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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年3月号

大震災から2年、ALS患者の苦悩

長尾有太郎

2年前の震災当日、私は気管切開をしたばかりで、初めてのレスパイト入院中でした。ちょうどベッド上での排泄が終わり一息ついた時に、いきなり大きな揺れがきました。

当時の私は、地質調査会社を経営しており地震の知識はありましたが、生まれて初めて体験するもの凄(すご)い揺れに驚いていた時、看護師にベッドに押さえられて助かりました。その後すぐに電気が止まり、担架に乗せられ余震が治まるのを待ち、その後、病院の食堂の中で、発電機で2日間過ごした後、電源確保のために東北大学病院へ搬送され、自宅の復旧を待ち、やっと自宅に戻ることができました。

その後、地震や津波で大変な困難を体験した患者や、亡くなったり行方不明の患者の情報が入ってきました。

地震直後に津波が1階まで押し寄せ、家族やヘルパーが命がけで2階まで運び上げて助かった患者、奥さんとヘルパーが患者を助け出した後、電源がないので何日も交代でアンビューをし続けた話などを聞くたび、同じ人工呼吸器を着けた患者として、とても他人事ではない恐怖を感じました。大地震から2年経とうとしていますが、地震当日の揺れや電源を失ってからの不安、電源を求めて医療機関を転々としたことなど、今も昨日のことのように思い出します。

さて、私の住む仙台市青葉区の街は、新築している住宅や修繕中のマンション・ビル等がまだ目立つものの、日常生活においては、震災以前と変わりない状況に戻っています。ALS患者から見ても、物質的な不足や不満を訴える声はほとんど聞かれなくなり、いまだ余震とみられる揺れが時々起こるなか、バッテリーや発電機、足踏み式の吸引器等、ある程度在宅でしのげるよう、皆それぞれ準備をし、形的(表面的?)には落ち着いたように見受けられます。

しかし、2年という月日は、被災地からすれば『まだ2年(たったの2年)』なのです。そして障害者、健常者にかかわらず、皆、心の中にあの震災を引きずっています。

私たちALS患者やその家族は、震災当時、命を守ることに必死でした。本当に、生と死に直面し、たくさんのエネルギーを要しました。そのエネルギーが大きければ大きいほど、現在、無力感や虚無感を訴える方も少なくありません。ふとした時に、当時の恐怖を思い出したり、家族や親族を亡くしたことによる喪失感から、震災前のように外出したり、人と会ったりする気力が出ないのです。被災の大きかった沿岸部の患者や家族はもちろんのこと、仙台市内に住む方でもそういった声を聞きます。

こういった気持ちは震災を体験した者でなければ理解しがたいかもしれません。もう少し時が経てば解決してくれるでしょうか? 震災で受けた心の傷が癒える長さは人によって違うと思います。何度も言いますが、やはり、私たちからすれば『まだ2年(たったの2年)』なのです。

それから、もう一つ、どうしても訴えたいことがあります。それは、マンパワーの不足の問題です。

実際にヘルパーの資格を持つ方は大勢いますが、その中でも自分たちALS患者のことを理解して、安心して任せられるスキルを持つヘルパーはほんの一握りしかいません。

私たちALS患者が生きていくためには、たくさんの人の支援が必要です。ヘルパーをはじめ、訪問看護師、往診の先生、訪問リハビリテーションやマッサージ師など医療福祉の専門職だけでも、私たちALS患者を支えてくださる方は30人は優に超えます。

しかし、今回の震災のような大規模な災害が起きた時に、こういった方々がすぐに駆けつけてくれるとは限りません。緊急時には、介護や福祉従事者ではなく、近所の方など一般の方に力を貸していただくことも十分に考えられます。そのようなことからも、私はなるべく多くの一般市民の方に、私たち患者がALSと共に生きる姿を知っていただきたいと思っています。

現在、私は講演のために外出することもあるのですが、外出するために必要なヘルパー派遣さえもままならないことが多いのです。特に2年前の震災の後は、「在宅ケアの環境が整っていれば十分ではないか」という空気が、役所からも事業所からも感じられます。まるで、ALS患者が外出することがぜいたくであるかのようです。私の住む地域でもこのような状態ですから、沿岸部の震災後の復興が遅れ、ヘルパーや福祉車両の不足している地域に住む患者や家族は、ますます不便な思いを強いられているでしょう。被災地、特に沿岸部の患者や家族の方は、支部の総会や交流会等に全く来なくなってしまい、生の声をお聞きすることができなくて本当に心配しています。

ALS患者は、出かけないのではなく「出かけられない」のです。この問題は、おそらく震災の影響の無かった地域でも起きている特別のことではないと思いますが、被災地ではさらに悪化していると聞いています。

私は、当事者として、宮城県支部の副支部長として、震災を受けた地域の人たちが1日でも早く心の平和を取り戻し、患者も家族も、行政や事業所もすべて、前向きに考え、前へ進めるようになっていければと願っています。

(ながおゆうたろう 一般社団法人日本ALS協会宮城県支部副支部長)