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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

第2次アジア太平洋障害者の十年の成果と今後の課題
―情報バリアフリーと就業問題の取り組みを中心として―

指田忠司

2003年からの「第2次アジア太平洋障害者の十年」のテーマは、「インクルーシブでバリアフリーな権利に根ざした社会」を築くことであった。私たち視覚障害者は、いわゆる「びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」とリンクする形で、2002年10月に大阪で開催した「アジア太平洋ブラインド・サミット会議」で10年間の行動目標を採択した。

また、このサミットの決議を受けて、WBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)では、2003年(シンガポール)、2007年(中国)および2010年(日本)に開催された総会において、加盟各国における目標達成の支援とともに、アジア太平洋地域全体の枠組みの中で、BMF達成に向けた取り組みを行うこととした。

ブラインド・サミット等の会議では、視覚障害者の障害特性に着目し、情報のバリアフリー、アクセシビリティ技術の開発と推進、教育、福祉、就業問題への抜本的な取り組みなどが決議されているが、ここでは、BMFとの関連で、これら多数の課題の中から、この10年で大きく進展した情報バリアフリーと就業問題の二つの分野について、内外の取り組みの成果と今後の課題について述べてみたい。

情報バリアフリーに関する取り組みの成果

ブラインド・サミットの決議で、進展するICT(情報通信技術)へのアクセシビリティを確保することが規定されたことと関連して、WBU(世界盲人連合)では、WSIS(世界情報社会サミット)の場面で、視覚障害者の立場を訴えたほか、国連の障害者権利条約審議の過程でも、この点に関する条項を盛り込むことなどに努力し、一定の成果を上げることができた。

他方、国内の動きをみると、視覚障害者に対する情報提供の面で、この10年間の最大の成果は、2009年から運用が始まった「視覚障害者情報総合ネットワーク事業」と、その前提となる著作権法の整備を挙げることができる。

視覚障害者情報総合ネットワーク事業では、「サピエ」と呼ばれる電子図書館を通じて、点字図書データやデイジー規格の音声図書データを提供するほか、地域生活情報なども配信している。システムの管理は日本点字図書館が行い、コンテンツの収集運営は全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)が行なっており、システムの整備・管理については国が支援している。このネットワークの登録利用者は現在1万人を超えており、パソコンを使ってインターネットに自力で接続できる人だけでなく、携帯端末器からダウンロードして図書を聴くなどの新たな方法も開発されている。

「サピエ」のような、視覚障害者を対象とする大規模な電子図書館網は世界的にみても初めてのものであり、アジア各国を含め、世界がその運用を注目している。そのようななか、今年4月末から約1か月間、予想外のトラブルのため、システム全体が停止する事態が発生した。聞くところによれば、システムの更新に伴い生じたトラブルが原因であったが、データのバックアップ体制が十分でなかったため、サービス再開までに長期間を要したという。

このように、情報提供の場面でコンピュータ・ネットワークに依存する度合いが今後ますます進展することを考えると、バックアップのための機器整備等に充てる予算と人員の確保などが喫緊の課題と言える。

情報バリアフリーにおいて、視覚障害者等の利用者のアクセシビリティを高めるためには、当該情報に対する著作権者の理解と協力が不可欠である。その意味で、近年における著作権法の改正は大きな意義を有している。その一つに、点字データや録音物のデータを公衆送信網を通じて配信することができるようになったことである。この改正無くしては、前述の「サピエ」のサービスは実現できなかったであろう。

就業分野での取り組み

日本をはじめ、アジア各国では、視覚障害者がマッサージ業に従事する例が多くみられることから、WBUAPでは、1991年から「マッサージ・セミナー」を開催してきたが、2002年からの実績をみると、マレーシア、香港、日本、中国(北京)、韓国と2年おきに開催され、2012年には再びマレーシアで開催されている。

この分野で注目されるのは、JICA(国際協力機構)による視覚障害者のマッサージ就業を支援する指導者養成コースの提供である。この事業は2002年度から2005年度にわたって実施され、アジア各国から指導者が沖縄に招聘され、3か月の講習を受講した。帰国後は、自国での視覚障害者支援に活躍している。

他方、WBUAPでは、マッサージ以外の就業機会の拡大に向けて、雇用経済強化委員会を新たに設置し、各国における好事例の収集に努め、2010年からホームページを通じた情報提供を開始した。この事業は、WBUの雇用戦略ともリンクし、各国の関係団体の協力を促進することをねらっているが、まだ緒についたばかりであり、コンテンツの充実、雇用分野の専門家や企業関係者への啓発など、課題は多い。

(さしだちゅうじ 日本盲人会連合国際委員会事務局長)