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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

本人中心の相談支援を願い続けて

門屋充郎

私は精神障害者となった人たちが、安心して地域で自分の暮らしができることを願い、ささやかな支援を続けて40年が過ぎました。振り返るとほんの一部の人だけにほんの少しの支援ができたにすぎず、多くの人がいまだ社会的入院を続けています。何と不幸なことか、何と力のない専門職ばかりなのかと深刻に考えてしまいます。私もその一人だから何とも情けない思いです。

私は現場で頑張ることに加えて、政策・制度の改革を願い、微力ながらいろいろと取り組んできました。今回の障害者総合福祉法の検討にも関わることができ、私にとっては戦後、最も期待のできる法体系の骨格提言が出たと考えています。推進会議が了承し、蓮舫内閣府特命担当大臣から手渡された小宮山厚労大臣は「与党とも相談しながら来年の通常国会への法案提案を目指したい」と発言されたようです。ぜひ、骨格提言の意をくみ取った法律にしていただきたいと願うばかりです。

私は精神科のソーシャルワーカーとして専門職の自覚を持ち、精神障害者の利益となる支援を常に心がけてきました。自立支援法ができてからは三障害の相談支援事業を行い、本人中心を心がけ続けてきました。しかし、現実の課題は多く、特に障害者が支援や保護の対象者として客体化され、疾病と障害を中心に限られた援助が続けられ、本人中心の、個人として尊厳を持って生きることを支援することは極めて困難な状態が続いています。骨格提言はここに深くメスを入れることができ、障害者福祉の歴史の中で画期的な事と感じています。

骨格提言で重要なことは、6つの目標を求めたことにあります。1.障害のない市民との平等と公平、2.谷間や空白の解消、3.格差の是正、4.放置できない社会問題の解決、5.本人のニーズにあった支援サービス、6.安定した予算の確保。そして法の理念とした、1.保護の対象から権利の主体へ、2.医学モデルから社会モデルへ、の転換を掲げたことは高く評価したいと思います。

サービス内容についてはまだまだ吟味検討し、精緻ないかなる障害にも対応できるものを追い求め続ける必要があります。医学や科学の進歩や多様な資源の開発、障害者が普通に生きられる社会システムなどの進展に期待を寄せつつ制度が拡大されていくことが法の目的にかなうことと期待しています。

現状の相談支援は極めて未熟な状態にあります。これまで相談の大部分は家族が担い、友人・知人が助けとなり、手続きと紹介は行政が、そして施設・専門機関などの多様なスタッフが担ってきました。ワンストップで総合的に本人中心の相談を行うシステムはなかったと言えます。相談機能が分担・細分化されてきた歴史だったのです。

わが国は、障害問題を個人的課題に押し込めてきたことから家族負担が極めて重くなっている社会です。故に相談および相談支援の社会化は喫緊の課題であると考えてきました。それは障害者すべてが個人として、障害のない人と同様に社会のシステムによって生きられる社会へと変わるべきと考えてきたからです。ごく当たり前の個人の社会化はいかなる立場や状態であっても等しく保障される社会とするために、障害のある人がない人との平等を担保するために、本人中心の相談支援が独立して存在する必要があると考えてきました。本人に寄り添い安心を提供できる存在として、重要な社会資源となる必要があると考えています。

しかし、相談支援はいらない、あてにならない、役に立たないとの批判があることも承知しています。これらは今までの相談支援に出会っての意見です。これからの相談支援は、それを行うマンパワーを育てる課題があります。

私は「相談支援」と「支給決定」の作業部会に属し検討させてもらいました。支給決定は提言の中で極めて注目すべき結論を提案しています。それは障害程度区分を廃止し、協議調整モデルを導入したことです。本人自ら調整することを基本とし、本人を支え、本人の意向に沿った支援を行う相談支援が重要となってきます。相談支援専門員は「すべての人間の尊厳を認め、いかなる状況においても自己決定を尊重し、障害者本人及び家族との信頼関係を築き、人権と社会正義を実践の根底に置く」としています。そして「本人の意向やニーズを聴き取り、必要に応じて本人中心支援計画およびサービス利用計画の策定にかかる支援を行う。(略)制度に基づく支援に結びつけるだけでなく、制度に基づかない支援を含む福祉に限らない教育、医療、労働、経済保障、住宅制度等々あらゆる資源の動員を図る努力をする」としています。制度内サービスだけで生活が成立するわけではなく、本人中心支援計画を立てることをもってサービス利用計画を包含していると考えるべきです。本人の生きる希望や思い、時に夢を明確にしてそれに向かう支援を行うことが必要なのです。人生は希望なしに生きることはとても困難だからです。

本人中心には、支援による意思(自己)決定も含まれています。相談支援は本人の生活の場で行われること、長期にわたる支援が必要なこともあり、訪問、継続相談がごく普通の相談支援となってきます。重要なことは、障害当事者によるエンパワメント事業を一定の地域に置くことを提案していることです。都道府県が責任を持って整備し、サービス提供事業所や支給決定権のある行政などからの独立によって相談支援体制が本人中心支援を貫けることを掲げていることは画期的です。

介護保険をモデルとした自立支援法を廃止するということは、介護保険との決別となりました。相談支援では常に課題となっていた制度内ケアマネジメントは否定され、本人中心の総合的・包括的ニーズ中心の継続的な生活支援相談が新法において実現できると期待しています。

(かどやみつお NPO法人十勝障がい者支援センター理事長)