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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年6月号

障害と情報アクセシビリティーに関する国連専門家会議と国際フォーラム

石井靖乃

2012年4月19~21日、東京都港区の日本財団ビルで開催された国連専門家会議「ICTと障害―アクセスと共生社会、すべての人のための開発へ」と、引き続いて21日午後に開催された国際フォーラム「障害者の情報コミュニケーションアクセスと共生社会:日本の経験と国際貢献から」の概要について報告する。

国連専門家会議「ICTと障害―アクセスと共生社会、すべての人のための開発へ」の概要

今回開催された国連専門家会議は「アクセシビリティーの確保と合理的配慮により、障害者が自立した生活を送り、生活の全ての側面に完全参加し、開発の実施者兼受益者となる権利を保障すること」を加盟国に求めた国連決議63/150と65/186を受けて開催された。この会議は、国連経済社会局と国連広報センター(東京)、そして情報アクセス分野で国際協力を実施している日本財団が協力し東京で開催されることとなった。

国連専門家会議とは、特定分野の専門家を招聘して報告や提言をまとめるために開かれる国連の公式会議である。会議には政府機関、国際機関、NPO、大学、企業等に属する、障害当事者も含めた専門家が14か国から30人余り参加し、「社会と開発へのアクセスと政策」「情報コミュニケーション技術の規格と応用」「災害と危機管理における情報コミュニケーションアクセス」の3つの分科会に分かれて議論した。特に災害時の情報アクセシビリティーが重視され、特別セッションが開かれたことは注目に値する。

専門家会議の提言

本専門家会議の提言は報告書にまとめられ、2012年9月に開催される第5回障害者権利条約締約国会議や2013年秋の国連ハイレベル会合に提出され活用される。提言のいくつかを分科会ごとに紹介する。

【グループ1】社会と開発へのアクセスと政策

  • 障害者権利条約批准国の約半数にしかインクルーシブな情報コミュニケーション政策がなく、適切な施策が実施されている国はさらに少ない。加盟国は速やかに、障害当事者参加の下、情報コミュニケーション政策を立案し適切な施策を実施すべきである。
  • 世界的な開発目標に情報アクセシビリティーを重要課題として組み込むべきである。
  • 政府が公的資金で機器を調達する際、アクセシブルな規格を購入条件として徹底することで、アクセシブルな機器の普及を促すべきである。

【グループ2】情報コミュニケーション技術の規格と応用

  • 個々の支援機器にアクセシビリティーへの対応を委ねる発想から、通信や機器の新規格を統一し、開発前段階からアクセシビリティーへの対応を組み込むべきである。
  • 不特定多数の人々がウェブサイトやアプリを開発しており、アクセシビリティーを徹底することは困難である。一般の人々が使う作成用ソフトにアクセシブルなウェブサイトや、アプリが自動的に出来上がる機能をあらかじめ付加すべきである。

【グループ3】災害と危機管理における情報コミュニケーションアクセス

  • 災害と危機管理対策において障害者を区別せず、障害者を組み込んだインクルーシブな対策を地域コミュニティーで準備すべきである。
  • 国や地方の防災・救援・復興計画に障害当事者が参画すべきである。
  • 災害情報は誰にでも分かりやすい言語・表現を用い、さまざまなコミュニケーションニーズに対応するために多様なフォーマットと通信手段を活用すべきである。
  • 車いすのマークが世界中どこでも共通で分かりやすく使われているように、情報アクセス困難を表す国際的なマークを作成すべきである。

特別セッション「障害とアクセスを組み込んだ自然災害・緊急事態への対応と政策」

NHKの迫田朋子氏は番組映像を使い、震災直後の障害者の避難の様子や被災状況を説明し、独自のアンケート調査の結果、障害者の死亡率が高かったことを指摘した。日本障害フォーラムの藤井克徳氏も障害者の死亡率の高さに言及し、被災地の障害者の実態がいまだ詳(つまび)らかでないこと、個人情報保護法が安否確認や生活支援の壁になっていることを指摘し、早急な対策実施の必要性を強調した。

宮城教育大学の松﨑丈准教授は、災害時に聴覚障害者が直面する情報アクセスの困難について指摘し、耐水性・携帯性に優れた発電機能付き通信端末の開発や遠隔手話・パソコン通訳支援体制の構築を訴えた。

米国連邦緊急事態管理庁の障害者担当マーシー・ロス氏は、ハリケーン多発地域での地域間支援ネットワーク構築について報告した。その他、スイス、ロシア、ハイチ、国連国際防災戦略事務局の参加者がスカイプ等を利用して報告を行った。

国際フォーラム「障害者の情報コミュニケーションアクセスと共生社会:日本の経験と国際貢献から」の概要

2日半に渡り開催された国連専門家会議に引き続き、国際フォーラムが約70人の参加を得て開催された。フォーラムは第1部が専門家会議の報告、第2部が日本からの報告という構成であった。はじめに、国連経済社会局の伊東亜紀子氏が先端技術立国としての日本の実績と東日本大震災の教訓を提言に盛り込むという意味において、この時期に日本で専門家会議を行う意義を強調した。

第1部では3つの分科会からそれぞれの提言について説明が行われた(内容は前述を参照)。第2部では最初に、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会常務理事の新谷友良氏が情報コミュニケーションへのアクセスは社会生活や経済活動の範囲にとどまらず、人権を守るためにも必要であり、障害者に限らず社会の成員すべてが情報コミュニケーションへアクセスできる社会が本当の「共生社会」であると述べた。

次に、内閣府障がい者制度改革推進会議担当室政策企画調査官の金政玉氏から、障害者権利条約批准に向けた制度改革の動きと昨年改正された障害者基本法における情報コミュニケーションについて説明があった。

続いて、DAISYコンソーシアム理事の河村宏氏から、精神障害等を抱えた当事者の地域活動拠点でのDAISYを活用した防災訓練の事例が紹介された。また、同氏は日本の国際協力によるDAISYの開発・普及が英語圏における電子書籍の標準規格であるEPUBのアクセシビリティーに影響を及ぼしたと述べた。

最後に小職から、国際的な障害者支援活動への障害当事者の参加は必須だが、途上国では援助の受け手となり得る団体や個人が不足しており、国際協力の担い手となり得る障害当事者団体・個人の育成が急務であると問題提起した。

おわりに

昨年未曽有の大災害を経験したわが国において、障害と情報アクセシビリティーに関する国連専門家会議が開かれ、さまざまな問題点と提言がまとめられたことは大変時宜を得たものであった。今年7月に、外務省が仙台市など東北の4市で開催する大規模自然災害に関する国際会議や、2015年の国連防災会議において障害と情報アクセシビリティーが主要課題の一つとなるための布石となった。さらに、聴覚障害者制度改革推進中央本部が進めている「情報・コミュニケーション法(仮称)」制定の動きにとっても弾みとなることを期待したい。

(いしいやすのぶ (公財)日本財団国際協力グループ長)