「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年6月号
知り隊おしえ隊
もう一つのオリンピック、パラリンピック
~第14回パラリンピックロンドン大会を見てみよう~
高橋明
パラリンピックへと発展した大会から60年
パラリンピックは、障害者のスポーツ大会において、最も大きな国際大会として知られています。1960年のローマ大会から4年に一度、オリンピックの後に「もう一つのオリンピック=パラリンピック(PARALYMPIC)」として開催されています。
パラリンピックとして発展した歩みをみると、1948年に、イギリスのストークマンデビル病院で、院長を務めていたDr.Guttmannが、第14回オリンピックロンドン大会の開会式(1948年7月29日)に合わせて、リハビリテーションの成果を競うことを目的に、車いす使用者のスポーツ大会を開催したことに始まります。
そして4年後の1952年、その大会にオランダチームが加わり、「国際ストーク・マンデビル競技大会」へと発展しました。1960年には、この大会をオリンピックの開催地でというDr.Guttmannたちの方針が実を結び、オリンピックローマ大会の後に、第9回国際ストーク・マンデビル競技大会として、ローマで開催されました。この大会が後に第1回パラリンピックとして位置づけられました。
そして1964年、第18回オリンピック東京大会の後に、第13回国際ストーク・マンデビル大会を兼ねて第2回パラリンピック東京大会が開催されました。この東京大会が日本の障害者スポーツの幕開けだと言われています。そして、この時に初めて「パラリンピック」という呼び名で日本人に親しまれました。
当時の「パラリンピック」とは、車いす使用者のスポーツ大会という意味で、対マヒ者(PARALYZED)のオリンピック(OLYMPIC)、パラリンピック(PARALYMPIC)と言われました。しかし、それ以後、開催された4年に一度のパラリンピックには、オリンピックと同じ開催地でもなく、パラリンピックという言葉はしばらくの間使われませんでした。あくまで東京大会の愛称のようなものになっていました。
それが、1988年、第24回オリンピックソウル大会の後に開催された第8回パラリンピックソウル大会で、パラリンピックという名称が24年ぶりに復活しました。ただ、24年の歳月の中でソウル大会は、車いす使用者だけでなく、切断者、機能障害者、視覚障害者、脳性マヒ者等も参加できる大会に発展し、対マヒ者のオリンピック(PARALYZED+OLYMPIC)の意味のパラリンピックではなく、もう一つのオリンピック=パラリンピック(PARALYMPIC=PARALLEL+OLYMPIC)と呼ばれるようになりました。
そして、ソウル大会の翌年の1989年に、国際パラリンピック委員会(IPC)が設立され、国際オリンピック委員会(IOC)との連携も取りながら、必ずしもオリンピックの開催地で開催されていなかったパラリンピックが、ソウル大会以後、オリンピックの開催地で必ずパラリンピックが開催されるようになりました。
そして、2001年の6月には、国際オリンピック委員会と国際パラリンピック委員会の間で合意書が交わされ、2008年の第13回パラリンピック北京大会からは、オリンピック組織委員会と国際パラリンピック委員会の共催でパラリンピックを運営するという組織間の統合も図られ、これによりオリンピック同様の規則・手順が採用され、より競技性が増したパラリンピックになりました。
パラリンピックは見ることから始まる。
このような歩みの中で、今年の第14回パラリンピックロンドン大会は、より魅力のある大会になると思っています。その一つに、パラリンピックに発展するきっかけになった「第1回国際ストーク・マンデビル競技大会(1952年)」から、ちょうど60年目という記念すべき年でもあり、パラリンピックが発祥の地に帰るという素晴らしい大会になることが想像できます。また、パラリンピックの創始者Dr.Guttmannが意識した1948年のオリンピックロンドン大会が14回目であったことと、今回のパラリンピックロンドン大会が14回目である因果関係も興味を引くところです。
