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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号

リレー推進会議レポート15

第37回報告

尾上浩二

去る1月23日に第37回障がい者制度改革推進会議が開催され、「災害と障害者」をテーマに、被災地からのヒアリングと討論が行われた。

昨年3月11日の東日本大震災は、地震・津波に加えいまだに収束のメドが立っていない原発事故により多大な被害をもたらした。特に、障害者やその家族には、より一層の被害と困難がもたらされた。本誌2011年11月号の「東日本大震災における障害者の死亡率」にも述べられている通り、NHKや毎日新聞等の調査で、障害者の死亡率は通常の2倍に上ることが明らかになっている。「通常の2倍の死亡率・行方不明率」というのは、昨年5月の推進会議に障害者団体から提供された報告・調査の集計から推測されていたことと符合する。しかし、大震災から10か月以上が経つ今も、一部の自治体を除いて障害者の被害実態やニーズの把握・確認が、いまだになされていないことに、事態の深刻さが象徴されている。

こうしたなか、昨年12月に推進会議構成員は手分けをして、岩手・宮城・福島の被災3県の訪問調査を行った。そして、37回推進会議当日は、障害者救援・支援にあたっている団体、行政の5人の方からヒアリングを行った。

議論は、4つのコーナーに分かれて進められた。いずれも、貴重で重い内容の話であり、詳しくは、推進会議のウェブサイトにある資料と動画をご覧いただきたいが、いくつか印象的だった発言を記したい(敬称略)。

(1)「災害時要援護者」に対する取り組み

「高齢者・重度障害者を対象に、個人情報について同意の得られた方(66.94%)を対象に策定し、4280人の登録がある。今回の震災では地域全員の市民が避難となったため、機能しなかった」(西浦・南相馬市健康福祉部長)

「災害時要援護者名簿はあっても実際には役に立たなかった。東松島、女川町などでは保健師と同行調査できた」(小野・JDFみやぎ支援センター事務局長)

「自治体も当事者団体も避難支援ガイドラインは周知徹底されていない。名簿に関してはだれを掲載するかよりも、だれとどこへ避難するかが問題」(八幡・ゆめ風基金理事)

「福島は原発事故で、今も6万人が県外避難している」(白石・JDF被災地障害者支援センターふくしま代表)

(2)安否確認と支援ニーズの把握

「災害時における安否確認と支援ニーズの把握については行政の責任。地元のNPO法人とJDF障害者支援センターふくしまからの要請により、個人保護条例の特例を適用して開示した。一軒一軒に支援物資とともに安心を届け生命を守ることができた」(西浦)

「宮城県では情報は開示されなかった。避難支援ガイドラインでは、県がイニシアチブをとってやるべきことを明示すべき」(小野)

「制度としての障害者支援センターの位置づけが必要。1.支援ニーズをどこまで拾うか、2.だれが責任を持って提供するのか、3.どういう形で人を集めるのか、これら3つが一体でないと外部からの支援も難しい」(八幡)

(3)災害直後の障害者支援のあり方

「一般避難所は学校の体育館等がほとんど、障害者用トイレがなかったり段差があったり、バリアフリーとなっていない避難所が多く課題。国、県等が主体となり広域的に制度として福祉避難所の指定が必要」(西浦)

「厚労省は全国の福祉施設に対して応援職員の派遣登録を呼びかけ、多数の職員が登録。だが、派遣に伴う費用を被災地の受入事業者が負担するものだったため進まなかった。NPO法人等が対象にならなかった」(小野)

「福祉避難所がどこにあるのか障害者に知らされていない。一般避難所になっていた障害者福祉センターを障害者の避難所として活用できた」(白石)

「指定避難所を訪ねたが障害者は居場所がなくて帰らざるを得ない。自宅で暮らそうにも、避難所にいないと支援物資がもらえない。避難所よりも避難支援センターというものに変えて、地域全体の避難生活を支える仕組みにするべき」(八幡)

(4)復興に向けた障害者支援のあり方

「仮設住宅は、最初からバリアフリー設計とすべき。みなし仮設住宅について緩やかな基準にしてほしい。震災前よりも住みやすい地域づくりが復興の基本にあるべき」(小山・きょうされん岩手支援センター)

「復興住宅は、放射線量が極めて低い場所に建設し、すべてユニバーサルデザイン化を。万が一再度、大規模な原発事故が起こった場合、障害者や高齢者の迅速な避難支援行動がとれるような準備を」(白石)

「重度障害者と家族の多くがみなし仮設に住んでいると思われるが、実態が全く把握されていない。復興計画には震災以前よりも障害者や高齢者が暮らしやすい街づくりの視点が必要。国の責任が大きい」(小野)

これらのヒアリングを受けて、

「安全を理由に強制的に避難入院を強いられたり、特養へ入所させられた。被災地では、平常時の差別、格差が顕著に表れた。減災は災害リスクの軽減であり、その目標は差別、格差、排除をなくすことだ」(堂本委員)

「東北では、20歳を超えた障害者の多くは家族介護で成り立っており、震災により家族の介護力が低下、入所施設へとの結果を招いた。地域福祉サービスが育つ仕組みが必要」(北野委員)

等の指摘がなされた。

ヒアリングで改めて明らかになった多大な被害を踏まえて、防災ガイドラインの見直しや復興計画策定が今後、障害当事者の参画のもと進められることが重要だ。

最後に、アジア太平洋障害者の新十年に向けたインチョン戦略の策定についての報告や、総合福祉法をめぐる議論が行われた。また、東室長より、次回3月の推進会議が最終となり、今後「障害者政策委員会」に引き継がれていくことが明らかにされた。

(おのうえこうじ DPI日本会議)