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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年11月号

差別禁止法の制定に向けて
―障害者欠格条項撤廃に取り組んできた立場から

臼井久実子

1 差別禁止法に期待してきたこと

問答無用で門前払いする絶対的欠格条項が存在し本人や周囲の人の努力も無にしてきた長い歴史がある。部会意見は障害者欠格条項について「資格・免許制度等において障害又は障害に関連する事由を理由として資格・免許等の付与を制限したり、障害者に特定の業務への従事やサービスの利用等を制限・禁止する法令上の諸規定を指している(59頁)」と定義している。

欠格条項見直しの対象とされた法令の多くは相対的欠格条項に変わったが、現在も個人の人生と社会に大きな影響をもたらしている。つまり、相対的欠格条項として残されているために、障害者は試験に合格した後も特別の審査を受けなければならない場合があり、かつ、免許等を交付されるかは不確実な立場におかれている。そのことは、資格や免許が必要な職業等を希望する人に余分な負担を強いており、欠格条項の存在も背景となって、試験における合理的配慮の不提供、就学や就業の拒否さえあり、学校や職場での合理的配慮の提供も遅れていることが、各地の障害者の経験から明らかになっている。この点について部会意見は「長年、欠格事由が存在してきたために、一定の見直しが進められてきた今も、試験を受けることや資格を取得しようとする以前に、障害者が参画しやすく自分の力を発揮しやすい環境には、ほど遠い現状があるとの指摘がある(59頁)」と述べている。

障害者を除外し差別する法制度が多々ある日本では、国内法制度を障害者権利条約批准にふさわしいものに改革していくことが不可欠であり、欠格条項を撤廃するには、権利条約と差別禁止法を両輪として継続して取り組むことが必要ということが、会発足当時からの見通しだった。それゆえに、内閣府障がい者制度改革推進会議および部会の議論に注目し、障害者基本法の改正、差別禁止法の制定に期待し、意見を述べてきた。

2 提言してきたことと議論について

「欠格条項を残したまま、権利条約を批准できますか?」と、各方面に投げかけてきた。国・地方公共団体の責務として、障害に基づく免許や資格の制限やさまざまな権利制限がないようにすること、そして障害や病気を基準にするのではなく、その業務や行為の本質部分を、合理的配慮の提供が必要な人は提供を受けて、遂行できることを、基準にすることを提起した。議論のなかで、差別禁止法は他の法律の上位法といった関係ではないことから、他の法律に対して変更を指図することはできないことが指摘された。また、差別禁止法を制定しさえすれば障害者欠格条項を一掃できるわけではなく、権利条約と差別禁止法に照らして既存の法制度を点検し改めていく責務の規定と仕組みが必要という示唆を得た。

3 障害者欠格条項に関わる部会意見内容とその意義について

総則の第2節「国等の責務」、各則の第7節「国家資格等」は、障害者欠格条項に特に関連する。各則の第3節の「不動産の利用」、同じく第3節の「その他の留意事項」は公営住宅について書き込んでおり、各則の第9節「政治参加(選挙等)」の第三は、成年被後見人の参政権に触れている。そして第3章「紛争解決の仕組み」も、取組のなかで課題になってきたことと深く関わる内容である。

〔基本的な考え方〕

以下の引用にみるとおり、部会意見が行政の責務および欠格条項のもつ不合理性の認識に立って、この分野における差別の禁止、そして実態の検証と適切な措置が必要であるとしていることを、差別禁止法の条文と運用に織り込まなければならない。

少々長くなるが、以下に、総則の第2節「国等の責務」の「欠格条項」を引用する。[障害又は障害に関連した事由によって国等が認定する資格の取得が制限されるとなれば、障害者は当該資格が求められる生活分野から排除されることになる。資格制度が設けられた趣旨や目的から見て、業務等の本質部分の遂行に必要な最低限の要件や能力に障害の存在が影響を及ぼさないにもかかわらず、障害の存在が資格取得の制限の理由とされることは、極めて不合理であり、差別的待遇といわざるを得ない。現在、障害の存在だけでこのような資格制限をするいわゆる絶対的欠格条項は、大幅に見直されてきてはいるものの、運用の在り方等によってはそうした結果を引き起こさないとはいえない。このため、国としては、業務等の本質部分の遂行に必要な最低限の要件や能力に関わる制限の必要性を踏まえつつも、資格取得の認定の仕方や制度運用の実態を引き続き検証し、障害に基づく差別の例外となる「正当化事由」の観点に照らして、必要な場合には適切な措置をとることが求められる(12頁)]。

続いて、各則の第7節「国家資格等」の「はじめに」で、「国家資格等の認定が行政によりなされるものであり、行政による差別的行為は当然禁止されてしかるべき」としたうえで、「国家資格等における差別についても、あらゆる分野を対象とする総則における差別禁止規定の適用が想定されるところである。このように国家資格等が有する生活上の重要性に鑑みると、本法においても、この分野における不均等待遇や合理的配慮の不提供が障害に基づく差別であることを明確にして、これを禁止することが求められる(58頁)」とはっきり述べている。

関連して、第7節の第3の3「不均等待遇を正当化する事由(60頁)」は、引用は省くが、個別の場合の判断の妥当性が問われることはもちろん、さらに、その欠格事由の正当性が問われなければならないことを包含している。

