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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

発達障害と総合福祉法

市川宏伸

1 はじめに

発達障害が話題になったのは比較的新しい。平成5年頃から中京地区の当事者団体が中心になって、「知的遅れのない発達障害も、社会生活上の困難を抱えているのに、公的支援が得られないのはおかしい」という訴えをしていた。これらの訴えに一部の国会議員が理解を示し、議員立法で対応することになった。平成16年2月から厚生労働省において、議員、当事者、保護者、学識経験者などが中心になった勉強会が開かれた。国会でも委員会、本会議で検討が行われ、平成16年12月3日に参議院を通過し、発達障害者支援法が成立した。

この日に発達障害の関連5団体が音頭取りになり、日本発達障害ネットワーク(JDDネット)が産声を上げた。現在は全国組織として、当事者および職能団体が18、地域団体が48参加している。

この法律の内容に基づいて、発達障害の啓発普及、教育上の配慮など、行政における実際的な支援が行われるようになった。かつては行政の窓口に行くと「知的障害のない発達障害の方は支援の対象になっていません」と門前払いされていたが、法律施行後は「支援の対象になると、法律に書いてあります」と主張できるようになった。現在も啓発普及は進んでおり、全国約60か所の都道府県、政令指定都市に発達障害者支援センターが設置されている。

教育では、平成19年度から特別支援教育が正式に開始され、特別支援学級、特別支援学校が設置された。発達障害の児童・生徒は通常学級、特別支援学級、特別支援学校のいずれにも在籍する可能性があり、通級制度の充実など柔軟な対応も行われるようになった。

この間、障害者自立支援法の一部改正では、身体障害、精神障害、知的障害と並んで発達障害が明記された(平成22年12月)。また障害者基本法の一部が改正され、発達障害は精神障害に含まれることが明記された(平成23年8月)。

また、これまで療育手帳の対象になっていなかったが、知的障害を伴う発達障害は知的障害者療育手帳、知的障害を伴わない場合は精神障害者保健福祉手帳の交付が可能になっていた。これまでは精神障害者保健福祉手帳交付の証明書を医師が記入する際に、「その他」の項目に症状を書きこんでいたが、精神障害者保健福祉手帳交付の証明書の中に発達障害の症状が列記され、選択できるようになった(平成23年3月)。

また障害年金の証明書においても、症状が列記され選択できるようになった(平成23年9月)。特別障害者手当、障害児福祉手当においても同様である。

2 障害者総合福祉法と発達障害

民主党政権に交代してから、障害者自立支援法は廃止され、障害者総合福祉法が制定されることになった。「応分負担はおかしく、応能負担にするべきである」というのが一番の理由だったように思われる。

平成22年1月に障がい者制度改革推進会議が始まり、障害保健福祉施策の見直しが検討され始めた。推進会議の構成員が公表された際に、「発達障害の代表者も参加させていただきたい」と内閣府に申し入れたが、「もう決定している。私たちが決めているわけではない」という答えであった。当時の政策官は、「どうです。初めて当事者が中心になった素晴らしい会です」と胸を張る一方で、「知的障害を伴う、言語もない発達障害者はどうしたらよいのですか?」という質問には、「そういえば、そういう人もいましたねえ」という答えであった。

その後、推進会議から第一次意見(基本的な方向)(平成22年6月)、第二次意見(平成22年12月)が出された。その後、総合福祉部会で検討が行われ、本年8月、総合福祉部会から「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」が出されている。

3 総合福祉部会の提言について

現在出されている提言は部会長、副部会長の連名によるものである。発達障害そのものを取り上げている点は少なく、特にコメントできるものは少ない。

ここでは部会の中でも検討されたもののうち、2点について取り上げてみたい。1点は障害における保護者の位置づけである。確かに保護者の中には当事者を虐待している場合があるかもしれない。しかし言語のない当事者の場合、生育歴をよく知っている保護者が一番本人について知っているのが通常である。推進会議の構成員とも話し合ったが、「保護者は当事者をないがしろにするものである」という前提に立っているように思われる。障害者を保護の対象から権利の主体とする転換はよいが、保護者の位置づけはこれでよいのだろうか。平成24年10月に施行される予定の障害者虐待防止法では、保護者による虐待がある場合は、保護者も支援の対象にしている。

2点目は医学モデルから社会モデルへの転換という考えである。筆者は30年以上児童青年精神科医として、精神障害、知的障害、発達障害に係わってきたが、「医学は障害者をないがしろにするものである」という考え方は、あまりにも古すぎて理解できない。

障害者がよりよい社会生活を送るに当たっては、福祉だけでなく、保健、医療、教育、就労などの専門家が連携して対応する必要性があることは自明の理である。

(いちかわひろのぶ 日本発達障害ネットワーク理事長)