音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年11月号

ワールドナウ

アジア地域青年部のろう運動の取り組み

嶋本恭規

社会では健聴者が圧倒的に多いため、聴覚障害者は、常に不利、不便と直面しており、これらの改善と聴覚障害への理解を訴えるために、国内では「ろう運動」が展開されてきました。その活動の主である財団法人全日本ろうあ連盟が政府との関係を大切に密に連携を取って活動を展開してきたおかげで、50年前とは比べものにならないほど聴覚障害者の福祉や理解が広がりました。それは、アメリカ合衆国と肩を並べるほどです。

私は、この活動に関わってまだ18年ですが、当事者が声を上げること、また、活動を共にする手話通訳者が両輪となって押し進めることの大切さを学びました。

しかし、他のアジア地域ではどうでしょう。アジア地域の先進国は日本、韓国、香港、シンガポールといったところでしょうが、この国々が福祉も進んでいるとは必ずしも言えません。アジア地域の大半が発展途上で経済的に厳しく、福祉まで手が廻らない状況にあります。健常者でさえ日々の糧を得ることで精一杯。差別や偏見を起因とする虐待・違法過重労働が問題視されていますが、人権や権利を求める「ろう運動」など、先の話なのです。

交流の場を求めて

聴覚障害は、聞こえないという機能的なことよりも、聞こえないために情報が入ってこない、耳学問ができないことが社会生活へ大きく影響を及ぼします。

ある時(記録がないため年代不詳)、マレーシアろう協会が、自国以外のろう者たちと交流をしたいと世界ろう連盟に相談を持ちかけました。以前からヨーロッパで開催されている「キャンプ」と題する交流会を、アジア地域でも開催してみてはどうかとアドバイスを受け、第1回アジアろう青年キャンプがマレーシアで開催されました。第2回はニュージーランドで開催されたと聞いています。どちらも非公式であったため、欧米からの参加が多く、アジア地域の参加者は少なかったようです。それからしばらく開催されることはありませんでした。

2003年、カナダ・モントリオールにおいて第14回世界ろう者会議が開催され、その1週間前に世界ろう連盟青年部主催で、第3回世界ろう青年キャンプが開催されました。この時、日本人4人が参加し、アジア地域で青年キャンプを開催してはどうかと打診があったようです。

当時、私は、全日本ろうあ連盟青年部の役員を担っていたため、その報告を受け、驚きとともに、新たな道が開かれた瞬間でした。

何のためにアジア地域でキャンプを実施するのか?

当時の私は国際手話はおろか、国際的な付き合いもなく、キャンプを立ち上げるだけの知識もノウハウもありませんでした。

まずは、キャンプの必要性を探りました。“国を超えての交流”これが最大の利益に繋がることに着目しました。欧米では、ろう者は自国の手話表現を持ちながらも、国を超えて情報交換や交流をしています。

それに引き替え、日本を含めたアジア地域では、一般ろう者が他国と交流することは、そうありませんでした。

なぜでしょうか?

1.国境を超える手軽さがない(交通、国交、など)。2.個人の所得が低い。3.言語が異なる(欧米ではアルファベットが国によって形を変えるような言語差だが、アジア地域では記述から発声からすべてが言語によって異なる)。4.文化が異なる(欧米では、全域に三大宗教を主とした大きな流れがあるが、アジア地域は、国によって宗教、文化、習慣が大きく異なる)。

私個人の考えですが、これらがアジア地域の国同士の交流を起こしにくくしていた理由ではないかと思い、改めて、アジア地域での交流を深めたいと強く願うようになっていきました。

まずは日本でキャンプを実施し、これを契機に継続をする!さらに、アジア青年部を設立する!と、目標を定め、活動を始めました。

第3回アジア青年キャンプを日本・宮崎県で!

全日本ろうあ連盟青年部として実施することを確認し、全日本ろうあ連盟に開催立候補の承認をいただきました。次に、第16回世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議inインドネシア(2004年11月)に、青年キャンプ開催国立候補として出席しました。フィリピンも立候補してきました。各国がプレゼンを行なった後、6対7で日本での開催決定となりました。

2年間の準備期間を経て、2006年10月31日~11月5日宮崎県宮崎市で、念願の青年キャンプが開催されました。WFD RSA/P(世界ろう連盟アジア/太平洋地域)加盟国からはバングラデシュ、インドネシア、イラン、日本、マカオ、モンゴル、ネパール、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、シンガポール、タイと、非加盟国からはカンボシア、ベトナム、ミャンマーの合計15か国、50人の参加があり、大成功のうちに終えることができました。

One for All, All for One『一人はみんなのために みんなは一人のために』

これは宮崎でのテーマです。アジア太平洋ろう青年部設立への足掛かりとして、3つの事柄を学び合いました。

1.リーダーシップについて学ぶ。2.アジア太平洋ろう者の社会・生活について学ぶ。3.各国の言語、文化、経験についてお互いに相互理解を深めていく。

アジア青年キャンプの継続開催と、ネットワークの構築を!

このキャンプに参加したインドネシアの青年が感銘を受け、次は自国で開催したい!と早くも燃えていました。私も彼の思いを支えました。いろいろアクシデントはあったものの、2008年6月にインドネシアで第4回が開催され、約18か国から参加者が集まりました。第4回の特徴は、キャンプ参加者とは別に各国の青年部代表も集まり、連日、今後のアジア青年部設立に向けて意見交換会を行いました。また世界ろう連盟青年部役員も(世界ろう青年部会議をインドネシアへ誘致)キャンプを共に過ごし、最終日には世界ろう連盟青年部役員とアジア各国の青年部代表が集い、意見交換会をすることができました。

遂にアジア青年部設立へ!

アジア青年部設立に賛同、後援してくださったマカオのClarissa氏(澳門聾人協会理事長)、韓国のLim氏(韓国ろう協会ソウル市中区ろう協会区長)と私の3人で何度も会議を行い、アジア青年部設立準備委員として動いてきました。

2008年12月にネパールのポカラにおいて、第20回世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議が開催されました。この会議でアジア青年部設立の議案が取り上げられ、満場一致で承認されました。本当に感無量でした。間もなく、アジア青年部設立の情報は世界中のろう青年に知れ渡り、世界ろう者会議in南アフリカ(2011年)では、その取り組みも報告し、啓蒙活動に追われる日々となりました。

未来は青年のもの!

2010年10月、アジア青年部が発足して初の第5回アジア青年キャンプがマカオで開催されました。政府関係者も集まり、素晴らしい式典が行われました。

参加者は、前回から引き続き参加された方や、その仲間たちも見られ、後者が目立つようになってきました。発展途上の経済的に厳しい国でも、「公式行事として明確な目的が掲載された資料を添付し、政府へ渡旅費を申請できることが最大の喜びと成果」と、耳にするようにもなりました。これは、単に旅費が貰えるだけでなく、聴覚障害者自身が政府とコンタクトできるようになったということであり、非常に大きな成果と言えるでしょう。

この青年たちが将来、政府と対等に交渉するためのノウハウを得て、近隣の国々のろう者ネットワークを構築し、いつかはその国のろう協会の顔として、世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議に出席してほしい。その日が遠くないであろうことを、今からとても楽しみにしています。

(しまもとやすのり 財団法人全日本ろうあ連盟理事)