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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年12月号

ユニバーサルデザインを考える

太田陽介

聴覚障害者は耳が聞こえないために音声による情報を十分に得られないことにより、社会のさまざまな「情報」を得ることができず、社会の流れに対応できない「情報」の障害者であるということができます。

最近はテレビに字幕がついたり、携帯電話で文字メールにより通信できるようになるなど、IT技術の進歩により、聴覚障害者にとって生活が便利になってきていますが、まだまだ十分ではなく、社会生活を営む上でさまざまな問題があります。

現在の社会の人口構成の多くを健聴者が占め、音声主体の社会構造であり、それが聴覚障害者に対する不便さを生み出すことになっています。

国連の世界保健機関(WHO)では聞こえのレベルが41dB(デシベル)から補聴器の装用が推奨されるとされており、この基準に基づくと、日本の聴覚障害者は約600万人と言われています。聴覚障害3級以上の身体障害者手帳所有者で、手話を使用してコミュニケーションしている聴覚障害者は約10万人いると推測できます。

聴覚障害者には、聴力の程度だけでなく、育った環境によって、手話を使用する人と使用しない人がいます。聴覚障害の有無は外見では判断しにくく、見た目には障害があるようには見えません。そのため「見えない障害者」とも言われています。

また、ほとんどのろう学校で日本語教育が行われていますが、日本語の習得のレベルには個人差があります。電話ができず、筆談も困難で商談がうまくいかなくて不利になることも多く、コミュニケーション能力がないとみなされる場合もあり、聴覚障害者がその職業に就くことを法的に制限している職業もあります。

このように社会的な理解の不足から、差別や不利につながる例が多くあります。聴覚障害者がその音声による情報を眼や身体などで理解できる機器を開発することにより、社会的バリアを排除でき、音声主体の社会を変革していくような取り組みが必要です。

眼で理解するということは、音声を光や文字に変換して伝達することであり、身体で知るということは、音声をバイブなどの振動に変換して伝達することであり、音声を臭いに変換して伝達する手段も開発されています。特に、眼で見えるようにするものが多く開発され、伝達方法の主流となっています。ただ、睡眠時などのように眼を閉じているような場合は、振動、臭いなどで知らせる方法が主流となっています。これらの方法は、火災警報機器などの伝達機能として開発され、商品販売もされています。

最近のインターネットの普及により、インターネットで商品を注文したり、航空券などを予約したり、旅館、ホテルを手配したりできるようになり、音声による電話のコミュニケーションが要らなくて済み、聴覚障害者にとっては便利になっています。これもバリアの排除の一つです。また、ある回転寿司の店に設置されている、テレビのような画面に写し出されているものを押して注文できる方法もすごく便利です。ほかに車のガソリンスタンドのセルフサービスが普及し、自分の好みでボタンを押して入れることができるようになっています。

これらのように、ボタンを押すだけで意思を伝達でき、音声によるコミュニケーションが不要な機器が普及し、健聴者だけではなく聴覚障害者にも使えるようになっていることには大きな意味があるのです。

しかし、新しく普及している機器やシステムにはバリアがある例もあります。たとえば、ドライブスルーの場合、注文するときは音声でしか伝達できず、聴覚障害者の場合は注文できません。アメリカのドライブスルーの機械には、聴覚障害者の場合はアシストという青いボタンがあり、それを押して車を商品の出る窓口のところに移動させて、注文の用紙を出してもらうようになっています。これはアメリカ障害者法(ADA)の効果も大きいと思いますので、日本にもそのような法律を整備することを要望しています。

ほかに、ある鉄道会社の経営合理化によって無人駅になった駅舎の中に切符の自動販売機が置かれ、切符などの購入方法を音声で説明していますが、これも聴覚障害者にとってはバリアであり、現在も改善を求めて交渉しています。このように合理化によって機械化するような場合は、聴覚障害者にとって使いやすいかどうかも考慮した設計が必要です。

冷蔵庫などの家庭用電気機器についている警告機能の音や、玄関のベルやファクスのベルなどの音を、光るものに変えて視覚的に感じるようにする工夫が必要です。

またスポーツ面では、ろう者のオリンピックと言われている、デフリンピックでは、100メートル競走のスタートの際に、審判員の打つピストン音の代わりとして、スタートラインと交差する8本の白いラインの前に置かれたランプ装置で、赤、黄、青の順にランプを照らしてスタートさせる方法で行われています。

このほか、災害時の問題として、東日本大震災の被災者である聴覚障害者で、地震後に消防車が赤い回転灯を回してサイレンを鳴らして走っているのを見たが、何の警報を出しているのか理解できずにいて、しばらくすると、突然津波が来たので慌てて2階へ避難したという例がありました。幸いにも無事でしたが、命に関わる問題です。

たとえば、津波の警報だったら赤色と同時に別の青色の回転灯も回す方法で、聴覚障害者に対して津波警報を伝達できる方法も考えられます。つまり、「光」の色を変えることにより、伝達内容を聴覚障害者に理解させる方法もあるのです。常に視覚的情報により判断している聴覚障害者には、音声の情報内容を「光」の色に変え、その色で情報内容を知らせるなどのいろいろな方法があれば、命を守ることができ、社会生活もしやすくなります。

ユニバーサルデザインを進めていく際には、伝達したい情報をどうすれば聴覚障害者に理解してもらうことができるかという視点が常に必要であり、その視点に立ったシステムおよび機器の開発に積極的に取り組んでいただきたいと願っています。

(おおたようすけ (財)全日本ろうあ連盟理事、福祉対策部長)


聴覚障害者にとって便利な機器

1.陸上スタート装置

審判員の打つピストン音の代わりとして赤、黄、青の順にランプを照らしてスタートを知らせる機器。

2.電子体温計

検温終了を体温計が震えて知らせる電子体温計。従来の体温計では終了音が聞き取りにくい場合があったが、この体温計は本体が振動するので、耳の不自由な方や高齢者の方にも検温終了が分かりやすい。また、大きく見やすい表示部や押しやすいスイッチやケースから取り出しやすいように「指がかり」など、見やすさ操作のしやすさに配慮されている。

3.くるくるタイマー

音とともにLEDが点滅し、設定した時間がきたことをお知らせしてくれるタイマー。時間の設定もタイマーの縁を回すだけで簡単にセットできる。