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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号

1000字提言

東日本大震災から1年、勝負はこれから

野際紗綾子

震災から間もなく1年。東京でテレビに被災地の状況が映ることはめっきり減ってきた。映っても東京近辺の食の安全性のことばかり。復興において圧倒的に足りないヒトとカネに、陰りゆく関心が追い打ちをかける。被災地で懸命に生きる人々はそんなに遠いのか。まして被災した障害者なんて想像の外ではないだろうか。

被災地は刻々と変わり続けている。当会は、震災直後は障害者・高齢者施設への緊急支援物資の配布を中心に行っていたが、半年後頃からは福祉施設の修繕や地域交流活動を徐々に本格化してきた。

障害者・高齢者施設では、これまでに約50施設で修繕や機材導入が完了し、被災障害者がかつての仲間との活動を再開した。家族や大切なものが失われたなかだからこそ、仲間と共に過ごせる場の重要性が強く伝わってきた。

また、災害救助法の対象外となる在宅の重症心身障害児・者の停電対策として行ったポータブル発電機の配布も、すべての要望に応えることができた。理学・作業療法士らと行う健康体操やマッサージや地域交流活動も継続が期待されている。

その一方で、多くの福祉施設では、もともと限られた利用者への工賃が、震災後にさらに減少するケースが見受けられた。多くの施設長が赤字経営からの脱却を切望されている。また発電機は届いても、重症心身障害者の避難を地域の支え合いの中でどう実現するのか、有効な対策・指針が存在しないことを危惧するご家族の声もあった。

新たな芽吹きもある。手工芸の得意な高齢者が周りの仮設住宅の住民に作り方を教え、それを販売したい企業が名乗りを上げた。障害者福祉施設・作業所利用者の社会参加や経済的自立の促進のために、中長期的な支援を表明した企業もある。障害者権利条約の推進に共感する欧米の財団も活動を支えてくださっている。

だが、先の見えない部分は依然大きい。12万人の被災者が失業する中、復興計画が目標とする8~10年後まで踏ん張れるか不安な人も多い。果たして復興は、障害の有無にかかわらずすべての被災者へ優しい形で進んでいるのか、疑問が残る。

「私にできることはあるのか」「何もできない自分が許せない、でも何ができるのか分からない」講演会でよく質問されるポイントだ。私はそんな時、こう答える。「その思いやりの気持ちと関心を、どうか持ち続けてください。その過程で無駄な事は一つもなく、役立つ日が必ず来ますから、その日がいつ来ても大丈夫なように心の準備をしておいてください」と。

震災から1年、そう、勝負はこれからなのだ。

(のぎわさやこ 特定非営利活動法人 難民を助ける会 東北事務所長)