これらの方々の期待も大きく、提出された文書からは切実感がにじみ出ていたが、これらの問題が討議される機会は、残念ながら少なかった。

既存の福祉制度で救済されない谷間の障害をなくすための「障害の定義と範囲」の問題は、最大の眼目であった。したがって第1次の作業部会に分かれた時に、私はもちろん「定義と範囲」の部会に所属した。その中で、高次脳機能障害などが明確に支援の対象と定義付けられるためには何が大切であるか、発達障害の方々やてんかん協会の方々と共に論じた。座長は法律家の田中典明氏であった。WHOのICFに基づく定義が採用されることが最も必要であり、身体障害、知的障害、精神障害というような障害名の個別列挙方式はやめるべきである、という結論に達したのであるが、7月29日に成立した障害者基本法改正案では「障害とは身体障害、知的障害、精神障害〈発達障害を含む〉という」とされたことにより、総合福祉部会の最終結論である骨格提言においても、これに準拠とされてしまった。

小児の高次脳機能障害は発達障害に入るのだから、発達障害が明記されたことを良しとすべきであろうか? 障害の枠が少しでも広がったこととして喜ぶべきことなのであろうか? 私は疑問に思わざるを得ない。この定義は、枠を広げたのではなく、枠を狭めたと思う。

障害名の個別列挙方式では前記のアルコール依存症や吃音の方、熱傷等の方などは、相変わらず支援の対象にはならない、今後、新たに生じるかもしれない原発事故の内部被曝者なども障害者としての支援の対象ではなくなってしまうのではないか。

前文において、高らかに「障害の有無にかかわらず誰もが排除されず、分離隔離されず共に生きていく社会こそが自然な姿であり、誰にとっても生きやすい社会であるとの考え方を基本としている。」とうたっているのであるから、できるだけ包括的な定義としておくべきであると願うものである。

しかし、すべての障害者団体のこれまでの運動体として違いを乗り越えることが簡単ではないとすれば、発達障害の方々が強力な政治的運動をして獲得された基本法改正案を尊重するという妥協点を模索した結果としてやむを得ないことなのかもしれない。

高次脳機能障害団体として、脳卒中や失語症の団体とも連携した組織にして政治的運動体になって、理念よりも実利を求める展開をしていくべきだったのかもしれないが、今の私たちにとっては力不足だ。

途中の論議の過程を思い返すと、よくぞこれほどさまざまな意見の違う団体や活動家がいるものだと感じたことが多かった。「地域移行を強調しすぎて、今までの懸命の活動で建設されてきた施設をないがしろにするのか」との声も上がった。ともあれ、佐藤部会長の懸命のご努力とリーダーシップで、骨格提言がまとまったことは喜ばしい限りと思う。

知的障害当事者さんのお二人が参加されて、堂々と意見を述べられた画期的会議であったことは特筆に値する。高次脳機能障害についてもようやく当事者自身の会が結成されつつあり、彼らの今後の活動に期待したい。

予算の概算請求も始まっている時期であろう。震災復興を最優先にしなければならないことは承知しているが、ピンチの時だからこそ、改革はしやすいと思う。戦後の日本が何も無くなった焼け野原から、諸改革を成し遂げたように「必要な人に必要な支援を」と高い理念を掲げて共に生きる社会を目指し、今後も力を合わせよう。

(ひがしかわえつこ NPO法人日本脳外傷友の会理事長)