音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

フォーラム2012

障害のある人の就労支援~
ILO条約等の国際的な潮流とわが国の現状と課題

高橋賢司

1 ILO159号条約と現況

ILO(国際労働機関)の障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(以下、159号条約と称す)は、第69回総会で1983年6月20日採択され、159号条約は1985年6月20日に発効している。日本は、1992年6月12日批准している。159号条約1条2項では、「加盟国は、職業リハビリテーションの目的が、障害者が適当な職業に就き、これを継続し及びその職業において向上することを可能にし、それにより障害者の社会における統合又は再統合の促進を図ることにある」とする。

最近では、2007年全国福祉保育労働組合(福祉保育労)は、ワーカビリティインターナショナル(WI)と日本障害者協議会(JD)の協力を受け、159号条約違反について申立てを行い、福祉保育労は、障害者雇用促進法に基づく法定雇用率1.8%が達成されずにいることや、授産施設(就労継続支援事業B型)へ労働法が適用されない点が、同条約に違反していると主張した。ILOは2012年3月まで三度にわたって専門委員会による報告書を発表している。

2 障害のある人の雇用をめぐるわが国の主な労働・福祉政策とその現状

わが国は、雇用率制度によって就労を促進する施策を講じてきた。一般事業主の場合、この法定雇用率は1.8%となっている。しかし、厚生労働省の労働政策審議会は、平成24年5月23日、諮問を受けていた民間企業の法定雇用率を2.0%(国及び地方公共団体並びに特殊法人:2.3%、都道府県等の教育委員会:2.2%)とすることなどを盛り込んだ「障害者雇用率等について(案)」について、答申した(平成25年4月1日施行予定)。平成25年度より、精神障害者保健福祉手帳を有する精神障害のある人をカウントするのも義務となる。

雇用率制度では、特例子会社での障害者の雇用数を親会社の雇用率に算入できることとなっており、平成22年3月末日現在で277社が特例子会社として認定されている(障害者白書(平成22年度版))が、これによって、ようやく雇用率を達成している企業が多く、本当の意味での障害者の統合が果たされているとは言い難い。

また、重点施策実施5か年計画(後期5か年計画)(2008年度~2012年度)では、2013年度の(民間事業所における)障害者雇用数の数値目標は、64万人となっている。工賃については、「工賃倍増5か年計画」により工賃を引き上げる対策を講じている。

その上、一般就労できない障害のある人に対しては、障害者自立支援法において、福祉的就労の場合に(特に、作業所の障害ある労働者については)、就労継続支援A型(通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である者を対象)、就労継続支援B型(通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が困難である者)、就労移行支援(就労を希望する65歳未満の障害で、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者を対象)とに分けて、福祉政策を講じてきた。特に、就労継続支援A型は労働者であり、就労継続支援B型については、労働者ではないという扱いがなされていた。

また、これらを実施する作業所・授産施設などの利用料が無料にはなっておらず、憲法14条、25条違反を理由として障害者が裁判所に提訴したという事実は、記憶に新しい。来年4月に施行される障害者総合支援法においても、利用料負担がかかる点は、完全には改善されていない。

3 これらの施策および現状とILO159号条約の関係

159号条約3条では、職業的リハビリテーションが、障害者に対しての「職業リハビリテーションに関する適当な措置」の利用確保および「開かれた労働市場における障害者の雇用機会の増大」を図ることを目的とし、4条では、それが障害者である労働者と他の労働者との間の「機会均等の原則」を求めている。

同条との関係では、まず、雇用率制度が問われることになる。2010年6月時点での雇用率は1.68%であるが、これは依然として法定雇用率を下回っていることを示し、法定雇用率を達成した企業の割合も47%であることから、機会均等のための雇用促進が必要であるのは明白である。重度障害者のダブルアカウントが、就労を促進しているのか、阻害しているのかについては、意見が分かれているところである。

また、一般就労できない障害のある人について、厚生労働省によれば(2010年)、全施設の平均工賃(賃金)は16,894円となっている。さらに、就労継続支援A型事業所75,746円、就労継続支援B型事業所13,087円、福祉工場119,557円、入所・通所授産施設12,590円、小規模通所授産施設8,208円(厚生労働省、2009年)となっている。これには、同B型に対して労働法規、特に最低賃金法が適用されていないという困難な問題が関係している。

この他、これらを実施する作業所・授産施設などの利用料が無料にはなっていないが、この点については、先の専門委員会が、「1955年の『職業リハビリテーション(障害者)に関する勧告』(第99号)が職業リハビリテーション・サービスの無料提供を提言していることを想起する」と指摘しているのは、重要な事実である。

4 障害者の権利条約批准に向けて解決すべき課題

2006年12月、障害のある人の権利に関する条約1)とその選択議定書が第61回国連総会において成立した。同条約について日本政府は批准の必要に迫られている。同条約27条(j)において、「開かれた労働市場において職業経験を得ることを促進すること」、(k)「障害のある人の職業的リハビリテーション」が要求されており、ILO159号条約と類似した事項が要請されている。

また、同条約3条、27条(a)において、差別が禁止されているだけではなく、27条において、(a)雇用に係るすべての事項に関し、障害に基づく差別が禁止され、(i)においては、「職場において障害のある人に対して合理的配慮が行われることを確保すること」が要請されている。

雇用分野については、内閣府障害者政策委員会「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての差別禁止部会の意見でも、雇用における差別禁止と「合理的配慮」の義務化が提言され、厚生労働省内でも審議会において審議が開始されるが、これらの義務化が求められるとともに、雇用率制度に基づく雇用納付金制度との関わりが今後問われていくことになると思われる。これについては、合理的配慮の義務と納付金とを切断した場合、障害者が自ら合理的配慮を裁判所に求めざるを得なくなる。

これに対して、合理的配慮の義務と納付金とを組み合わせ、使用者が合理的配慮をした場合に国が納付金に基づいて助成金を支払う場合、過去の助成件数からみて、「助成の伴った合理的配慮」の方が、結果的には配慮が一層行きわたるようになり、権利の一層の実現に貢献するものと考える。

5 今後の課題

今後は、職業リハビリテーションについても、民間の活力利用による職業訓練施設を充実させ、これに国が助成していく取り組みを一層深め、障害者の職業能力の向上を促進しなければならない。また、職業リハビリテーション以外の生活リハビリを目指して、障害者就業・生活支援センターの増設、人員の拡大が要請されよう。海外において、あっせんのみならず、職業訓練、総合的な就職支援を民間の力を利用しているのが模範となろう。

また、障害者自立支援法上の就労継続支援B型事業所については、労働契約法、労働基準法の労働者の概念の見直し、これに伴って、賃金補助を行うかどうかの検討が必要であると考える。ドイツの作業所における労働者が、労働法規が全面的に適用される「労働者」そのものではないが、「労働者に類似する者」と扱われ、労働安全衛生、労働時間関連の法律の適用があるのは、注目に値する。さらに、作業所に対し、ドイツの州や市によって多額の補助金が支払われ続けている点も重要な示唆を与えると考える。

(たかはしけんじ 立正大学准教授)


【注】

1)同条約の翻訳には、長瀬修/東俊裕/川島聡編『障害者の権利条約と日本―概要と展望』生活書院、2008年、207頁以下を用いる。