Dr.Guttmannの名言「失った機能を数えるな、残った機能を最大限に生かせ」は、パラリンピックの原点であり、残存能力を最大限に使ってパフォーマンスする選手の姿は、見ているものに感動と勇気を呼び起こします。そして、その素晴らしいパフォーマンスを通して、オリンピックにも出場する選手も現れました。4年前のオリンピック北京大会には、2人の障害のある選手が活躍しました。
このようにオリンピックは技術や記録が優れていれば、障害のある人も出場できます。しかし、パラリンピックは障害がなければ出場できない大会としての評価もありますが、パラリンピックは、人間の可能性、変化する素晴らしさを教えてくれます。
私は、以前から障害者のスポーツは、「まず見ることが大切」と言い続けています。特にパラリンピックは、パラリンピアンの素晴らしいパフォーマンスを通して、勇気・元気・やる気を感じ取ることができます。
そのハイレベルなパフォーマンスレベルの一例ですが、視覚障害者(弱視)の男子100メートルで10秒96、両下腿切断者で10秒91で疾走します。健常者の世界記録に1秒と違うか違わない程度です。義足等の技術進歩も進めば、記録が逆転してしまうこともあるかもしれません。また、片下腿切断者よりも両下腿切断者のほうが記録が良いのもパラリンピックの特徴かもしれません。これは、障害のレベルで言えば両足切断者のほうが重度ですが、片足義足より両足義足のほうが身体的なバランスが良くなるからです。
このように医科学的なさまざまな観点から興味を持って、パラリンピックを見てほしいと思っています。パラリンピックを見ることにより、障害への理解と障害者のスポーツ振興に繋がると思っています。
第14回パラリンピックロンドン大会の概要と見どころ
2012年8月29日(開会式)から9月9日(閉会式)の12日間、ロンドン市内を中心に、およそ150か国・地域から約4,200人の選手が参加して開催されます。競技・種目は、21競技503種目が行われる予定で、日本選手は、現在のところ11競技に出場権を獲得しています。日本代表選手の決定は、正式に発表できるのは7月初旬だと聞いています。日本の選手団規模は、4年前の北京大会ぐらいの規模になると予想されます。
パラリンピックはご存じだと思いますが、聴覚障害者と内部障害者、精神障害者の競技はありません。また、知的障害者については、2000年のシドニー大会における障害詐称問題により出場が無期限停止になっていましたが、12年ぶりに一部の競技で今大会に参加が可能になります。日本からも知的障害者が参加予定です。
今回のロンドン大会において、日本選手の中で活躍が期待されている競技は、個人競技では、陸上競技や水泳競技、自転車競技、車いすテニスが注目される競技です。それぞれの競技で金メダル候補がいます。特に、車いすマラソンと車いすテニスに注目が集まっています。団体競技では、2004年のアテネ大会で銅メダルに輝いたゴールボールの女子チームと一昨年の世界選手権において、銅メダルを獲得し、世界ランキング3位の座を守り続けているウイルチェアーラグビーが男子の団体競技としては、初のメダル獲得の可能性があり、大いに注目されるところです。また、人気のある車椅子バスケットボール男子チームは、予選リーグで波に乗れば北京大会の7位を上回る成績が期待されます。
ロンドン大会でのメダルの獲得予想は、北京大会の結果から考えると世界とまだ開きがあります。50年ぶりに改正され施行(2011年8月24日)された「スポーツ基本法」に「障害者のトップアスリートの発掘・育成・強化、競技用具の調査研究等の推進」等も明記され、パラリンピックもオリンピックと同様の競技スポーツとして認知され、環境整備は進んでいますが、他の国の強化も進んでおり、ロンドン大会に向けては、北京大会の成績を目標とせざるを得ない状況です。
しかし、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を目指して、招致活動を進めている東京都にとっては、オリンピック・パラリンピックの選手たちが活躍することにより、国民の理解と開催賛成への支持率が上がることが期待され、力が入るところです。ぜひ、8月29日から始まるパラリンピックロンドン大会を見てみましょう。また、応援してください。
パラリンピック期間中、NHKテレビでは、30分程度のハイライトを連日放送される予定です。
(たかはしあきら NPO法人アダプテッドスポーツ・サポートセンター理事長)