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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年8月号

フォーラム2012

障害者政策委員会について

新垣和紀

1 はじめに

昨年の障害者基本法改正により、障害者政策委員会(以下「政策委員会」という)が内閣府に置かれることとなり、本年7月23日に第1回会合が開催された。以下、政策委員会の設置の経緯や役割等について概要を記していく。なお、本稿における分析は、あくまで個人的な見解に基づくものである。

2 経緯

平成18年に国連で採択され、19年にわが国も署名した障害者の権利に関する条約(仮称。以下「障害者権利条約」という)においては、「条約の実施を…監視するための枠組みを自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する」と規定されている。

政府は、障害者権利条約の締結に向けた国内法の整備をはじめとする障害者に係る制度の集中的な改革を行うため、平成21年12月、内閣総理大臣を本部長としすべての国務大臣により構成される「障がい者制度改革推進本部」を設置し、同本部の下で、平成22年1月から障害当事者を中心とする「障がい者制度改革推進会議」(以下「推進会議」という)を開催してきた。

平成22年6月、推進会議は「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」を取りまとめ、これを受けて政府は改革の工程表である「障害者制度改革の推進のための基本的な方向性について」を閣議決定し、その中で、「障害者権利条約の実施状況の監視等を担ういわゆるモニタリング機関の法的位置づけ等も含め、必要な法整備の在り方を検討し、平成23年常会への法案提出を目指す」とした。推進会議はその後も議論を進め、平成23年4月、政府は推進会議における議論を踏まえ「障害者基本法の一部を改正する法律案」を国会に提出した。

法案は衆議院で一部修正された上で、同年7月に成立し、8月に公布された。これにより、中央障害者施策推進協議会(従来内閣府に置かれていた審議会)と推進会議を発展的に改組し、「障害者政策委員会」が新たに内閣府に置かれることとなった。

そして、政策委員会に関する規定は、関連政令とともに平成24年5月21日に施行され、同日付で初代政策委員会委員30人が任命された。

3 意義と役割

障害者基本法においては、政策委員会は、わが国の障害者施策の基本的方向性を定めた総合的な計画である障害者基本計画に関し、以下の事務を行うこととされている(第32条第2項各号)。

1.内閣総理大臣が障害者基本計画を策定または変更するに当たり、意見を述べること

従来、中央障害者施策推進協議会が行っていた事務を引き継ぐものである。

2.1に関し調査審議し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣または関係各大臣に対し、意見を述べること

内閣総理大臣または関係各大臣の諮問の有無にかかわらず、障害者基本計画の推進を実効たらしめるため、自ら積極的に調査審議を行い、内閣総理大臣または関係各大臣に対して意見を述べるものである。

3.障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣または内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること

障害者に関する施策について専門性を有する政策委員会が、障害者権利条約の趣旨に沿って障害者基本計画がわが国において実施されているかどうかを、資料収集や説明聴取、調査等を通じて監視し、必要に応じて勧告するものである。「勧告」とは、「意見」に比して、より一層その申し出に沿うよう要請する意味が含まれており、その実効性を確保する観点から、関係各大臣に対しては、政策委員会が置かれる内閣府の長である内閣総理大臣を通じて行うこととしている。

このように、政策委員会は、法律上の根拠を持つ審議会という中央障害者施策推進協議会の組織的な性格は維持しつつ、その機能は、障害者基本計画に関する意見陳述、実施状況の監視等をつかさどることとされており、その範囲も障害者基本計画またはその案に盛り込まれる障害者のための施策の全般に及ぶものと解されることから、機能が強化されたものといえる。

4 委員の構成

政策委員会の委員の人選については、障害者基本法において「政策委員会が様々な障害者の意見を聴き障害者の実情を踏まえた調査審議を行うことができることとなるよう、配慮」することが求められる(第33条第3項)と同時に、「障害者基本法の一部を改正する法律案」の国会審議における参議院附帯決議(平成23年7月28日参議院内閣委員会)にもあるように、「障害者政策を幅広い国民の理解を得ながら進めてくという観点から、広く国民各層の声を障害者政策に反映できるよう、公平・中立を旨とすること」が求められている。

これらの要請を踏まえ、初代政策委員会委員は、その半数を障害者または障害者の保護者などの障害当事者が占めることとなった。その障害の種類についても、発達障害や難病に起因する障害など、今般の障害者基本法改正によりその位置付けが明確化された障害をもつ当事者が参加していることも特徴である。また、残りの委員についても、施設関係者や医療関係者などの障害者の自立および社会参加に関する事業に従事する者が任命されたほか、学識経験者として、障害者福祉関係の専門家にとどまらず、法律の専門家、経済界・労働界の代表、地方自治体の首長など幅広い分野の有識者が任命された。

5 当面の取り組み

(1)新たな障害者基本計画の在り方の検討

現行の障害者基本計画(平成14年12月25日閣議決定)は、平成15年度からの10年間を対象としたものであり、今年度が計画の最終年度に当たるため、政府としては今年度末までに新たな障害者基本計画の閣議決定を目指している。政策委員会では、この政府の計画策定作業に当たり、新たな計画の在り方やその内容について調査審議し、意見を述べることが求められている。

新たな障害者基本計画は、障害者に係る制度の集中的な改革が始まって以降(そして障害者基本法が改正されて以降)、初めて策定される計画である。このため、新たな計画の策定に当たっては、単にこれまでの計画のこの進捗状況を評価し反映させるだけではなく、一連の改革の進捗状況や成果をいかに計画に位置付け、盛り込んでいくか、ということが大きな論点となる。

政策委員会では、このような論点について幅広い観点から調査審議を行い、今後のわが国の障害者施策の総合的な推進の在り方について大所高所からの議論を進めていくことになる。

(2)障害を理由とする差別を禁止する法制度の在り方に関する検討

障害を理由とする差別を禁止する法制度(以下、「差別禁止法制」という)は、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向性について」において、平成25年通常国会への法案提出を目指すこととされ、これを受けて、平成22年11月以降、推進会議の下で差別禁止部会を開催し、法制度の在り方について検討が続けられており、本年3月には論点の中間整理を行った。

差別禁止法制は、障害者制度改革における最後の横断的課題であると同時に、わが国においてこれまでに例を見なかった新たな法的な枠組みを導入するものであり、その在り方の検討は、今後のわが国の障害者施策の在り方そのものにも大きな影響を与えると考えられる。

このため、政策委員会においては、今後のわが国の障害者施策の基本的な方向性を示す障害者基本計画において、差別禁止法制が重要な部分を占めていることから、その在り方についても併せて検討を行うこととしているものである。なお、政策委員会における検討に当たっては、推進会議差別禁止部会におけるこれまでの議論の積み重ねも踏まえて行われることになるものと考えられる。

6 まとめ

政策委員会は、わが国の障害者施策の基本的な在り方について、障害当事者をはじめとする幅広い国民の考え方を反映するための「知恵の場」である。障害の有無にかかわらず互いに認め合い支えあう「共生社会」の実現に向け、政策委員会が担う役割は、すべての国民にとって非常に重要な意味を持つものといえる。

(あらかきかずあき 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(障害者施策担当)付主査)