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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年8月号

ワールドナウ

世界規模での自閉症啓発と支援体制の推進を求めて!
~世界自閉症啓発デーの取り組みと第1回ALN会議(NY)の開催~

氏田照子

はじめに

2007年12月の国連総会において、毎年4月2日を「世界自閉症啓発デー」とすることが決議され、この4月2日の国際デーの制定により世界各国で全世界の人々に自閉症を理解してもらう取り組みがはじまっています。

わが国においても、世界自閉症啓発デー・日本実行委員会が組織され、4月2日の世界自閉症啓発デーとそれに続く4月2日~8日を発達障害啓発週間と定め、自閉症をはじめとする発達障害についての啓発活動が全国各地で展開されています。

この世界自閉症啓発デーの制定に向けて国連に強く働きかけたのが、自閉症の啓発と研究に関しての世界最大の非営利団体であるAutism Speaks(AS)(本部:ニューヨーク)でした。また、ASの精力的な活動により2006年に制定された「Combating Autism Act of 2006(自閉症対策法2006)」により、米国では、基礎研究、調査研究、啓発、サービス開発、人材育成に対し5年間で9億2000万ドルという多額の予算がつけられ(法律は昨年秋に改正されていますが、引き続き同じレベルの予算が盛り込まれています)、研究のみならず啓発にも大きな力が注がれています。

日本においても、昨年12月1日~3日に日米の自閉症研究者や自閉症の家族たちが集い、ASと共催で「自閉症の研究と啓発の国際会議」(日米自閉症スペクトラム研究会議と啓発イベント“Get in touch ! つながる よりそう”絵画展・音楽会など)が開催され、プログラム最終日の12月3日(国際障害者デー)には、世界自閉症啓発大使でもあるオノ・ヨーコさんがファイナルイベントに登壇してくださり、「一人で見る夢はただの夢だけれど、みんなで見る夢は現実になる」とスピーチ。3.11大震災で被災された岩手、宮城、福島の3県から啓発イベントに招待された自閉症の人やそのご家族をはじめ、イベントに参加したすべての人たちに大きなエールを送ってくださいました。

2012年、ASは自閉症啓発デーのある4月を自閉症啓発月間と銘打ち、今年もさまざまな自閉症啓発の取り組みが展開されましたが、去る4月22日(月)から23日(火)にニューヨークで2日間にわたり開催された第1回ALN会議(Autism Leadership Network-First Annual Conference)もそのひとつです。

世界規模での連携を求めて~第1回ALN会議~

ご存知のように自閉症はある地域や特定の国に限られて生じるものではありません。自閉症の人やその家族への支援は、グローバルな取り組みが必要な世界共通の課題です。第1回ALN会議には世界12か国(アルバニア、アルバ、バングラデシュ、ブラジル、ハンガリー、インド、日本、メキシコ、フィリピン、サウジアラビア、南アフリカ、米国)とオーティズムヨーロッパから自閉症の家族や関係者が招かれ、2日間にわたり熱い議論が交わされました。

第1回ALN会議の開催目的は、世界の自閉症の家族や自閉症関係者たちがどのような取り組みをしているかを互いに知ること(ベストプラクティスの共有)、共通する優先事項を確認し連携の可能性を探ること、また十分なサービスが行き届いていない自閉症の人たちを支援する新たな方法を探ることにありました。日本の自閉症の家族として私も会議に参加し、権利擁護、啓発、調査研究などにおいて世界的に連携することも視野に入れた活発な意見交換をすることができました。

1日目は、啓発活動も含めた主な活動内容について、またそれぞれの国で考えている最も重要な役割、ゴール、課題や改善すべき分野における取り組みを発表し、情報と意見交換が行われました。また、会議を主催したASからは、団体の概要、ASが取り組んでいる啓発、研究、家族支援、権利擁護、財源などについてのプレゼンテーションがなされ、その後、参加者によるグループディスカッションが行われています。米国では、自閉症の子どもをもつ有名人(トミー・ヒルフィガーやトニー・ブラクトン、アーニー・エルスら)が積極的に啓発活動に協力を申し出ているのも大変印象的でした。また広告キャンペーンの際にはAC(公共広告機構)が関わり、広告前後での効果測定も行われていますが、この5年間で45%も啓発効果が上がっているとのことです。

世界規模での啓発活動については、ASの呼びかけで始まった「Light It Up Blue Campaign」(4月2日の世界自閉症啓発デーに世界各地のランドマークをブルーにライトアップしよう!)も今年3年目を迎え、今年4月2日には、世界6大陸、45か国、600都市、3000か所のビルやランドマークがブルーライトアップされ自閉症啓発を推進したとの報告がありました。日本でも、札幌テレビ塔、東京タワー、横浜マリンタワー、富山城、神戸ポートタワーなど20か所以上の全国各地のランドマークがライトアップされ、世界とともに啓発キャンペーンを同時展開しています。

また同じ4月2日に国連郵政部は、自閉症のアーティストたちによって作られた6種類の記念切手と2種類の封筒をニューヨーク、ウィーン、ジュネーブにおいて販売し、才能や創造性は障害の有無にかかわらずすべての人たちに宿っているという力強いメッセージを広く世界中の人々にアピールしました。

2日目は、1.Awareness and Social Media、2.Fundraising、3.Advocacyの3つのフォーカスグループに分かれて熱心な議論が交わされています。

ASのミッションは、「Change the future for all who struggle with autism spectrum disorders.(自閉症スペクトラム障害で苦労するすべての人の未来を変える)」ですが、その精力的な活動はわが国でも見習うべきものがたくさんあります。

おわりに

ASは今年の世界自閉症啓発デーにおいて「88人に1人」という自閉症スペクトラムに関するデータを発表しました。わが国でも厚生労働科学研究報告(神尾班)において、広汎性発達障害(PDD)の出現率0.9~1.6%(顕著ではないがPDDの特性を示すものは10%以上)という数値が発表されています。その数の多さからも自閉症をはじめとする発達障害への理解と支援は喫緊の課題です。

私たちの国でも理解と支援の流れを確実につくっていく必要があります。「障害者権利条約」で強調されたように、自閉症をはじめとする発達障害の人たちもすべての人権および基本的自由をもつ市民です。自閉症スペクトラム障害の人とその家族を支援するために先進国においても途上国においても国民の理解とともに、世界の政治的な関心と国際協力が求められています。世界自閉症啓発デーは、そのような行動を喚起するとともに自閉症の人たちへの理解と支援の輪を世界規模で推進する機会となるでしょう。

今年9月には、世界各国からファーストレディや政府高官を招いて行われる年次イベント(Annual World Focus on Autism)の5回目が、ASと国連事務総長夫人との共同で国連総会の時期に併せてニューヨークで開催される予定です。

(うじたてるこ 一般社団法人日本発達障害ネットワーク専門委員)


Autism Speaks

2005年、自閉症児の祖父母であるボブ&スザンヌ・ライトが設立。創始者のボブ・ライト氏はかつてNBC Universalの会長兼CEOでGE副会長も務めた。米国の3つの自閉症権利擁護団体を併合し、自閉症の啓発と研究に関しての世界最大の権利擁護団体。NYに本部、ブリストンとロスアンゼルスに事務所、カナダとカタールに支部を持ち、啓発キャンペーンの展開、自閉症に関する各種調査や本人・家族支援を行っている。また最近は、世界各国での調査研究も支援している。