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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

第2次アジア太平洋障害者の十年(2003年~2012年)の評価
~手話と情報保障~

宮本一郎

1 はじめに

第2次アジア太平洋障害者の十年「びわこミレニアム・フレームワーク」のうちの「優先領域:7項目」について、今回は、「1.障害者の自助団体および家族・親の会」と「2.女性障害者」を取りあげる。

2 聴覚障害について

聴覚障害者には、手話が主なコミュニケーション手段である「ろう者」と、音声言語が主なコミュニケーション手段である「難聴・中途失聴者」とがいる。情報保障のあり方は前者が「手話通訳」で、後者が「要約筆記」「キャプション」である。「要約筆記」は、手書き文字をスクリーンに映すという日本独自の手法であり、日本以外でこの手法を採用しているところはない。

さらに、視覚と聴覚の重複障害をもつ「盲ろう者」が存在し、日本では障害者手帳を有する「聴覚障害者」38万人のうち約2千人が盲ろう者だといわれている。盲ろう者には、全盲から、わずかな視力を持つ弱視や視野狭窄と障害の程度がさまざまであり、かつ、盲ろう者になる経緯などでコミュニケーション手段と情報保障は多様であるが、主な方法として、触手話と指点字があげられる。触手話とは、盲ろう者が相手の手話を触りながら理解を進めていく方法で、手話の習得後、視力を失った盲ろう者が主に使用している。指点字とは、盲ろう者の両手の3指1)に、通訳者の両手の3指を載せて点字を打つ方法で、音声日本語を獲得した後に失聴した盲ろう者が主に使用している。

第2次十年の大きな動きや特徴として、情報保障の推進があげられる。ろう者組織と難聴・中途失聴者組織の間で協力関係が築かれ、盲ろう者組織が新たに発足し、情報保障に関する支援組織も全国レベルで発足が相次いでいる。加えて、多くの国々で、聴覚障害者自らが自らの存在と手話の必要性をアピールし、啓発活動が積極的に行われ、テレビ画面に手話通訳ワイプや字幕挿入、公共の場での手話通訳者の配置など、さまざまな場面に手話通訳と字幕が提供されている。

3 アジア太平洋における聴覚障害者の自助組織および支援団体

アジア太平洋地域内の聴覚障害者組織は、現在、当連盟の上部組織である世界ろう連盟(WFD)に、18か国・2地域2)が加盟している。未加盟国はいくつかあり3)、全国組織レベルでの発足がまだなされていない国もいくつかある4)。WFD内に6地域事務局を設けてあり、その一つがアジア太平洋地域事務局(以下「WFD RSA/P」)で、現在、全日本ろうあ連盟本部事務所内に置かれている。

各国の聴覚障害者の社会参加と差別撤廃への取り組みには、聴覚障害者自身による組織が不可欠であり、かつ、政府・行政に対する諮問権を持つことが重要である。この組織発足の支援について、主に日本がアジア地域に、オーストラリアとニュージーランドは太平洋地域に注力している。聴覚障害者組織に欠かせない支援組織は、手話通訳者組織などの情報保障に関わる組織であり、聴覚障害者の社会参加をはじめ、政府・行政への折衝などを支援している。日本では、手話通訳者組織と要約筆記者組織があるが、世界各国では、手話通訳者組織が主流である。

日本の手話通訳者組織5)が、アジア太平洋地域において、すでに聴覚障害者組織が存在する国へ聴覚障害者組織との協力支援関係の助言などを行い、手話通訳者組織の結成発足を支援している。この取り組みは、2008年から始まり、タイ、ネパール、フィリピンなどで手話通訳者組織が発足している。国際組織として世界手話通訳者協会(WASLI)があり、地域組織としてWASLIアジアとWASLIオセアニアで構成されている。4年に1回開催の「世界ろう者会議」、毎年1回開催のWFD RSA/P定期会合と共に開いている。

しかし、聴覚障害者を慈悲対象とみなす社会風潮から脱せない地域では、聴覚障害者の自立を促し社会参加を支援すべき通訳者が聴覚障害者の指導的立場になるなど、その意識の改革に多くの課題を抱えている。

4 アジア太平洋における女性聴覚障害者

WFD RSA/Pは、2007年から、女性聴覚障害者に関する組織・支援などに関するヒアリング調査を行い、情報収集と助言を行なっている。女性聴覚障害当事者の組織構成は、国によって異なり、聴覚障害者組織内に組み込まれたところもあれば、独立して聴覚障害者組織との協力関係を築いているなどさまざまである。

女性聴覚障害者組織が存在する国は現在、日本、韓国、ネパール、パキスタンなどでいまだに少ない。アジア太平洋の多くの地域では、宗教的文化的な事情により、聴覚障害者組織が女性聴覚障害者を支援するより、女性聴覚障害者同士の自助活動から始めることが望ましいと思われることが多い。

第2次十年の最終年の今年11月に香港で開催されたWFD RSA/P主催の「第24回アジア太平洋地域代表者会議」では『女性聴覚障害者の集い』が初めて企画された。今後、情報交換などの機会が必要かどうか検討された。

(みやもといちろう 全日本ろうあ連盟国際委員会委員長)


【脚注】

1)3指とは、人差し指、中指、薬指。

2)2地域とは香港とマカオで、現在中国に属するが、聴覚障害者組織は中国聴覚障害者協会とは別に独立していて、WFDでは正式会員となっている。

3)ブルネイ等。

4)ベトナム、ミャンマー、ラオス等。

5)日本は、全国手話通訳問題研究会と日本手話通訳士協会がある。