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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年6月号

情報・コミュニケーションの法整備に向けた取り組み

小中栄一

これまでろうあ連盟では、障害者自立支援法において、利用者負担は無料で必要なコミュニケーション支援が受けられる手話通訳制度の実施を広げていこうと運動を進めてきた。一方で、放送バリアフリーを目指して手話・字幕をつけてほしい、交通関係では、事故や遅延の案内を文字で知らせるシステムの要求など、社会の各分野でさまざまな要求活動を行ってきた。

障害者の制度を抜本的に改革する「障がい者制度改革推進会議」設置という動きに合わせて、私たちも各分野別のバラバラな運動ではなく、国連・障害者権利条約に基づき、聴覚障害者が求める「抜本的な改革」を発信することが大切ではないかと考え、2010年4月に「聴覚障害者制度改革推進中央本部」を発足させた。

具体的には、聴覚障害者の情報アクセスとコミュニケーションの権利が保障される社会の実現を求めていく国民的な運動を始めようと、情報・コミュニケーションの法整備を求める全国120万人署名運動、「We Loveコミュニケーション」パンフレット30万部普及運動に取り組むことになった。2010年8月27日に決起集会を行い、全国の地域本部に署名用紙とパンフレットを送付して2010年の秋から本格的に開始した。

聴覚障害者制度改革推進中央本部の意義は、ろう者、難聴・中途失聴者、盲ろう者という聴覚障害をもつ当事者の全国団体、そして手話通訳、要約筆記の支援全国団体が「聞こえない・聞こえにくい」というキーワードで初めて結集したことである。取り組みを進める中で、ろう者、難聴・中途失聴者、盲ろう者それぞれが手話、拡大文字、補聴器の聴覚保障、触手話や指点字等、日常使っているコミュニケーションが違い、社会に求める要望内容も違っているが、共通する課題や、その根本を探っていく過程において、まず、聞こえない・聞こえにくい人たちがいることを認識し、しっかりと向き合っていく社会になることが大切だと思うようになった。

また障がい者制度改革推進会議が、NPO法人CS障害者放送統一機構の「目で聴くテレビ」により手話・字幕付きで中継放送され、離れていても会議の様子が臨場感をもって知ることができた。会議では、視覚障害者のための点字資料やデータ配布、知的障害者のためのルビ付き配付資料が必要であり、そのため準備時間が必要なこと、会議進行についていけなかったら、いつでもストップをかけられる体制をとるなど、情報とコミュニケーションのバリアを抱えている人たちがいることが伝わってきた。情報とコミュニケーションのバリアのため、今まで取り上げてもらえなかった、忘れられてきた障害者の立場で取り組む運動として広げていこうと、パンフレットの名称は「We Loveコミュニケーション」と、決まった。

全国の地域本部の依頼に応じて学習会等の講師を派遣した地域は40を超え、各地で決起集会、学習会を行い、署名とパンフ普及に取り組んだ。東日本大震災の発生により被災者への支援活動・義援金活動も必要となり、二つの運動を並行していく厳しい情勢となったが、災害時の情報とコミュニケーション保障は命に関わることであり、震災からの復興計画においても情報とコミュニケーションのバリアのない社会の実現は重要な運動テーマであるとして、街頭署名活動などで活発に取り組んでいただいた。

2011年5月13日に、「We Love コミュニケーション 情報とコミュニケーションの法整備を求める全国集会~東日本大震災からの復興、聴覚障害者がより暮らしやすい社会の再生」を東京よみうり会館にて開催し、約700人が参加した。午前中、参加者による日比谷公園と国会周辺のデモ行動、衆・参議院厚生労働委員会所属議員への要請行動を行い、全国署名120万人、パンフ30万部普及の目標達成を全国の仲間が連帯感をもって共有するとともに、国会議員への要請行動により超党派での理解と支援に一定の成果を上げることができた。

