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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年11月号

証言3.11 その時から私は

緊急時の支援ネットワークづくりの必要性

半谷克弘

避難経路

最初の避難指示が出されてから現在の応急仮設住宅に入居するまで、避難所3か所に7日、親類宅2か所に11日、都内のホテルに3日、埼玉県春日部市の団地に112日、計133日の避難生活を送った。身体障がい者の私にとって極めて過酷な避難生活であった。

緊急避難

3月11日はあまりにも寒かったので、ベッドに首までスッポリ入ってテレビを見ていた。そこへ突然、轟音と共に激しい揺れが襲ってきた。私の体はベッドと一緒に右へ左へと揺さぶられ、そこへ衣装ケースが倒れ、その上に本棚が重なり、そして正面からはテレビが飛んできた。半身マヒの体は硬直して成(な)す術(すべ)もなく、本や家具が宙を舞う様子は、まるでテレビでよく見る地震実験車の映像のようであった。暫(しばら)くして揺れが収まり、足の踏み場もないほど散乱した室内からやっとの思いで屋外に脱出した。

当日は余震が収まらず、自宅に居ては危険と判断し町の公共施設に避難した。一睡もできずに朝を迎えたが、7時ごろ町役場職員から隣村の中学校に避難するよう指示を受けた。避難の理由がよく分からない。しかし、状況がひっ迫していることだけは感じ取れ、至急自宅に戻り、数日分の下着類と毛布と愛犬を車中に放り込み、母親と一緒に目的地を目指した。隣村とは県道1本で繋がっており、全町民が一斉に集中したために大渋滞で、通常30分程度の道のりが2時間以上もかかった。沿道の民家の門柱や壁にはトイレを提供する旨の手書きの貼り紙が貼ってあり、村民の優しさと心配りを感じた。

2度目の避難

避難先の隣村には母の実家があり、ペットもいるという理由から私たちはここにお世話になることにした。

3月12日15時36分、東京電力福島第一原子力発電所一号機が水素爆発。テレビで見たこの状況が緊急避難の本当の理由だと初めて知った。緊急事態に拍車をかけるかのように、同14日11時1分三号機が爆発。かつて私も同所で働いたことがあるが、あの堅牢な建物がいとも簡単に吹き飛ぶ光景を見て、もう自宅には帰れないだろうなと思った。2度目の爆発の後、同村長から全村避難の指示が出た。

自主避難の危険性

指定避難所である中学校に避難した町民は次の避難所を指示されたそうだが、当然のごとく私たちには何の指示も連絡もなかった。携帯電話がほとんど役に立たない状況の中、途切れ途切れに届く息子と娘からのメールを頼りに、ガソリンを求めながら爆心地から少しでも遠くへと逃れるため、首都圏を目指していた。

県外に移動したことで、必要な情報が届かなかったり遅れたり、あるいは支援物資が受け取れないなど、行政の対応に不公平感を感じることがあった。避難所の情報については、テレビやラジオで『○○町の指定避難所は××公民館です』と放送してくれればほとんどの避難者に伝わるはずなのだが、安全神話を過信したためだろうか、こんな初歩的なマニュアルさえも作られていなかったという、行政の危機管理意識の低さが露呈された。

借り上げ住宅の有効活用と支援ネットワークづくりの必要性

最後の避難所である東京武道館から埼玉県春日部市の団地に入居する際、愛犬をこれまでのように車中で飼う訳にもいかず市役所に相談したところ、ペットを無料で預かる制度を紹介された。新潟県中越地震の後に、獣医師会やNPОによって作られた支援ネットワークらしい。半身マヒの私と81歳の母はエレベーターのない5階の部屋で、愛犬は食事付き散歩ありのペットホテル住まいという皮肉な状況であった。

福島県内に建設された仮設住宅の総数は1万6700戸、入居戸数1万4300戸、入居者数は3万2500人余である。一方、借り上げ住宅は公営住宅を併せて2万5300戸、入居者数は6万2000人余になる。

ここで気づいたことだが、借り上げ住宅の存在を事前に把握していたら、多くの仲間たちが私のように無用な苦労をしなくてもよかったのではないだろうか。

今回の事故の教訓から、早急に災害時に対応できる借り上げ住宅を調査・登録し、バリアフリー化を推進するための特別枠の助成金を交付し、家主に対しては、定期的に空き部屋情報を報告させるシステムを整備するよう提案したい。この提案は、ペットの例のように、体験者や関係者が積極的に行動を起こせば実現可能なテーマである。全国的な支援ネットワークにしたい。

この借り上げ住宅を有効活用することにより、車いす使用者・重度の障がい者・妊産婦・介助が必要な高齢者等が避難所を経由することなく、速やかに安全に避難することができる。また、一般的な自然災害による避難ならこの借り上げ住宅だけで十分対応できる場合もあり、仮設住宅が不要の場合も考えられる。既設の住宅を利用する方法が、最速の対応策である。

(はんがいかつひろ (財)福島県身体障がい者福祉協会双葉支部長)