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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年8月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

「国は基本合意・骨格提言を無視するな!全国一斉集会」報告

紅山綾香

1 2,000人の大集会

2012年5月16日、障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会は、全国一斉集会を開催しました。東京600人、大阪250人、広島165人が参加し、10日兵庫集会800人、13日愛知集会150人、15日岡山集会100人と合わせて2,065人の大集会となりました。

2009年1月7日に訴訟団と交わした基本合意で「自立支援法を廃止する」と約束したにもかかわらず、2012年3月、同法の一部改正法にすぎない「障害者総合支援法案」を国会に提出した国に対する強い怒りが、皆を動かした原因でした。

2 多数の政策形成訴訟団との連携

今回の集会は、全国で計23の訴訟団と共催して実施されました。

いずれの訴訟も、原告本人の救済のみならず、権利侵害・被害をもたらした国の政策の誤りを正し、新たな政策を作ることも訴訟の目的としているため、「政策形成訴訟」と呼ばれています。

自立支援法訴訟も、障害ゆえに必要となる支援を「個人の利益」として、利用量に応じた「応益負担」を課す自立支援法は、障害者の生きる権利を侵害し違憲であるとして、国の障害福祉施策の転換を求めて訴えた訴訟です。

このような訴訟は、終結時に国と「基本合意」を交わすことが多いのが特徴です。

裁判は、原告個人に対する救済のための制度なので、立法や政策転換という国民全体に影響し、かつ多岐にわたる内容を決定することには不向きです。

そのため、国と訴訟団が「基本合意」を交わし、これに基づき政治の場で新たな制度作りが行われてきました。

今、国の基本合意違反を許せば、今後「政策形成訴訟」を闘い、国と合意して新たな制度作りをすることなどできない、その危機感から、全国多数の訴訟団が団結しました。

3 集会の様子

(1)第1部

開会挨拶で、三澤了めざす会世話人共同代表は、内閣府障がい者制度改革推進本部に設置された総合福祉部会の55人の委員が、基本合意を指針として、2011年8月30日にまとめあげた新法の「骨格提言」を実現する法律を作るよう働きかけを続けなければならないと決意を語りました。

続いて竹下義樹弁護団長は、基本合意は政治的合意ではなく法律的合意であること、国が基本合意を守ると信頼したからこそ、71人の原告たちは14地裁の裁判を終わらせたことを強調しました。

久松三二聴覚障害者制度改革推進中央本部委員からは、権利として福祉サービスを提供するという理念に基づいた法律が必要と連帯の挨拶がありました。

藤井克徳めざす会世話人は、国が提出した「総合支援法案」が4月26日に衆議院で可決され、参議院に送られたという厳しい政治情勢を踏まえながら、このような事態にあっても、基本合意も骨格提言もその値打ちはいささかも揺るがず、私たちの運動は「簡単には勝てない。しかし簡単には負けない」と語りました。

「骨格提言の反映度1」

佐藤久夫元総合福祉部会部会長・日本社会事業大学教授から、「総合支援法案」の骨格提言の反映度は不十分ながら取り入れたものが60分の1、検討されているが内容が不明確か不十分なものが60分の21と、全く反映していないに等しいことが明らかとされました。

「骨格提言に基づく障害者総合福祉法試案」

藤岡毅弁護団事務局長からは、骨格提言に沿った法案は今すぐに作成可能であり、その法案こそが国会で議論されるべきとの訴えがありました。

第一部の最後に、元原告・原告補佐人から発言がありました。原告家平さんは、政府が応益負担は解決済みと言っているが、自立支援医療や配偶者の所得合算など利用者負担は解決されていないと指摘しました。

補佐人深沢さんからは、重度障害のある娘は基本合意をはじめ人間らしい生活のためにたくさんものを作ってきたとの誇りに満ちた発言があり、補佐人新井さんからは、いまだ家族依存の状況は続いており、すべての人が尊重され、安心できる社会にしなければならないとの訴えがありました。

(2)第2部パネルディスカッション

第2部では「国が『基本合意』をやぶっていいのか!?合意違反の責任を問う」と題して、原爆症認定訴訟、薬害肝炎訴訟、中国「残留孤児」訴訟、B型肝炎訴訟の4弁護団の弁護士がパネラーとして集まりました。皆、基本合意が守られないとはあってはならない事態だと憤り、駆けつけたのです。

「政策形成訴訟」において基本合意を締結するのはなぜでしょうか。

原爆症認定訴訟の安原弁護士は、多数の政策形成訴訟に関わった経験を通じ、役所は文書にしなければ守らないという教訓を得て、基本合意を作って協議をもち、協議で決まったことを実現させる方法をとってきたが、今回のように文字にしても守らないという事態に対して、どうやって約束を守らせるか、知恵を出し合っていかなければならないと述べました。

B型肝炎訴訟の菅弁護士は、最近基本合意を交わし現在これをもとに協議中であることから、B型肝炎訴訟では基本合意を守っているではないか、と厚労省に言ってもらってかまわないと後押しがありました。

残留孤児訴訟の米倉弁護士は、同訴訟では基本合意で約束した内容の法律が制定されており、基本合意が守られないとは信じがたいと述べました。

一方、原爆症認定訴訟では2009年8月6日に麻生大臣と被爆者団体が交わした確認書(基本合意)に基づく原爆症認定制度の改革について、昨年ごろから厚労省が制度を大きく変えない方向に誘導しようとしており、せめぎあいの最中とのことでした。安原弁護士からは、骨格提言を作らせたことは力であり、その強みを生かしてほしいと励まされました。

薬害肝炎訴訟の福地弁護士からは自立支援法訴訟と同様の状況が報告されました。2008年1月に国と交わした基本合意に基づく協議において、厚労大臣が薬害再発防止のための第三者組織をつくることを約束しました。しかし、今年になって、小宮山厚労大臣は政府としての法案提出が難しいと言い始めたというのです。

このような基本合意違反は、国民に対する重大な背信行為で許されないというのが参加した弁護士の一致した見解でした。

では、この状況をどう乗り越えればよいのでしょうか。

米倉弁護士は、今後の対策は簡単ではないが、超党派の議員に働きかけて理解ある議員を増やすことや、違憲訴訟提起の原点に戻り、どこが憲法違反なのかを国民に訴える取り組みを続けることが必要と指摘しました。

福地弁護士も、薬害肝炎は5年半裁判をしたが、地道な行動が重要という見解でした。司法に加え、世論やメディアも味方につけて世論の力で圧倒し、約束違反をしては政権を維持できないという思いにさせなければ行政は動かせないということです。薬害肝炎訴訟弁護団は、約束違反の法的責任を書面で公表し、世論に訴えようと検討中であるため、同じ立場にある訴訟団と共同歩調を作っていきたいと申し入れがありました。

4 今後の展開

集会の最後に、歴史的な暴挙といえる国の基本合意違反の責任を徹底追求し、「基本合意」を守り「骨格提言」を尊重した障害者総合福祉法の実現を強く求めていくことを宣言する共同アピールが採択されました。

今回の集会を機に生まれた全国多数の訴訟団との連携を生かし、自立支援法訴訟団・基本合意の完全実現をめざす会は今後も活動を続けていきます。

(べにやまあやか 障害者自立支援法訴訟弁護団・弁護士)