全国署名は目標の120万筆にはあと少し届かなかったが、2011年9月27日に、全国から寄せられた署名1,163,876筆を国会に届ける「We Love コミュニケーション 情報・コミュニケーションの法律を求める全国集会」を衆議院議員会館にて開催し、約350人が参加して運動の中間総括を行うとともに、情報・コミュニケーション法(仮称)についてシンポジウムを行った。署名をみんなで確認した後、内閣府政務官および衆・参議院両議長へ提出するとともに、集会終了後、全国会議員711人への要請行動を行った。

そして、2010年4月16日の会議から15回余の会議を経て、2011年12月に「情報・コミュニケーション法の骨格に関する提言」を公表し、意見を広く募集するとともに、JDF各団体、行政、各政党等に理解と支援をお願いしているところである。

こうした運動を重ねていくことにより、政府の記者会見に手話通訳が、東日本大震災時の放送に字幕・手話が、政見放送に手話通訳と字幕が付くようになり、言語(手話を含む)・コミュニケーション方法の選択の機会確保等の障害者基本法改正などの進展が見られた。

さて、情報・コミュニケーション法(仮称)の骨格に関する提言のポイントを紙面の範囲でいくつか紹介したい。

障害者が地域から隔離されて施設や病院に入所・入院させられている状態の解消が強く求められているが、私たち聴覚障害者の場合は、情報が得られない、コミュニケーションができないというバリアにより、日常生活の中で隔離されていると言える。隔離された状態をなくし、情報とコミュニケーションを保障することにより、聴覚障害のない人と同じように地域生活を営むことを基本にして、対象者を情報・コミュニケーションに困難のあるすべての障害者とし、情報アクセス・コミュニケーションの権利保障に関する障害者の負担は無料であるべきとしている。

現在の実施主体は市町村とする仕組みになっているが、これにとどまらず、国、都道府県、市町村それぞれが情報・コミュニケーションを保障する内容・責務があることを指摘している。

障害者基本計画策定においては、医療、教育、労働、福祉等と同じように「情報・コミュニケーション」という柱を設けて施策を進めていただきたい。障害者基本計画策定には障害者から意見を聞くこととされているが、情報・コミュニケーションにバリアのある障害者は、会議についていくだけで精一杯で意見を言うことがなかなかできない。そのために、情報・コミュニケーションにバリアのある障害者が中心の委員会を別に設置することが必要と提起した。同時に、この委員会が、情報・コミュニケーションにこだわったモニタリング機関であり、差別を是正・救済する機関であってほしいとしている。

社会活動のそれぞれの分野における情報・コミュニケーション施策の基本的な柱を14分野に分けて整理し、これらを俯瞰して、私たちがどのような要望を持っているのかを目に見える形で出すことで広く社会への理解と支援につなげていきたい。

「コミュニケーション支援等従事者」については、さまざまな障害に応じて多様なコミュニケーション支援等があるが、まずボランティアではなく、専門性を持った支援者であるという考え方を確立することが必要である。養成、そして雇用、配置は、国・地方公共団体の責務であり、企業や店が雇用・配置することが困難なときは、助成措置を作るべきと考えている。

私たちの提言は始まったばかりであり、今後、公表した提言に対する意見を出してもらい修正を重ねていく必要がある。聴覚障害以外の情報とコミュニケーションのバリアを抱える障害当事者団体との協議も重ねていかなければならない。障害者基本法の改正が国会で採択されたときに、検討する課題として「障害者に係る情報コミュニケーションに関する制度」も入った附帯決議も採択された。改正障害者基本法は施行3年後に見直すとされており、これからが大切な期間であると認識して情報・コミュニケーション法(仮称)実現に取り組んでいきたい。

今まで、聞こえない、聞こえにくい等の情報・コミュニケーションのバリアのため、諦める、我慢を強いられる、遠慮する、みんなと一緒にいても隔離されているような状態に置かれていたが、本人の努力だけでなく、社会も変わらなければならない。どんな条件を作っていけば情報とコミュニケーションが保障されるかを本人、周囲の人々、国・都道府県・市町村、そして民間事業者等が一緒に考えていける社会になることを願い、当事者としての発信、運動を諦めず、連帯して続けていきたい。

(こなかえいいち 財団法人全日本ろうあ連盟副連盟長、聴覚障害者制度改革推進中央本部事務局長)