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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年11月号

報告

2012ロンドンパラリンピック競技大会の報告

中森邦男

1 はじめに

2012ロンドンパラリンピック競技大会(第14回夏季大会・以下、「ロンドンパラリンピック」)は、オリンピックに引き続き、2012年8月29日(水・開会式)から9月9日(日・閉会式)までの12日間、ロンドンを中心に開催されました。

ロンドンパラリンピックは、過去最多の164か国・地域から約4,310人の選手が参加し、20競技に熱戦が繰り広げられ、過去最大の規模の大会となりました。今回の大会では、2000年のシドニー大会以降参加が途絶えていた知的障害者が陸上競技、水泳、卓球の3競技に参加しました。

メインスタジアムのあるオリンピック公園の会場設定、大会および競技運営やボランティアの質など最高の運営がなされ、さらに、英国人の大観衆に代表されるスポーツの豊かさを感じることができた素晴らしい大会となりました。

2 ロンドン大会の特記事項

(1)IOCとIPCの契約

この大会は、2001年に国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)が合意書を交わし、オリンピック招致にパラリンピック開催を含むことが決定してから2回目の夏季大会となり、オリンピック同様の規則・運営、参加国支援やサービスが充実し、選手団にとって満足いくものとなりました。

(2)円熟したボランティアが参加

パラリンピックには大勢のボランティアが必要となります。ロンドンのボランティアに共通していたことは、選手が主役であることを貫いていることと、選手団、競技運営、式典などを支えることを喜びとするボランティア精神、そしてそれを誇りに活動している姿がとても素晴らしく感じられました。

ボランティアとは、本人の時間を使って、無償で与えられた仕事を真摯に遂行することで、その活動に喜びをもってすることの重要性を改めて教えられたような気がしました。

(3)イギリス選手団の大活躍

イギリスは、UKスポーツ(政府の公的機関)により、オリンピックとパラリンピックを担当し、選手強化をオリンピックと同じ次元で実施し、結果イギリス選手団は大活躍し、金メダル503個のうち34個、総数メダル1523個のうち120個を獲得し、ランキングは金メダルで世界3位、総メダルで世界2位の好成績を上げました。閉会式の翌日には、オリンピック選手とパラリンピック選手の合同パレードが実施され、セントポール寺院からバッキンガム宮殿までの沿道には、100万人の市民が賞賛の大声援を送り、大成功のうちに幕を閉じました。

(4)イギリスの観客の大声援

オリンピックスタジアム、複数の競技会場や選手村のあるオリンピック公園には、多くの観客が訪れ、競技観戦、ショッピング、広大な芝生での休憩など、それぞれがこのパラリンピックイベントを楽しんでいました。メインスタジアムで行われた陸上競技では、予選、決勝ともに8万人の観客が詰め掛け、イギリス選手が姿を現すと会場が揺れるほどの歓声が上がり、選手にとっては最高の舞台となりました。

(5)ブレードランナー(義足)の話題

南アフリカのオスカー・ピストリウス選手は、ロンドンオリンピック参加、引き続きパラリンピックにも参加し、世界的にブレードランナーが話題となりました。ロンドンパラリンピックでは、オスカー選手以外にイギリスとブラジルから有望な選手が参加したために、イギリスのメディアはこぞってブレードランナーの勝負を話題にし、パラリンピックを大いに盛り上げました。

(6)知的障害者のパラリンピック参加

2000年のシドニー大会から3大会ぶりに知的障害者がパラリンピックに参加することができ、陸上競技、水泳、卓球の3競技に限定的に種目が設定されました。国際知的障害者スポーツ連盟と国際パラリンピック委員会がワーキンググループを設置し、数年をかけて、知的障害者のクラス分けの方法を研究し、テストイベントを経てパラリンピック参加につなげることとなりました。今後、知的障害者のパラリンピック参加が広がることが期待できます。

3 ますますエリート化するパラリンピック

(1)上位国のメダル独占が進む

北京大会で473に減少したメダル種目数は、ロンドン大会では知的障害者のメダル種目が14種目設定されたことと合わせ、若干増加し、503種目が実施されました。

表1は、最近4大会のパラリンピックにおける金メダルおよび総メダルの獲得率を示したもので、大会回数を経るたびに参加国が増えているにもかかわらず、上位10か国が占める金メダルおよび総メダルの割合は大きくなっています。北京大会、ロンドン大会とメダルが集中する傾向がみられます。

この10か国に、中国、イギリス、ロシア、ブラジルの最近のパラリンピック主催国が含まれ、20位のカナダの5か国で金メダルの38パーセント、総メダルの34パーセントを占め、パラリンピック主催国の選手強化は相当なものと伺うことができます

