音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

障害者総合福祉法の骨格提言に対する評価と期待

長尾義明

私は発病から21年、人工呼吸器装着後16年、現在63歳の在宅のALS患者です。発病当時は制度も何も無く、呼吸器は自費で「死ね」と言わんばかりの在宅生活の始まりでした。この21年間、当時と比べれば随分制度も整いましたが、私たちALS患者等重度障害者にとって、ノーマライゼーションには程遠い状況です。

新しく制定される「障害者総合福祉法」の骨格提言は当事者の声が良く反映されており、全体的に評価できます。法制化により、住む地域に関係なく、だれもが平等に、安心して住み慣れた地域の中で当たり前の生活を送ることができるよう、期待しております。以下、関係する課題について評価と意見を述べます。

1 利用者負担について

提言の内容を評価します。特に収入認定を本人のみとすることは特に重要と考えます。なぜなら、「家族単位」の考え方では、家族に所得がある場合に自己負担が発生するため、家族の経済的負担を考えてサービス利用が制限されやすく、そのことが原因で、障害者の自立と社会参加が困難になる面があるからです。

2 障害者サービスと介護保険の関係

現在、2つの制度の利用は、介護保険を優先的に利用するよう、自立支援法で決められています。私は「障害者介護サービスから介護保険介護給付に切り替える必要はない」が長年の持論です。

ALS等の特定疾患の場合、40歳で介護保険が適用されますが、介護認定により、本人は40歳前と障害の状況は全く変わらないのに利用制度が変わることで、私たちの自由や自立が阻害されることに疑問を感じてきました。そのため提言の「介護保険対象年齢になった後でも、従来から受けていた支援を原則として継続して受けることができるものとする」を高く評価します。

また40歳以降でALSを発病した者も同様に、制度を自由に併用選択でき、地域での自立した生活が継続できるようにするべきです。これは無理を言っている訳ではなく、90歳の人に杖が要り、近眼の人に眼鏡が要るのと同じで、ALSなど重度障害者は介助等に個別性が求められ、その人に合ったサービスの選択ができるようにすべきです。

3 支援ガイドラインについて

提言の支援ガイドラインは大いに評価しています。その理由は、ガイドラインは1.「他の者との平等」「地域生活の実現」を基本原則とし、2.地域格差の是正のために、市町村は国のガイドラインを最低基準とする、3.ガイドラインは障害者等が参画して策定し、公開するとあり、現在の地域格差の是正が期待できるからです。

たとえば自立支援法の重度訪問介護が、東京では300時間や500時間が出ていますが、徳島県の私の住む自治体では40時間がやっとです。財源が無いと言いますが、同じ日本に住むALSの患者でありながら、信じられない格差です。常に側にだれかがいて痰の吸引を行わないと命に係わる者にとって、国のガイドラインが示されることには大変大きな意味があり、今後の支給量増加の希望を感じています。

また現在、和歌山市で自立支援法の支給時間量の是非をめぐってALSの患者さんが訴訟中です。原告の1人が亡くなられたことから緊急性が認められ、9月26日に「仮の義務付け」の決定(支給時間を介護保険を含め1日9時間を20時間に)が出ており、日本中の関係者が今後の経過を注目しています。

4 医療的ケアの拡充について

提言では、「地域生活に必要な医療的ケア(吸引等の他に、カニューレ交換・導尿・摘便・呼吸器操作等を含む)が、本人や家族が行うのと同等の生活支援行為として、学校、移動中など、地域生活のあらゆる場面で確保される」としています。現在、厚労省で「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」が行われており、来年4月より、法的に所定の研修を受けた介護職員等がたん吸引と経管栄養を行えるようになります。ただでさえ担い手が少ない状況下で、新たな研修制度により事業所やヘルパーが過度な負担にならないよう措置を講じるべきと思います。さらに、担い手が増えるためには特別加算等による介護報酬の措置を講ずる必要があります。

また、提言では「入院中においても、従来より継続的に介助し信頼関係を有する介助者(ヘルパー等)によるサポートを確保し、地域生活の継続を可能とする」と示されています。病院内の重度障害者へのヘルパー付き添いは、コミュニケーション支援に限り、平成20年より自立支援法で認められ、介護保険でも同様の要件で今年7月に認められました。しかし、コミュニケーション支援限定では不十分です。重度障害者に慣れたヘルパーによる体位交換などの介助や見守りが在宅と変わらず可能になることで、重度障害者のレスパイト入院も利用が増え、家族の疲労が緩和できるのです。

5 介護タクシーの見直し整備など

私が外出する時は、車いすのまま乗車できる介護タクシーを利用しますが、料金が高額な上に、利用するたびに料金が違い驚きます。たとえば、東京駅~高田馬場が1万1千円の時と6千円の時があります。もし皆さんが普段乗るタクシーが、こんなに高額で乗るたびに料金が違ったらとても利用できないでしょう?また、地方では介護タクシーも少なく選択も困難です。

この件に限らず、こういうことの一つ一つが、私たちの生活を圧迫し、外出をはじめとする社会参加を困難にし、ノーマライゼーションの障害になっている現実を、皆さんにぜひ理解していただきたいと願っています。

(ながおよしあき 日本ALS協会会長)