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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年6月号

情報にアクセスする力を育てる取り組み
~知る見るプログラム~

狩野晴子

知的障害のある人への情報提供の現状

知的障害のある人を対象としたわかりやすい情報提供は、1990年代から取り組まれているものの、必要な内容と量が本人に届いていない現状がある1)。特に、障害に関する情報提供については、その必要性が指摘されながらも本人向けに取り組まれた例は少ない。知的障害のある人が自分らしい暮らしをするためには、障害とは何かを知り、自分なりの可能性を見つけることが必要ではないだろうか。スウェーデンの本人活動のリーダー、オーケ・ヨハンソンは自身の経験から障害を知り、受けとめることを通して、初めて「自身の人生に何があったのかをすべて知ることができた」と述べている2)。そこで、全日本手をつなぐ育成会では、前述のような現状を鑑み、2011年より「知的障害のある本人による『障害を知る・可能性を見るプロジェクト』」をスタートさせた。

知る見るプログラムとは

この事業の目的は、自分らしく生きるための障害認識プログラムの開発と普及である。これらの障害認識プログラムは支援者が主導するものがほとんどだが、本事業では本人たちが体験的に自己理解を深めることができ、かつ本人の手で実施できるプログラムを目指していることが大きな特色である。本事業は、2011年度から2013年度までの3年計画で進められ、初年度はワークショッププログラムの開発、次年度は試験的ワークショップの開催、最終年度は本人向け・ファシリテーター養成講座の開催を予定している。

委員会は、全国各地の知的障害のある本人と支援に関わる関係者で構成されている。初回の会議では、それぞれの立場を尊重して、会議中に必要な支援やルール(わかりやすさ、文字の大きさ、休憩をとる間隔等)についての確認が行われ、全員が会議に参加できるよう配慮がなされた。また、長い事業名をわかりやすくするため、通称を決めた。そして決定したのが、「障害を知り、自分らしく人生を歩むための みんなで 知る見るプログラム(略して「知る見るプログラム」という)」である。これにより委員全員が、自分がこの事業に関わっているという実感を一層強く持つことができた。

障害を受けとめるということ

委員会でまず行ったことは、委員自身の障害を受けとめた経験についての意見交換だった。障害について知った時期、当時の気持ち、受けとめた過程、乗り越えた過程について語ってもらった。そして、次のことが共通の認識として導き出された。

1.障害のあるなしにかかわらず、「助けてください」とは言いにくいものであること

2.自分の「できない」部分を見て見ぬふりをしないこと、自分を認められるプログラムが必要であること

3.「できない自分」「情けない自分」と向かい合ってそれを乗り越えた人の体験は、まだ越えていない人に勇気を与えること

4.自分の「障害」の部分に向き合うためには、自分の可能性を知ることが必要であり、友達との出会いや支援が必要であること

これらは、プログラムの開発を進めるうえで、委員会の原点となっている。

本人がわかる、本人ができるプログラムの開発

2011年度は、全国で行われている障害を認識するためのプログラムや、本人の可能性を広げる取り組みについての情報収集を行った。特に注目すべき活動を行っている5つの団体については、現地研修を行い、本人や関係者からお話を伺った。研修を通して、本人同士が安心して語り合うためには、導入部分に打ち解けるための仕掛けが必要であり、そのためにはゲーム感覚でできるカードを使った質問が有効な方法であることがわかった。

そして、1年間の研修と委員会での検討を経て、ワークショップの大まかな内容が次のように決まった。

1.仲間を作ることができるもの。2.ありのままの自分で良いと感じられるもの。3.自分には発揮できる力があると感じられるもの。4.自分自身の歴史をふりかえることができるもの。5.自分の中に押し込めてきた気持ちを話せるもの。6.必要なサービスなど情報が得られるもの。7.障害への否定的イメージを変えるきっかけになるもの。8.家族や他人との距離の取り方を学べるもの。9.適切なコミュニケーション方法を学べるもの。

各項目ごとにミニワークが用意され、ワークショップでは、1.~9.の中から好きなものを選んで組み合わせることができるようになる予定である。

今後の展開

2012年度は、全国4か所での試験的ワークショップの実施が計画されている。その結果を受けて、より良い内容へと修正を重ね、プログラムを完成させる予定である。そして、最終的な目標は、このプログラムを実施できるリーダー、ファシリテーターを養成し、全国各地にその輪が広がっていくことである。このプログラムが、一人でも多くの知的障害のある人が仲間と出会い、体験を共有し、自分の人生を自分のものとして歩むきっかけとなることを祈っている。

(かのうはるこ 静岡英和学院大学)


1)名川勝・渡辺勧持・薬師寺明子・杉田穏子・花崎三千子・堀江まゆみ・鈴木義弘・鈴木伸佳・岩本真紀子『「わかりやすい表現」(plain test)活動・研究の現状と方向性』、独立行政法人福祉医療機構(高齢者・障害者福祉基金)助成平成17年度「グループホーム支援方策推進事業」報告書、2006年

2)オーケ・ヨハンソン、クリスティーナ・ルンドグレン『さようなら施設 知的障害者の僕が自由をつかむまで』ぶどう社、1997年