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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年12月号

QRコードに注目

山本弘子

同じ袋やパッケージの品物を買って来た時に、どの商品が何だったかということが後で分からなくなったことはないだろうか?今までの私なら、買った時に、どちらかに印をつけてもらっていた。たとえば、同じパッケージのお菓子を買ったとしよう。片方にテープを貼るとか、輪ゴムを付けておくとか。

しかし、その時には覚えていたはずなのに、家に帰って商品を取り出した時に、何だったかを区別したはずなのに、どちらにテープを貼ったものか、輪ゴムを付けたものか、すっかり忘れていることがあった。その場に視力がある者がいれば、聞けば解決することであるが、そんな時に限って、視力のある者がだれもいないことが多々あるのだ。

そこで視覚障がい者も、だれの眼も借りずに見分ける方法はないだろうか?と考えた。購入した商品の自己管理ができる方法を考えた時に、「生活協同組合 おおさかパルコープ」のグループ活動として毎月例会を行っている「さざ波」でのことを思い出した。

「さざ波」は、視覚障がい者と晴眼者とが一緒に活動しているグループである。グループを立ち上げて、早くも5年が過ぎたが、QRコード(注1)に注目した当時、スーパーでQRコード付きの商品をピックアップしたことがあった。その結果分かったことは、QRコードは商品に印刷してあり、私たちが思うものとは、ほど遠いものだった。

そこにはどれを見ても、ホームページに誘導するURLが印刷してあったのである。読んでみると、ホームページに入らないと、その商品が何なのかさえ分からなかった。少なくともURLとともに、商品名が印刷されていれば自己管理に使えるのにと思ったものである。

私たちは視力がないことにより、商品名やその説明がパッケージのどこに印刷されているのか分からないので、困る。QRコードを印刷したシールを商品に貼ってもらい、指で確認できる方法を取ってもらいたいと思っていた。当時はどこかのメーカーにお願いに行こうか?との話しも出ていたが、さざ波メンバーでQRコードに商品名などを入れてもらい、紙に印刷してもらって、読むところから始めた。

QRコードに着目した理由の一つは、ほとんどの視覚障がい者が持ち歩いている音声付き携帯電話で読めることが分かったからである。今から4年前のことである。

そんな折、私は静岡大学の先生が、バーコード(13桁の数字)をスキャンして、商品の見分けができることを始められたという情報を知った。

早速、先生にメールを送って、パルコープでも、「バーコードの体験会」を行っていただけないかとお願いしてみた。

話は進み、昨年の4月29日に、静岡大学の先生が学生さんと一緒にパルコープに来てくださり、1日体験会に応じてくださったのである。

午前中は私たちさざ波メンバーが体験させてもらった。その後は、「さざ波」と交流のあったグループに来ていただき、体験してもらったのである。午後からは、一般の視覚障がい者にも体験の時間を設けて、午後の3時頃まで先生が対応してくださった。

その日は、バーコードを読む機械を、4種類持って来てくれた。中には、商品を箱に入れるだけでスキャナーがバーコードを読み取って、あっと言う間に商品名を読んだものもあり、驚いたものである。「こんな物があれば、商品の見分けに便利だろうな」と思ってその値段を聞いたものの、その金額にもまた驚いたのである。

体験会が終了してから、さざ波メンバーと先生や学生さんとの懇談を行ったのが、つい最近のように思い出される。

懇談の中では、「さざ波」はQRコードに注目している話もしたと思うし、店舗に買い物に行った時に、買った商品のQRコードを付けてもらえれば、後で分からなくなっても、そのシールに書いてあるQRコードを読むことで、商品データが分かるというような話もしたと思う。その後、「さざ波」として、QRコードをパルコープの店舗で発行してほしいと交渉を続けたのである。

静岡大学の先生や学生さんが協力してくださることになり、パルコープの中で、私たちが行おうとしていることに関係ある部所に視覚障がい者の思いを伝えた結果、協力していただけることになった。1年が過ぎた今年、鶴見店でのテスト期間を経て、8月1日より正式に、買った商品をレジで精算した後にサービスカウンターに持って行き、QRコード付きのシールを各商品に貼っていただけるサービスが始まったのである。

「さざ波」では、QRコードの読み取り講習会を続けてきたので、8月1日より始まったQRコードのシール発行は、最高の喜びとなった。

また、読み取りの時に、携帯を6センチ以上商品から離すのだが、視覚障がい者は、どうしても携帯が斜めになる傾向がある。

それを解消するために、メンバーのYさんが、携帯を置く台を考えてくださった。携帯を台に乗せて、携帯のカメラの下に読み取りたい物を置けば、あっと言う間に電子音がして、読み取れたことを教えてくれる。これには本当に驚くやら、うれしいやら!

パルコープの視覚障がい者にも、早速読み取ってもらいたくて、講習会を開いた。

次のような感想があった。

1.ちょっとした工夫で、こんなに楽しく読みあげてくれるのかと驚いた。

2.電話固定台を作ってくださったことに感謝です。

3.一定の距離をおいた読み取りでほぼ完璧に読めることが分かった。

また、読み取る時の注意点なども考慮しておく必要があるので、次に紹介します。

1.カメラを使用するので、明るい所で行うこと。

2.QRコードが貼り付けられた部分が、なるべく平らになるように整えて読み取ること。

その後、各商品のバーコードをスキャンして、そのデータをQRコードに印刷するプログラムを静岡大学の方で作っていただき、私たちの夢が叶えられた。全国初のことだ。今までは買った後で分からなくなる商品もあったが、このQRコードを指で触って分かる方法で、そして商品に貼ってもらうことで、視覚障がい者も自分で管理できるようになった。QRコードも、立派な「ユニバーサル・デザイン」だと言えると思っている。

現在よく見かけるQRコードは、バス停の時刻表に使われているが、今後はこのQRコードのシールを、食品だけでなく、官公庁からのお知らせやダイレクト・メールなどの郵便物にも付けてもらえれば、自分でどこからきた郵便なのかを見分けることができて、どんなにか便利になるだろう、と思っている。

ぜひそのような日が訪れることを希望しつつ、関係機関にも要望をしていきたい。

(やまもとひろこ おおさかパルコープさざ波代表)


(注1) QRコードとは、1994年にデンソーウェーブが開発した2次元コードの方式の一つ。携帯電話のアドレス読み取り機能などに採用されている。QRコードは小さな正方形の点を 縦横同じ数だけ並べたマトリックス型2次元コードで、一辺に21個並べたものである。