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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年12月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

シンポジウム「障害当事者の立場から二次障害の本質を考える」報告

牛嶋宏祐

障害者やその家族の医療に関する情報の交換、啓発を目的に2001年11月に活動を開始した、我々「障害者医療問題全国ネットワーク(二次障害情報ネット)」主催のシンポジウムもおかげさまで第9回を迎えることができました。

今回は9月19日(月)、残暑のなか、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターにて、100人以上の参加者がありました。講師に『リハビリの夜』などの著者で、脳性マヒの車いす使用者でもある、東京大学先端科学技術研究センター特任講師(小児科医)の熊谷晋一郎氏を迎え「痛みの当事者研究―動きと時間をとめる、覚めない悪夢について―」の講演をお願いしました。また、ポリオの会の稲村敦子氏の「リハビリテーション医療の打ち切り制度撤廃運動」の報告、我々の会の代表、駒村健二と弁護士の藤岡毅氏による、病院内介護の介護給付費請求訴訟(以下、駒村訴訟)の経過報告という内容でした。

稲村氏の報告

ポリオの会の稲村氏は、運動の柱であった多田富雄東大名誉教授が昨年、お亡くなりになられ、運動が停滞しつつある現状、その状態に患者自身も慣れつつあることに対する危機感、世の中から取り残されるという点で共通する東日本大震災の被災障害者や被災地の現状、それらに対する思いが、心にしみいる言葉で語られました。

介護給付費請求訴訟について

続いて、駒村自身と弁護士の藤岡氏から表題の報告が行われました。藤岡氏は障害者自立支援法違憲訴訟団の原告の一人で、全国弁護団の事務局長を務められています。

駒村訴訟とは、駒村が腸閉塞の疑いで入院する際、日常受けていた1日24時間の介護給付費が入院中は1日4時間に制限されたことに対する訴えです。被告側(行政側)の主張は介護給付費は居宅時に限る、また、保健医療機関は原則的に完全看護なので介護は必要ない、というものです。しかし、それに対する法的根拠は無く、1日4時間に制限することは、法の精神からもノーマライゼーションの思想からもかけ離れている、現実問題として入院中も介護は必要であり、原告勝訴の可能性は高いが、裁判をより多くの人に傍聴してもらうことが裁判官による真摯な審議を促す結果になるので、ぜひ、傍聴に来てほしいというお話でした。

その後、休憩に入り、NPO法人ジストニア友の会による、国会に提出する請願書への署名の協力依頼がありました。

熊谷氏の講演

休憩の後に熊谷氏の講演が始まりました。ここで我々の会と熊谷氏との関係と、今回のシンポジウムのテーマが決まったいきさつをご紹介したいと思います。

我々の会と熊谷氏の関係は13年ほど前、副代表の小佐野彰との出会いに始まります。東大の学生サークルと付き合いのあった小佐野と当時学生だった熊谷氏は、そのサークルを通して出会ったそうです。

我々の会はシンポジウムや季刊誌の発行をする中で、理学療法と外科療法の間をさまよう形で二次障害の予防、治療に対する知識の普及に努めてきました。しかし、立場の異なる先生方の個々の見解や療法をバラバラに紹介するにとどまり、障害者が主体的に二次障害に向きあうための有効な情報提供ができていないのではないかという反省を抱いていました。

そんな折り、熊谷氏の研究、著作に触れ、当事者にとって二次障害とは?その予防、治療の当事者としての目的、意味(社会や医療従事者の目的でなく)とは?を考え直すきっかけを与えてもらいました。熊谷氏のお話は、二次障害を抱えて日々暮らしている障害者により有益な情報提供になるのではないかと考え、熊谷氏に講演を依頼しました。

講演は、熊谷氏自らの体験談に始まり、医療技術の発達に伴い寿命が延びている脳性マヒ者の二次障害に関する海外の調査研究の紹介に移り、二次障害が、障害当事者にとってなぜ問題なのか、という核心の話になりました。

熊谷氏は二次障害の問題は二つあると言います。一つは今までできていたことができなくなること、もう一つは「痛み」です。前者はノーマライゼーションの浸透で解消可能なのに対して、「痛み」は解消が困難で、それが熊谷氏が「痛み」に注目する理由であると語られました。

「痛み」と脳性マヒについて、海外の調査研究の成果が示されました。脳性マヒの(筋)緊張のメカニズムと痛みを感じるメカニズムが共通すること、そこに着目した薬が開発されつつあることなどが紹介され、その後、痛みの詳しい説明に移りました。

「急性疼痛」は外傷や内部の損傷、炎症や脊髄や神経の遮断による痛みで、原因を突き止めそれを治せば収まるのに対して、「慢性疼痛」は、特定の原因がないのに痛みだけが続く状態を言います。

人は、日々、脳が内省モード(夜間、睡眠時などに昼間の活動の記憶が整理され自身の身体や周りのイメージを更新する状態)と作業モード(昼間身体を動かしながら、自分の身体情報や外部の情報を蓄える状態)の間を行き来しながら暮らしているが、「慢性疼痛」は内省モードの時に出現する。内省モードと作業モードのちょうど中間の状態(慣れた作業をしている状態)を保つことが、「慢性疼痛」を適度に抑えることになるが、障害者はその慣れた状態を保つのが難しいこと、それを改善するのが、バリアフリーなどの運動であるとのお話でした。

「痛かった記憶」と「痛みが再現する記憶」の違いは何かという疑問に対して、アスペルガー症候群の当事者研究の成果を引き合いに出しながら、「意味付け」されているか否か、による例を挙げられました。

人は意味付け(情動的な意味付け、分析的な意味付け、破局的な意味付け、など)の仕方によって、痛みが緩和されるかどうかが変わり、また、痛みの緩和に有効な「意味付け」には、お医者さんだけに頼らず自ら主体的に関わることが大事で、薬に頼ることも拒むべきではない、ことも話されました。

意味付けには病気や自分の障害、薬などの知識が必要ですが、それが有効に働くには、その知識を与えてくれる人(お医者さんなど)に対する信頼がないと成り立たなくなる、という話で締めくくられました。

その後、休憩をはさみ、質疑応答の時間を多くとり、最後に副代表の下重の挨拶で閉会となりました。

閉会後の懇談会でも質疑応答の時間がとられました。質問の内容としては、痛みの種類や治療、痛みの軽減法、二次障害の症状や予防に関するものなどでした。

熊谷氏の講演は、解(わか)りやすく、自分自身の体験からも、納得のいくものでした。我々が、二次障害に向き合う時に、これまで良くも悪くも医療従事者に振り回されてきた状況に一石を投じ、自分自身が自分の心と体に向き合うための、新たな世界を見せていただいたことに、新鮮な驚きと、ある種の清々しさを感じたシンポジウムとなりました。

(うしじまこうすけ 障害者医療問題全国ネットワーク幹事)