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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年11月号

列島縦断ネットワーキング【岩手】

みちのくTRY
~復興に向けて障がい者も住める街づくり~

八幡隆司

みちのくTRYとは

TRYとは1986年に始まったバス、鉄道のバリアフリー化を訴える車いすでの野宿旅イベントのことです。これまで大阪―東京、旭川―札幌、仙台―盛岡、高松―松山、鹿児島―福岡、福岡―東京間など全国を車いすで歩いた歴史があります。今は海を越えてアジアの国々でも行われています。

岩手でも復興に向けて障がい者の住みやすい街づくりを訴えていこうと、被災地域である岩手県沿岸部を歩いていこうと企画し「みちのくTRY」という名称にしました。3月に実行委員会を立ち上げ、8月19日から31日までを実施期間とすることにしました。

みちのくTRYとして、次のような意味を込めることにしました。

1.東日本大震災犠牲者への追悼、2.バリアフリーチェック、3.市民を巻き込んだイベント、4.行政への要望活動(防災・街づくり)、5.アクセスへの要望活動、6.障がい当事者が今後の東北の福祉を担うためのエンパワメント。

これら6つを目的とし、岩手県の宮古市田老町から陸前高田市の奇跡の一本松までの150キロを歩くことにしました(31日は盛岡での要望活動)。

「災害から復興する街が障がい者の住みやすい街となってほしい」、また「あらためて被災沿岸部を見ることで全国からの息の長い支援を呼びかけたい」、参加者それぞれのいろいろな想いを、被災沿岸部を歩くことで全国に発信していきたいと参加者を募りました。途中、沿岸部の役所に要望書を出したり、地元の人と交流会をしたり、街の人へのアピール活動などさまざまな活動も合わせて計画しました。

障がい当事者の力強さをアピール

最初、参加者が集まるのかなと心配もしましたが、締切を過ぎてから参加申し込みが増え、当初30人程度で考えていたみちのくTRYですが、毎日40人を超える参加者となりました。最終日には100人近くになりました。

沿岸部の道はアップダウンが多く、長いトンネルがあるなど危険を伴うところもありましたが、たくさんの方々から声援をいただいたことで事故もなく、ほとんどの参加者が元気一杯150キロの道のりを完歩できました。

150キロという道のりは応援をいただいた方からも「えっ!本当に150キロの道のりを歩くの?」と驚きの声がたくさんありましたし、最初の1日、2日目は自分たち自身でも「最後まで歩き通せるやろか?」と不安な気持ちもいっぱいでした。どれくらいの間隔で休憩を取ろうか。車の伴走はどのようにするか。歩くスピードは? 最初はいろいろ模索しながらの歩き方になり、思った以上にゆっくりとしたペースになりました。1週間を過ぎるあたりから、みんなの呼吸もぴったり合い、お互いの声かけや沿道の人たちへのアピールなど、みんなが声を出し合いながら歩くことができるようになり、声を出すことで歩くしんどさをカバーできるようになりました。前半より後半の方がみんなの元気さが増していく感じでした。

岩手県沿岸部は被災前からホームヘルパーなどの居宅支援サービスが少なく、障がい当事者本人のがんばりや家族に頼る生活を余儀なくされている部分があります。

しかし、県外と県内の障がい者が交流する中で、もっと当事者が住みやすい地域を作るためには、地元の障がい者のいろいろな要望を行政や地域の人たちに訴えていくことが必要だということが宿舎での交流会で話し合われ、参加した障がい者の力強さが日に日に増していきました。

物理的なバリアより心のバリアをなくすことが大切

過去のTRYでは野宿をすることが多かったと聞きましたが、沿岸部は津波の危険があること、地元の障がい者の参加を呼びかけるにあたって少しでも多くの人が参加できるようにということで野宿はせずに、宿舎や休憩地については避難所になった公民館などを利用しました。

TRYでは、段差やトイレなどさまざまなバリアの問題、たとえばお風呂はどうするのか?など障がい者にとっては多くの課題がでてきます。神奈川にある「やさしくなろうよ」というNPO法人が移動トイレ車を出してくれることになりました。それでも24時間対応は無理なので、洋式のポータブルトイレも準備しました。褥瘡(じょくそう)ができやすいので、硬い床には寝られないという障がい者もいて、エアーマットも3つ用意しました。その他スロープ、お風呂用チェア、バスマットなどを準備し、バリアの多い建物に備えました。それでもお風呂などは介助者が苦労しながら入る状態でした。ただみんなで支えあうことで、バリアの多いところでも何とか生活できるんだなということが実感できました。

このことを通じて、障がい者にとっての避難所は、単に物理的なバリアを何とかするということが求められるのではなく、障がい者と健常者が共に支えあう関係をつくることが最も大切なのだと感じました。

ただ、途中2回行なった避難訓練ではどちらも10分程度で避難は終えられたものの、これは屋外に出ている状態で、介助者がそばにいての時間ですから、実際に災害が起きた時に自宅から避難するとなると、もっと時間がかかるし、だれが救出に当たるのかの問題もあり、普段の近所等との付き合いが重要だということも痛感しました。

障がい者の住みやすい街づくりに向けて

今年はお盆開けにしては驚くほど暑い日が続き、TRYはかなり過酷な条件となってしまいました。

沿岸部の障がい者と県内、県外の障がい者との交流ではお互いの地域での福祉制度の違い、街のあり方などの違い、そしてそれぞれの生き方の違いなどがあるなか、今後の街づくりについて活発に議論するとともに友情を深めることができました。今後の東北の障がい者運動の元気の源ができたのではないかと感じています。

短いイベントでしたが、参加者自身が得るものが多くあったし、街の多くの人たちに障がい者も当たり前に社会に出て暮らしていきたいことをアピールできたと思っています。

「TRYのゴールはゴールではない。これからの岩手の復興に向けた新たなスタートだ」ということを、参加者みんなで確認しました。

(やはたたかし みちのくTRY実行委員会)