次に各課題の記述をみていく。基本的な考え方と併せて差別禁止法とその運用に反映すべき内容である。

〔試験等〕

特に以下の引用部分は、現に困難に直面している人、各分野で関わりをもつ人に、大いに活用される必要がある。

第7節の第3の1「不均等待遇の禁止」は、「不均等待遇の内容は、先に述べたように、資格試験そのものだけではなく、資格試験に関する案内、受付手続、受験資格、合格発表等における障害又は障害に関連した事由を理由とする区別、排除又は制限その他の異なる取扱いであり、差別としてこれを禁止することが求められる。なかでも、資格試験の内容は、障害があることにより資格取得に当たって求められる本質的な能力以外の要素で不利益につながるものであってはならない(58頁)」としている。

続いて、第4「この分野で求められる合理的配慮とその不提供」で「特に、資格取得の判定は資格に必要な能力の有無を確認するものであるが、試験の方法や態様が障害の特性を考慮しないことで、本来有している能力が正当に判定されない場合がある。したがって、例えば、これらの手続における情報に関しては、障害者にも適切に伝達できるような方法や態様においてなされること、試験会場等への物理的アクセスに関しては、物理的障壁を除去する手段、方法の確保、試験そのものに関しては、適切に能力が反映されるための手段、方法等の合理的配慮が求められる(60頁)」と述べている。

そして「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について」(平成17年11月9日障害者施策推進課長会議決定)も引いた上で「これらの具体例の他、例えば、点字受験における時間延長、中途失明者のニーズに対応した音声読み上げパソコンの使用等、本人の障害によるニーズや実情を踏まえた個別に柔軟な配慮をすることが求められる(61頁)」とまとめている。さらに、「こうしたことは何も、国家資格等のための試験に限らないのであるから、ここで述べたことは、入学試験、就職試験、その他の試験にも当てはまる。したがって、それぞれ、【教育】【雇用】等の各則で考慮されなければならない(62頁)」と述べている。

〔養成、教習、研修等〕

第5「その他の留意事項」が述べる養成、教習、研修等は、さまざまな現場から当会に寄せられた声から見ても取組が急がれる分野である。61頁に「国家資格等の取得を目的とする教習所、大学等の各種養成機関での差別的取扱いや民間事業所における研修や実習を経た上で免許が交付される場合の民間事業者における差別的取扱いの問題は、国家資格等を付与する機関の行為ではない。そこで、本法では、【教育】又は【役務】の課題として検討されることにはなるが、国家資格等を取得する上で、重要な役割を果たしていることに留意されなければならない」と記述されている。

〔民間資格〕

第5の4で「国家資格等以外にも、民間団体が独自の資格認定を行う場合がある。民間資格においては、法令上で規定されていないため法令上の欠格事由の問題はないが、内部規定において欠格事由を定めている場合もある。したがって、上記で述べた類似の課題について、資格試験の実施方法も含めて以上のことを準用するか、【役務】に位置付けるかについて整理した上で対応することが必要である(62頁)」と規定している。第2の2「差別をしてはならないとされる相手方の範囲(58頁)」に、資格試験実施を受託している民間事業者も含めていることと併せて、重要な点である。

〔不動産の利用、選挙権の行使、議会の傍聴等〕

第5の3で「これらは国家資格等に関わる問題ではないが、法令上の欠格事由として、国家資格等の問題と同様の側面を有している。したがって、公営住宅の入居利用制限は【不動産】、議会の傍聴制限や成年被後見人に対する除外規定は【政治参加(選挙等)】の問題として位置付けられることが妥当であるが、ここで述べたことにも留意すべきである(62頁)」と規定している。公営住宅について「自力で身の回りのことができないものを排除する入居資格の設定は、各地方公共団体において、見直しも含めた検討が求められる(42頁)」と明記されたことは各地からすぐにも活用できることである。

4 差別禁止法の制定と運用について重要なことは

部会意見は「障害者の場合、何が起こるかわからない」「障害者はきっと障害があるために○○することはできないだろう」といった固定化した概念やイメージの例(17頁)をあげて「不均等待遇と合理的配慮の不提供の二つの差別類型を含む形で差別を禁止する規定を設けるべきである(20頁)」と結論づけた。

障害者欠格条項は、まさに障害に基づく差別の本質に関わり差別の姿を端的に示している問題であり、差別禁止法を制定しなければ根本的な解決に向かわない。それと同時に、差別禁止法は理念を宣言するだけならば既存の差別的な制度を変えていくことに効力を発せられないことになり、差別禁止法をそのような画に描いた餅にしてはならない。

従って、部会意見に述べられた国等の責務を果たすために、法制度上の障害に基づく差別をなくしていく計画を立てて既存の法制度を調査し必要な措置を行い、その遂行を監視していく機能を、今年新たに設置された障害者政策委員会等がもつことなどが必要である。部会意見が示した内容を十分に反映して法が制定されることが必要であり、法を制定し権利条約を批准して残された欠格条項の撤廃に取り組むことを展望している。今後とも、法が制定され効力をもつよう働きかけを続けていく。

これまでも、法制度の障壁にぶつかった人の声と各分野からの取組が、法律を変える力になってきた。差別禁止法の制定に向けて、読者の経験とご意見を、ぜひ、各政党・国会・地方議会に伝え、さまざまな媒体に出していただきたい。

(うすいくみこ 障害者欠格条項をなくす会事務局長)