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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年11月号

1000字提言

パンダは可愛いですか

萱嶋陸明

毎年7月に、大分大学教育福祉科学部の工藤修一先生の依頼で、医学部看護学科で高次脳機能障害者の家族会代表として、90分の授業講演をしています。講演の冒頭、学生に動物のパンダの印象を聞くことにしています。ほぼ100%の学生が「パンダは可愛い」との答えが返ってきます。

「本当にパンダは可愛いですか。よく考えてください。目の周りは黒ぶちで、目玉も真っ黒で可愛げがない。首がなく、おなかは出ているし、鈍感でおまけに人にもなつかない。どこも可愛いところがありません。皆さんは『パンダ=可愛い』と小さい頃から言われ続けられて刷り込まれているのです。パンダを借りるのに、毎年1億円ものレンタル料を払うのはおかしくないですか」と話をすると、大半の学生が驚きながらも納得してくれます。そして、今までなぜ、パンダは可愛いと思っていたのか不思議ですと講義レポートに書く学生が何人もいます。

世の中にはこのような偏った情報がかってに広がり、特に障害者が差別されてしまうことが度々あります。正しい理解を身につけないと、知らず知らずのうちに誰(だれ)もが加害者になるかもしれません。

国民の誰もが加害者となってしまった事例があります。ハンセン病は恐ろしい伝染病という全く誤った認識が政府によって流布され、世の中に広く浸透したことです。政府の隔離政策が89年も存続しただけでなく、いまだに差別偏見は根強く残っていることは確かです。伝染病でないとわかっているのに、完全に修正するのがどんなに難しいことなのかは、数年前のハンセン病患者のホテル宿泊拒否事件が大きく報道された時に患者団体に対しても抗議が殺到したことでも明らかです。 

高次脳機能障害は目に見えない障害だけに、「周りの誰にでも理解してもらうことが最大の補助具になる」が私たち家族会の活動の原点になっています。

昨年、家族会員の30代の女性が半年の就労支援リハビリを受け、ハローワークのトライアル雇用でホテル勤務につながった過程がNHKの福祉の番組で30分間全国放送されました。私たちも感謝の気持ちで見ていたのですが、トライアル雇用期間の3か月が終了すると即座に勤務終了となりました。結局は、高次脳機能障害のことを何も理解してなかったことを思い知らされ愕然(がくぜん)としました。福祉番組としては、追跡調査をして、何が原因で就労に結びつかなかったのかを報道してほしいと思いました。同時に、それぞれの障害について一番詳しい家族会が、もっともっと情報発信をして、理解してもらう活動を一層活発に行う必要があることを痛感させられた気がします。

(かやしまりくあき 脳外傷友の会「おおいた」会長)