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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年11月号

フォーラム2012

基幹型相談支援センターの構想と西宮市におけるその展開

北野誠一

1 相談支援の方向性

障害者権利条約批准に向けた障害者制度改革の一環として、2011年の総合福祉部会の骨格提言では、障害者制度改革の基本理念を踏まえて、《A.障害者本人とその家族のエンパワメントに資する、既存のサービスの組み合わせを超えた本人中心の相談支援》と《B.障害・年齢・制度を超えた地域の総合的な相談支援体制》を明記した。

残念ながら、総合支援法においては、そこまでは明記されていない。それでも、相談支援事業者の責務(第51条)として「障害者等の意思決定支援に配慮するとともに」「常に障害者等の立場に立って」といった文言が追加されたことは、《A.本人中心の相談支援》を踏まえてのことであろう。

さらに、第77条の5として「基幹相談支援センターを設置する者は、…指定障害福祉サービス事業者等、医療機関、民生委員、身体障害者相談員、知的障害者相談員、…その他の関係者との連携に努めなければならない。」が追加されたのは、《B.地域の総合的な相談支援体制》を踏まえてのことと思われる。

2 今、自治体に課せられている課題とは?

実は、各自治体では、平成26年までに基本的にサービスを利用するすべての障害児・者に、サービス等利用計画案を作成しなければならないという、自立支援法の改正に伴う一点に、その関心とエネルギーが注がれている。

確かに、これまで数千人にしか立てていなかった計画を、今後3年間で60万人を超えるサービス等利用計画を作成するということは、一大事業である。しかもそれが、各自治体のサービス支給量決定の際の勘案事項ということであれば、自治体の理解によっては、障害程度区分の認定調査を同時に委託することによって、支給決定業務を簡素化できるのではないか?などと安易に考える向きも出てこよう。

いよいよ、わが国の障害者支援も、正念場に差し掛かったと思われる。

「金もない・人もない・アイデアもない」は、言い訳にはならない。「出来そうにもないことを、厚労省は自治体に求めている」というのは簡単だが、障害者の相談支援に関しては、制度改革の大きな流れからいって、《A.本人中心の相談支援》と、《B.地域の総合的な相談支援体制》以外にないのであって、それは、厚労省であろうと、政令指定都市であろうと、人口3万人の市であろうと、基本理念は同じである。

今回の相談支援システムの構築・再編に関して、考慮すべきエレメントは8つある。1.自治体障害福祉課、2.基幹(委託)相談支援センター、3.特定相談支援事業、4.障害児相談支援事業、5.障害程度区分認定調査、6.虐待防止センターにおける虐待通報や届け出の受理業務、7.一般相談支援事業、8.基本相談支援・非直接サービス相談支援。

そもそも、厚労省が、改正自立支援法第5条17で、相談支援を、基本相談支援(福祉の各般の問題に対する情報の提供・助言・連絡調整等)・地域相談支援(地域移行・地域定着支援)・計画相談支援(サービス利用支援・継続サービス利用支援)に分けておいて、さらにそれを「3.特定相談支援事業」とは、基本相談支援及び計画相談支援のいずれも行う事業、「7.一般相談支援事業」とは、基本相談支援及び地域相談支援のいずれも行う事業に組み直したのはなぜか?

介護保険法のケアマネジメント(居宅介護支援)の業務には、基本相談は一切なく(だから訳語も介護相談支援ではない)、既存サービスの組み合わせと給付管理のみでよし、とされていながら、自立支援法では、ことさら基本相談支援とセットにされているのはなぜか?そこには、2つの理由と言い訳があるように思われる。

1.障害者、とりわけ若年・壮年期の障害者の相談支援の中心は、その学校教育や就労や余暇といった社会参加・参画への支援であり、本人のライフサイクルを踏まえた相談支援が基本にあり、ライフスタイルが確立している(?)高齢者のケアのみの支援ではない。

2.改正障害者基本法や総合支援法にもあるように、障害者相談支援の基本は、本人中心の支援であり、本人の自己決定や意思決定の支援が基本にあり、介護保険とは異なる(?)。

