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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年6月号

1000字提言

「メディアジャック」

堤未果

GW中、テレビをつけてもネットを開いても、二股をかけていたという某俳優のニュースが、これでもかというほど繰り返し流れていた。横にいた夫の川田龍平がこう言った。芸能ニュースやスキャンダルの類がトップニュースを占めた時は、要注意なのだと。国会では大衆の目が一つの方向にそれている時に、国民生活に影響する法改正や新法を導入することが多い。本当に国民が知るべきニュースを目立たせなくする効果もあり、薬害エイズ裁判で歴史的和解勧告が出た時は、どこからともなく現れた白装束団のニュースでかき消されたという。

今回もマスコミが二股騒ぎをトップに取り上げ続ける中、淡々としか扱われなかった歴史的出来事が確かにあった。1972年以来初めて、日本国内の全原発54基が停止したのだ。この日に向けて経産省前では、原発再稼働反対を掲げ座り込みとハンストが行われていた。90歳の瀬戸内寂聴氏、81歳の澤地久枝氏、73歳の鎌田慧氏…。作家の落合恵子氏が自身のブログに掲載した同抗議者たちの声明文は、力強い一本の線のように、私たち日本人の過去と未来を分けた。〈原発全停止が切りひらいたのは、原発がなくとも、わたしたちの生活にはなんら不自由がないという現実です〉。なぜならこの間政府とマスコミは、「原発が停止したら夏の電力が不足する」「日本経済が危機に陥る」とあちこちで力説していたからだ。

歴史をひも解けば分かるように、日本は原発稼働開始以来、「火力発電」を半分止めながら原発推進を進めてきた。稼働率45%以下に抑えられながら国内総電力の6割を供給してきた火力発電の稼働率を、7割上げれば問題なく賄えるはずだ。資源エネルギー庁の平成22年9月時点のデータでも、火力発電所出力は5380.6キロワットで、54基分の原発の合計出力を上回る。これに再生エネルギーや民間企業の自家発電分も合計すると、電力はむしろ大量に余るのだ。さらに現在、世界には電力の6割以上を自然エネルギーが占める国が、45か国ある。

自然エネルギーと言えばアイスランドやスカンジナビアの国ばかり取り上げられるが、電力の99%を水力発電で賄っているモザンビークやブータン、ネパールやパラグアイ、ザンビアなどの国について、一体私たちはどれほど知らされているだろう?さまざまな角度からの情報は、身を守るアイテムを確実に増やしてくれる。知るべきものを隠し、真実を深い霧でみえなくするメディアジャックには要注意だ。

一辺倒な情報を決して鵜呑(うの)みにせず、自らの頭で考え、そして未来を選ぶこと。手の中に選択肢があることは、今の日本で〈希望〉と同義語になる。

(つつみみか ジャーナリスト)