「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号
被災地障がい者支援センターふくしま、最近までの活動報告
白石清春
南相馬市の調査活動
被災地障がい者支援センターふくしま(以下、支援センターと略す)は、東日本大震災直後の3月19日に活動を開始する。4月6日に新たに事務所を設けて、正式に支援センターの開設式を行った。
支援センターの活動は、全国から送られてきた支援物資を被災した地域の障がい者事業所に送り届けることから始まった。それと並行して、きょうされんのボランティアさんたちと一緒に避難所回りをする。福島県で特に被害の大きかった南相馬市の障がい者関係の事業所支援と在宅障がい者の調査活動を行った。そのかいがあって、南相馬市では桜井市長の大英断のもと障がい者の名簿開示が行われ、在宅の障がい者の調査活動を行うことができた。
避難所や仮設住宅での所在確認
昨年の夏あたりから県内各地に仮設住宅が建設されたので、ボランティアさんたちと一緒に仮設住宅を回り、障がい者の所在の確認を行っていく。避難所回りと仮設住宅回りを精力的に行っていったが、どちらにも障がい者の存在は少なかった。ことに重度の身体障がい者が生活することを全くといっていいほど考えていない避難所と仮設住宅であった。なお、借り上げ住宅の情報は把握していないので分からないが、借り上げ住宅は一般住宅なので障がい者にとっては住みにくいものであろう。
支援センターでは、その他に県内の入所施設を回って、そこに避難している障がい者がいないかどうか調べていく活動も行っていった。その結果、大震災直後には避難していた障がい者がいたが、1週間後くらいには施設から出て自分の家や元の事業所に戻った障がい者が多かった。郡山市にあった大規模避難所の担当ドクターにお会いして話を聞く機会があり、そのドクターによると、障がい者や高齢者の避難所での生活は大変なので、100人規模で県外の施設に搬送したという。県外の施設の状況を把握することは難しく、いまだ確証を得られていない。
福島県を含む東北地方の障がい者福祉の状況は関東圏や関西、中部圏のそれとは大幅に遅れていて、経済状況もかなり低い。障がい者の福祉サービスの提供をなるべく低く抑える各地の行政の姿勢が感じられる。そのような状況もあり、大震災以前には重度の身体障がい者たちは数多く施設に入所している状況があったのではないかとも考えられる。
県への要望
支援センターでは、県に対しての提案・要望を3回にわたり行っていった。その影響もあってか、福島県では昨年の6月に「障がい者相談支援強化・充実事業」を新しく創設した。直接的な支援センターへの補助ではなかったが、私が理事長をしている「あいえるの会」への委託事業として受けることができ、支援センター内に相談支援員と事務職員(障がい者)を置いて、県内各地の支援相談員と連携して被災障がい者の相談の中枢的存在としての活動を行うことができるようになった。
相模原市に障がい者の避難拠点施設
福島県は地震、津波のほかに原発事故によって大量の放射性物質がまき散らされて、甚大な被害が出ている。被害は県外その他の地域にも及んでいる。放射線被害が一番現れるのは子どもたちで、その次に免疫力が低下した障がい者や高齢者である。
支援センターとFIL(福島県自立生活センター協議会)は連携して、サテライト自立生活センター設立プロジェクトを立ち上げ、ゆめ風基金やJIL(全国自立生活センター協議会)などの応援を受けて、障がい者の県外避難を容易にするための拠点であるILハウスMUGENを神奈川県相模原市に設けた。今年の2月から3月にかけて、県内の自立生活センター関係の障がい者の避難体験ツアーを行っていくことになっている。相模原市のほかにも県内の自立生活センターや支援センターの働きかけによって広島県、山口県、兵庫県、新潟県などにも障がい者が避難している。
勉強会の開催
支援センターとしては、ほかにもたくさんの事業や活動を行っている。昨年の9月22日には、全国の弁護士のネットワークである「“障害と人権”全国弁護士ネット」の弁護士さんたちに郡山市に来ていただき、被災地障がい者交流サロンで勉強会を行った。その関連で、今年の1月29日に東電による賠償問題を分かりやすく伝えていくための勉強会「障がい者のためのわかりやすい東電賠償学習会」を開催することができた。損害賠償請求書は分かりづらく分量も多く、障がい者が一人で請求書を作成することはなかなか難しい。弁護士さんや関係者に間に入っていただいて、賠償請求を行わなければならないような状況があるので、この勉強会は大事な役割を担っている。
UF―787プロジェクトとつながり∞ふくしまプロジェクト
その他に、「UF―787プロジェクト」という活動があって、放射性物質によって汚染された農地を抱える障がい者事業所で、放射性物質を吸着する効果があるというひまわりや菜の花を植えていく活動も行っていった。予想よりも放射性物質の吸着はなかったが、全国各地からひまわりの種が送られてきているので、その種で油を搾る実験をすることになっている。UF―787プロジェクトの中に、「つながり∞ふくしまプロジェクト」がある。大震災の被害によって仕事起こしがままならない浜通りの障がい者事業所が連携してカンバッジを作り、全国に販路を拡大していっている。
被災地交流サロン「しんせい」オープン
また県内の被災障がい者の交流を図り、ゆったりとくつろぐことのできる被災地障がい者交流サロン「しんせい」を11月にオープンした。12月からぼちぼちと活動を始め、各障がい者団体の会議や浜通りで被災し、避難先で事業を再開した障がい者事業所の利用者さんたちをお呼びした交流パーティーを12月と1月に開催している。12月23日には、全国各地から支援していただいたボランティアさんたちを招いて忘年会を開催した。今年の1月からは毎週火曜日に、演奏会・映画会・パソコン教室・ヨガ教室など幅広い催し物を開催して、被災障がい者たちをお呼びする機会を多く作っている。被災地交流サロン「しんせい」では、郡山市内の障がい者事業所と連携した形で、その事業所で作った作品も展示し、販売している。
さらに、障がい者事業所の仕事起こしのためのワークショップを開催している。サロンに顔を出してくれる障がい者の数はまだまだ少ないが、相談支援員からの情報や再度、仮設住宅を回って被災障がい者との交流を深め、サロンへ連れて来たいと考えている。
人材マッチング支援事業受託
浜通り地方の障がい者事業所では、震災の影響から職員が少ない(避難して)ところに、利用者の数が増えている状況がある。支援センターは、きょうされんと全国社会福祉協議会のボランティアさんたちに協力をいただいて、いくつかの障がい者事業所の職員さんの補助をお願いしている。今年の1月から、全国各地からボランティアとして来ていただいている方たちと職員の補助を求めている県内の障がい者事業所を結び付けていく「福祉・介護人材マッチング支援事業」の補助金が福島県から支給されることになった。
このマッチング支援事業のほかに、被災地障がい者交流サロン「しんせい」にも障がい者自立支援拠点整備事業として補助金が支給されることになった。これにより障がい者相談支援強化・充実事業がより充実した形で来年度も行っていくことができるようになるだろう。支援センターとしての地道な活動が福島県を動かし、岩手県や宮城県に先がけて県の補助金等を受けることができた。
最後に
福島県は原発事故によってまだまだ復興の道筋が見えない状況にある。被災障がい者に対する支援活動は今後も長く続いていくだろう。福島県のこの厳しい状況の中、いかにして障がい者の支援活動を続けていけるか、今後、支援センターの力が問われていくであろう。
(しらいしきよはる 被災地障がい者支援センターふくしま代表)