表1 パラリンピック上位10か国のメダル獲得率

  2012 ロンドン大会 2008 北京大会 2004 アテネ大会 2000 シドニー大会
金メダル 総メダル 金メダル 総メダル 金メダル 総メダル 金メダル 総メダル
1位の国 18.9% 15.2% 18.8% 14.7% 12.1% 9.0% 11.5% 9.0%
1位から5位の合計 45.5% 40.8% 45.2% 39.5% 34.5% 31.6% 39.3% 35.7%
1位から10位の合計 64.2% 59.4% 64.1% 56.8% 53.4% 52.6% 60.5% 56.1%
メダル数 503 1523 473 1431 519 1568 550 1660
参加NPC数 164 146 135 122

4 日本選手団

(1)参加選手数・メダル獲得数

ロンドン大会に日本選手団は、20競技中17競技に参加することができました。個人競技の参加数は2000年大会の115人を最多に、徐々に参加数を減らし2012大会では、知的障害者の7人が加わったにもかかわらず93人と4大会連続その数を減らしました。団体競技では2008年大会を最多に、2012年大会では、その中で2チームが予選会で敗退し参加資格を失うこととなりました。

ロンドン大会の金メダルおよび総メダル獲得は、最近6大会の中で最も低いレベルとなりました。国別の金メダルランキングでも、17位から24位と大きく順位を落としました。

これは、パラリンピックの競技力が向上し、日本選手団の参加資格やメダル獲得が、以前より厳しくなったことになります。

(2)個人競技の成績

競技ごとの成績評価を前回と比較した場合、成績が向上した競技が5競技(初出場も含む)で、成績が低下した競技が6競技でした。

メダルを獲得した競技の成績では、成績が向上した競技が2競技で、成績が低下した競技が4競技でした。選手の多くは自己ベストを更新するなど競技レベルを上げての参加でしたが、さらに各国の競技力向上が日本選手を上回ったことが原因となっています。

(3)団体競技の成績

団体競技の参加は、北京大会から2競技が予選会で敗退し、4競技の参加となり、その中で成績が向上した団体が3団体で、成績が低下した団体が1団体でした。

2競技が準決勝に進出し、女子ゴールボールチームが見事優勝し、日本のパラリンピック史上最高の金メダル獲得となり、日本選手団に大きな歴史を刻むことができました。ウィルチェアーラグビーは、3位決定戦で惜しくも敗退し、残念ながら4位となりメダルを逃すこととなりました。シットバレーボール女子はパラリンピックで初勝利を得ることができました。

表2 日本選手団の参加数・メダル獲得数

大会年 選手数 メダル数 金メダル
ランキング
個人競技 団体競技 合計
2012 93 41 134 5 5 6 16 24
2008 98 64 162 5 14 8 27 17
2004 109 54 163 17 15 20 52 10
2000 115 36 151 13 17 11 41 12
1996 58 23 81 14 10 12 36 10
1992 53 22 75 7 8 15 30 17

5 まとめ

パラリンピックは北京大会を契機に、オリンピックと同じように、人間の限界を追及し、最先端のスポーツ科学を背景とした効果的トレーニングがなければ勝てない状況になりました。ロンドン大会でもその競技力はさらに向上し、主催国の国を挙げての強化の前に、強化費が大幅に増額されたにもかかわらず、日本選手団のメダル獲得は最近6大会の中で最少となりました。

リオデジャネイロパラリンピック参加に向け、ロンドン大会を上回る成績を上げるためには、従来からの課題を克服することが必要となります。

第1に政府の支援として、障害者スポーツの強化策の策定や、厚生労働省と文部科学省との緻密な連携があげられます。

第2にボランティアスタッフ中心の競技団体に対しては、専用事務所や専従職員の設置により基盤を整備し、さらに、国際資格を含めた強化スタッフの育成などがあげられます。

第3に選手の社会生活を保障し、仕事と強化の両立ができる環境があげられます。そして、選手強化を担当するコーチ、トレーナーやその他の強化スタッフへの経済的な支援、国際大会参加支援などがあげられます。

さらに、次のステップとして、最新のスポーツ科学に基づいた支援があげられます。これには、現在も実施している当協会の専門委員会の科学委員会、医学委員会および技術委員会との連携をより深め、さらにきめ細かい態勢を構築することや、一般スポーツとの関係では、ナショナルトレーニングセンター、国立スポーツ科学センター、JOC、JOC加盟競技団体、日本スポーツ振興センター、また、体育大学などとの連携をつくることや深めていくことも有効な手段となります。

これらの課題改善・克服は大きな労力を要することになりますが、関係する組織や部署と連携を図り、創意・工夫をもって進めていきたいと思っています。

(なかもりくにお (財)日本障害者スポーツ協会日本パラリンピック委員会事務局長、ロンドン2012パラリンピック競技大会日本代表選手団団長)