音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

1000字提言

東日本大震災とゾウとハツカネズミ

野際紗綾子

2011年3月13日深夜。辿り着いた宮城県多賀城市では、海水でぐちゃぐちゃの泥の上に車が積み重なり、停電で真っ暗な街で、火災の炎だけが上がっていた。これまで海外で見てきたいくつもの災害現場を一つに凝縮したかのような恐ろしい光景が、目の前に広がっていた。

「なんて酷い」という言葉にならない思いが体を渦巻いたが、それらを支援活動のエネルギーに変えようと自分を奮い立たせた。この時まず気になったのが、障害のある方々やご高齢の方々である。途上国での災害支援の経験から、このような時、特に危機にさらされることが予想されたからだ。

翌日から、障害者施設や避難所への物資配布に力を注いだ。だが、圧倒的な被害状況を前に無力感ばかりが募った。迷いを消してくれたのは宮城県の障害福祉課長の言葉だった。「各施設へ安否確認をしたいのだが電話がつながらない。物資配布時に安否確認もお願いします」。そう言って県内の障害者施設のリストをくださった。

そう、小さなNGOだけどやるべきことはたくさんある。

ある言葉を思い出した。「日本政府は象さんなのよ。図体は大きいけれど動きはゆっくりだから、私たちはハツカネズミのようにちょこまか動き回るのよ」。96歳で亡くなる直前まで難民支援等に尽力した、当会の創設者の相馬雪香の言葉だった。

それから7か月間、県や日本障害フォーラム(JDF)等の関連団体と連携しながら、延べ1,100か所、障害者・高齢者をはじめとする7万5千人以上の被災者に、食料や生活必需品等を配り続けた。今も仙台市と盛岡市に事務所を構え、被災県出身の職員が多く活動している。

現在力を入れているのは、障害者・高齢者施設の修繕である。寄付や国内外の助成金を活用して、岩手県と宮城県の約60の施設修繕や機械設備の購入を行っている。支援先は国庫補助金などの対象外となる施設を中心に選定している。また、行政と民間とが円滑に連携できるように、障害福祉分野の調整会議の開催支援も行っている。

小さなハツカネズミだが強い思いはある。東日本大震災からの復興は、障害者権利条約の推進と一体にならないといけない。「障害のある人に優しい社会はすべての人にとって優しい社会」という、当たり前だけどまだ浸透していない理念こそが、これからの社会の復興にとって何よりも大切だと信じるから。

(のぎわさやこ 特定非営利活動法人難民を助ける会 東北事務所長)