まさに、その通りなのだが、しかし、そうだとすれば、障害者の相談支援は、かなり高度なレベルが要求されているのであって、3や7といった、介護保険以下の養成システムや単価設定で、実行できるものではあるまい。

介護保険の場合には、給付管理料≒モニタリング料になっていて、要介護度とケース数に応じて毎月給付されるが、改正自立支援法では、継続サービス利用支援(本人状況の確認とサービス利用状況との調整・変更)はまさにモニタリング業務であり、単価設定も年2回を基本としていながら、介護保険の要介護3・4・5と同じ単価であり、とても専門職を雇用できる単価設定ではない。つまりは、介護保険以上に、支援サービス提供と密着しなくては存在できない設定となっている。

ここで、2.基幹相談支援センターが登場することになる。といっても、展望が開けるのは、これまで三障害それぞれの委託相談支援事業を何とかキープしてきた自治体に限られる。3や7が対応困難な8はもちろんのこと、特定の支援サービス提供と密着しすぎたケースのスーパービジョン等を2はその業務とすることになる。その際、2が3 5 7の業務をも行うのかが問題となる。3や7については、当然その自治体内外の3や7の事業所の立ち上がり具合で、一部肩代わりはあり得ようが、やり過ぎると、8やスーパービジョンの業務も疎(おろそ)かになり、ひいては3や7の立ち上がりを阻害することにもなりかねない。さらに1にとっては泣き所である、6.虐待防止センターにおける虐待通報や届け出の受理業務を、2に委託できるメリットは捨てがたい。

ただし、2に5の業務を委託できるからといってそれを委託することは、得策ではない。2が本人中心の相談支援の本丸としての《A》の価値を体現するには、5のようなサービス支給量の範囲に関するような業務とは、一線を画すべきであろう。もちろん、それはその自治体のサービス支給ガイドラインと無関係な「本人中心支援計画(サービス等利用計画)」を本人と作り上げることを意味する訳ではない。《A》と《B》2つの理念の実現が、2の役割であるというにすぎない。

3 西宮市の場合

西宮市では、9つの委託相談支援事業者による「西宮市障害者あんしん相談窓口」が、支援費制度時代から「本人を囲んだ支援会議を開き、本人が希望する地域生活に必要な支援を組み込んだ本人支援計画を作成するので、それも斟酌して支給決定してほしい」という提起を行い、それを踏まえたサービス支給決定システムが構築されてきた。

今回の改正自立支援法や総合支援法の動きの中で、とりわけ重要なのが、相談支援制度の改変だということは、行政も「あんしん相談窓口」も共通理解しており、2012年度の「あんしん相談窓口連絡会」と「自立支援協議会運営委員会」では、その問題を中心に取り組んできた。そこで「相談支援WG」を立ち上げて6月以降は毎週水曜日に、市の相談支援担当者と「あんしん相談窓口連絡会」が中心となって、西宮市の相談支援システムと支給決定の流れの全体像や「特定相談支援事業所」と「基幹相談支援センター」との関係等の問題を中心に検討がなされた。

現在9つの委託相談支援事業者による「あんしん相談窓口」を、いくつかの地域の支部を有する基幹型相談支援センター体制に移行するにあたって、基幹型相談支援センターの職員や事務局体制と、今後3年間に創出されるべき各地の「特定相談支援事業所」への支援体制や研修体制等が話し合われている。

西宮市では、5は委託せず障害福祉課職員が行い、6は基幹型相談支援センターと市障害福祉課の両者で行うこととなった。さらに、「特定相談支援事業所」と「基幹相談支援センター」の相談支援専門員が使用する各種の書式(フォーマット)【註】を、「あんしん相談窓口」の基本理念である《A》と《B》を組み込んだ、共通の書式を用いてはどうか、という検討がなされ、行政・関係者ともに、その方向性が確認された。

現在は、実際のケースに共通の書式(フォーマット)を活用することによって、さらなる改定作業を行いながら、残された課題である4で活用する各種フォーマットの完成を急いでいるところである。

(きたのせいいち 内閣府障害者政策委員会委員)


【註】詳しくは、朝比奈ミカ・北野誠一・玉木幸則 編著『本人中心相談支援とサービス等利用計画』(ミネルヴァ書房、近刊)を参照されたい。