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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

23年度障害者週間セミナー
「…だからできること―アートでつながる人と人」報告

MG☆SUZU

平成23年度内閣府「障害者週間行事」として12月7日と8日の2日間、明治学院大学アートホールにて連続セミナーが行われました。12月7日の明治学院大学社会学部社会福祉学科主催のセミナーは「…だからできること―アートでつながる人と人」というテーマで行われ、「障害とアート」に関わる活動をしている個人・団体が登壇し、それぞれの領域から発表や対談を行いました。

テーマにある「…」には、障害者、学生、ボランティア、高齢者、女性、男性、その他いろいろな言葉が入ります。アートは個人的な営みですが、その個人的な表現が、結果的に別な誰かとつながっていく、またそれがその人だからこそできること、となっていく。そんな不思議さをみんなで体感し、アートの持つ力を確認することを目指したセミナーでした。

第1部では、学生ボランティアチームMG☆SUZU(エムジースズ)による「学生だからできること―アートでつながるボランティア」と日本学術振興会特別研究員の荒井裕樹(あらいゆうき)さんによる講演「精神障害者のアート活動から」、明治学院大学ボランティアセンターコーディネーターの李永淑(りよんすく)さんによる「コーディネーターだからできること」の発表がありました。

第2部では、日本障害者協議会顧問で俳人の花田春兆(はなだしゅんちょう)さんが制作した「エビス曼荼羅」の上映のほか、話題のノンフィクション『困ってるひと』を著した、難病者であり、作家の大野更紗(おおのさらさ)さんが荒井さん、花田さんと「障害と芸術―過去・現在・未来」というテーマで対談を行いました。また、第1部と第2部の間の休憩時間に、MG☆SUZUが会場内で俳句ワークショップを行い、第2部の最後にお披露目会をしました。

学生だからできること

はじめに、本セミナーの司会進行を担当したMG☆SUZUの活動を紹介させていただきます。

MG☆SUZUは明治学院大学ボランティアセンターに所属する学生チームです。「アートでキャッチボール」をコンセプトに、港区内の特別養護老人ホームの利用者さんたちとアート制作を通じた交流を行っています。

私たちは、アートには作り手の思いや考え、その時の気持ちなどが込められていると感じています。目に見える形として完成された作品だけではなく、活動を通して生まれる人とのコミュニケーションそのものもアートなのだと捉えることで「アート=気持ち」としての表現に、より重点を置いた活動を目指しています。

アートを通して、利用者さんにもそのご家族の方にも笑顔になってもらいたい、多くの方に利用者さんの新たな魅力を伝えたいという思いから、大学内公共スペースでの作品展示会を昨年度から行っています。展示会を見た利用者さんのご家族の方から「うちのおばあちゃんってこういうこともできるんだ」という言葉をいただけたときはうれしさとやりがいを感じます。

しかし、私たち「学生」だからできることは、実はとても限られていると思います。私たちには知識も経験もありません。施設の利用者さんと関わるということを、大学に入って初めて経験する人もいます。利用者さんの状態やできることも、関わっていく中で徐々に分かっていくことですし、それへの対処も手探りです。誠意をもって接することは常に心がけているものの、当然、施設の職員の方々やご家族の方には到底かないません。

そこで、この利用者さんはどんなことが好きなのか、得意なのかということを、モノづくりの「アート」を通じて教わります。障害者や高齢者に対する固定観念がないことが時に幸いして、利用者さんの周囲の方もご存じなかった新たな一面を発見することもありますし、そうして知ることのできた魅力をいろんな方に知っていただきたいと活動しているわけですが、これは学生に限らずボランティアをしている人には共通して「できること」ではないかと思います。それに、利用者さんに楽しんでいただくということであれば、それぞれの施設や団体の職員さんがあらゆる手を尽くしてすでに行ってきていると思います。

では「学生だからできること」とは、一体何でしょうか。私たちは、アイデアや設備、能力等の面での行き詰まりを越えていくために、また、やるからには今までにない面白いことをしたいと思い、他の学生団体やボランティアセンターとのつながりを活用して、施設を越えた関わりによる新しい化学反応を生み出すことを考えました。それが「コラボレーション」です。

大学のボランティアセンターには地域の団体がいくつも登録されています。ボランティアセンターに所属している学生団体同士も定期的に情報交換を行っていますし、学生とボランティアセンターも密接にコミュニケーションを取っていて、このつながりが「コラボレーション」を実現するツールとなります。施設や団体に学生が関わることによって、大学の設備を使用することができたり、大きなイベントを行うには足りなかった人出不足が解消できることがあります。

さらに、施設や団体から一歩外に出て「コラボレーション」することによって、それぞれの「…だからできること」を生かし、できないことを補ってもらいながら、一つの時間を一緒に創り上げることができます。施設・団体・学生など、単独では短所や限界となってしまうことが、長所や可能性に変わり、その場にいた全員が笑顔になれる。そういった関わり方は、「大学」の「ボランティアセンター」にいる学生だからできることであり、私たちの唯一の強みではないかと思います。

「コラボレーション」は、人と人、人とモノが出会って初めて成り立ちます。私たち学生は、いわばそれらをつなぐ「架け橋」のような存在として、まだ見ぬ新しい出会いと笑顔を生み出すお手伝いができたらと思っています。

俳句ワークショップ

俳句ワークショップは、誰かの思い出の写真に別の誰かが俳句をつけ、お互いのエピソードを交換することで「アートでキャッチボール」できるワークです。花田春兆さんが制作したカレンダー(写真をテーマに俳句を詠み一つの作品とする)のアイデアをもとに生まれました。

連続セミナー当日は、ご参加された皆さまに俳句ワークショップを体験していただきました。初めは遠慮がちにされていた方も「一句、いかがですか」とお声掛けすると「どれどれ」と写真をのぞきに来てくださいました。俳句のテーマとして使用した写真は、目が見えない方が撮影したものでした。会場の方には初めそのことを伝えず、写真だけを見て句を詠んでいただきました。撮影者の方はその場にいらっしゃることができませんでしたが、会場の方々に読んでいただいた俳句を届けることによって、また新しいキャッチボールが生まれようとしているのだと肌で感じました。

セミナーの最後に行ったお披露目会では、ユーモアあふれる6作品に、笑いや感嘆の声があがり、講評をしてくださった花田さんが「いいね!」と顔をほころばせ、会場全体がとても和やかな雰囲気になりました。

おわりに

今回、MG☆SUZUとしてセミナーに参加させていただけたことを大変うれしく思っています。明治学院大学の学生でなければ、MG☆SUZUで花田春兆さんに出会っていなければ、叶わなかったことだと思います。私たちが積み重ねてきた小さな「コラボ」が、今回のイベントを通してさまざまな方に発信できたことはとても大きな財産です。今後も、一つ一つのご縁を大切にしながら、真っ直ぐな思いで活動に励んでいきたいと思います。