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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年12月号

トピックス

モンスバッケンRI次期会長に聞く
―ノルウェーの障害者福祉事情を中心に―

聞き手:松井亮輔(法政大学名誉教授)

2011年9月30日(金)~10月1日(土)、全国社会福祉協議会・灘尾ホールで開かれた第34回総合リハビリテーション研究大会で講演をするため、9月28日(水)から10月6日(木)にかけて来日された、国際リハビリテーション協会(RI)次期会長ヤン・アルネ・モンスバッケン氏(60歳、ノルウェー)から、主として同国の障害者福祉事情についてお話を伺った。ご家族は、夫人(栄養士)、長女(小学校教員)、次女(弁護士で、国土省法律担当専門官)、長男(統計庁職員)の5人で、今回は、次女と一緒に来日された。

▼昨日の午後来日され、今日は厚生労働省と内閣府を表敬訪問されるなど、極めてご多忙なスケジュールにもかかわらず、本誌のためにインタビューの機会を与えてくださったこと、こころからお礼申し上げます。

初来日と伺っていますが、2日間での日本の印象は、いかがですか。

まず、3月11日の東日本大震災でお亡くなりになられた方々に対して、こころからお悔やみ申し上げます。また、日本の皆様が、福島原発事故も含め、震災からの復興に向けて力を合わせ取り組んでおられることに敬意を表させていただきます。

今日、厚生労働省および内閣府を訪ね、担当者の方々から、障害者権利条約の批准を目指して国内法制度の見直し作業を着実にすすめられていること、特に昨年1月、障がい者制度改革推進本部の下に設置された、障害当事者が過半数を占める、障がい者制度改革推進会議がその見直し作業で革新的な役割を果たしていることを伺い、大変感銘を受けました。これらの役所を訪ねるため、私たちのホテルがある新宿から霞が関まで地下鉄を利用しましたが、都内の道路や地下鉄のアクセシビリティーは、オスロと比べ、はるかに良いのに感心しました。

ノルウェーで障害者に特化したアクセシビリティーの法律ができたのは2007年で、同法は2025年までに建築物、公共交通機関、情報、サービス、電子機器などすべての人にアクセシブルなものにすることを求めています。したがって、ノルウェーにおけるアクセシビリティーの改善は、ようやく始まったばかりといえます。

▼日本はまだ障害者権利条約を批准していませんが、ノルウェーはどうでしょうか。

ノルウェーも日本同様、障害者権利条約に照らして国内法制度の見直しをした上で批准するという方式をとっています。最後まで残っていた、知的障害者に『支援つき自己決定』を保障するための法律(「後見法」)が来年には施行されるので、それに合わせて権利条約が批准されることになると思われます。支援つき自己決定は、知的障害者が地域でどのような暮らし方や働き方がしたいのかについて、本人自らが決められるよう、必要な支援をすることを意図したもので、彼らの社会への完全参加と平等を実現する上で、極めて重要な法律といえます。

▼そもそもどのようなきっかけでリハビリテーションや障害者福祉に関わるようになられたのでしょうか。

20歳の時、当時義務づけられていた1年間の兵役に就く代わりに、18か月間、知的障害者施設でボランティアとして働きました。その施設自体はよく整備され、利用者にも良心的なサービスが提供されていましたが、知的障害者がいつまでも施設内で処遇されることに疑問を持ちました。彼らが施設ではなく、地域で生活できるよう支援するために自分に何ができるかを考え、当時大学には福祉専門職養成コースはなかったので看護大学に入り、看護師の資格を取りました。そして看護師として医療現場での実践を経て、看護大学で看護師の養成に携わるようになったことで、リハビリテーションや障害者福祉分野とも密接に関わるようになりました。

その経験を買われ、1990年代中ごろからノルウェー障害者連合会理事や会長、ヨーロッパ障害フォーラム理事に就任。2008年にはRIノルウェー会長、RIヨーロッパ地域副会長を経て、2010年11月、コペンハーゲンで開かれたRI総会で次期会長に選ばれました。

医療やリハビリテーション分野への予算配分を増やすべく国や地方自治体へのロビー活動経験を活かして、1995年から2007年まで居住地であるユービック市(人口約3万人)の市会議員(市長と副市長以外は全員無給)を務めました。その間、1996年から1999年には同市の社会民主党副代表や代表を務めたことから、国政にも多少関わるようになったのは、RI活動へのノルウェー政府の支援を得る上で有利だったと思います。

▼ノルウェーは福祉先進国として日本でもよく知られていますが、ノルウェーにおける障害分野の現状と課題についてお聞かせください。

ノルウェーの所得保障制度は世界のトップレベルと思われます。たとえば、日本の授産施設や小規模作業所に相当するシェルタード・ワークショップで就労している障害者の報酬自体はごくわずかですが、生活費に不足する部分を補うため、一人あたり年間400万円程度の手当が支給されています。定年退職した一般労働者の年間平均年金額約600万円と比べるとかなり低いですが、地域でそれなりの生活ができる金額といえます。

ノルウェーにとってこの分野での最大の課題は、働くことを希望する、あるいは潜在的失業状態にある約8万人の障害者に適切な職場を確保することです。そのための戦略をつくるため、労働省の下に事業主団体および障害関係団体関係者から構成される2つのタスクフォースが2006年に立ち上げられ、検討がすすめられてきました。その検討結果を踏まえて策定された、障害者雇用のための新戦略がこの10月6日、労働省から公表されることになっています。今のところこの新戦略の詳細は明らかではありませんが、議会での修正を経て、来年1月には実施されることになります。私たちは、その新戦略が障害者の雇用状況の改善に大いに寄与するものと期待しています。

▼来年RI会長に就任されるわけですが、新会長としてRIがこれからどのような役割を果たすべきとお考えですか。

RIは1922年に創設されて以来、リハビリテーションを国際的に推進することを主目的としてきましたが、原点に戻り、そのアイデンティティーを再確認しながら、障害者権利条約の各国での着実な履行に向けて、より積極的な役割を果たしていきたいと考えています。日本のRI加盟団体である、日本障害者リハビリテーション協会および高齢・障害・求職者雇用支援機構にはさらなるご協力をいただきたいと願っています。

▼来日されて2日目でお疲れになっているにもかかわらず、インタビューにこころよくご協力くださり、本当にありがとうございました。一層のご活躍を期待させていただきます。

(9月29日、於戸山サンライズ)